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136.小学校最高学年後編11
しおりを挟む家族たち、今はともに眠っているナルアが寝静まった頃、ウェンが部屋を訪ねてきた。わざわざナルアの目を避けたということはナルアには聞かせられない類の話なのだろう。念の為ナルアには眠りの魔法をかける。偶に起きていることがあるからな。
「報告があるっす。」
「聞こう。」
「今日は第四王子の側近やってるエルってやつが訪ねてきたっす。それでそいつが言うにはそろそろクーデターが起こるっぽいっす。第四王子も第一王子に付くそうっす。なので王と第三王子の排除に協力してくれないかって話だったっす。一応裏取りはしたっすけど、概ね事実のようっすね。」
「…そうか。ふむ、そうだな…第三王子の排除には手を貸してやってもいい。おもしろい事が出来そうだしな。」
そう言って笑うテスラさんの顔は悪魔のようでとても怖さを感じさせるとともに、悪に染まった顔は美しくも感じられた。
「何をするつもりっすか?」
「例えば……」
なんて危ない相談をしながら夜は更けていった。協力すると決まればテスラさんの行動は早く、矢継ぎ早に俺は指示を与えられる。俺だって第三王子がナルア君にした事は忘れてないっすからね。
裏で動くのは俺の得意分野っすから、まずは協力する旨を第一王子に申し出た。その申し出は案外簡単に受け入れられた。テスラさんの指示通りに第三王子を欲している者を探す。
出来るだけ第一王子の力になれる者で、見た目が優れないアルファ。あんな王子でも容姿はオメガだけあってそれなりだし、兎という種族は非常に繁殖に適しているので、欲している者は少なくなかった。
そして見つけ出したのは、商人として成り上がった豚のアルファだった。優秀ではあれど、年も40代後半で、頭も禿上がっており巨漢の男だった。これまで仕事をするばかりで、金だけは得たが、妻帯者でもないので丁度いい男だ。そして何より他国のお偉い方とも繋がりがある。
「テスラさん、見つけたっすよ。」
「ふむ、あの兎への嫌がらせには充分そうだな。無能でもないようだ。味方にするにはいい男なのではないか?」
「俺もそう思うっす」
「作戦の決行はいつだ?」
「第一王子はすぐにでもって言ってるっすよ。テスラさんの予定次第ってことらしいっす。」
「今日の夜にでもか?」
「そうっすね」
「ふむ、それでは今夜にでも実行するか。」
「了解っす。」
早く動けばそれだけ早く退位を促せるのだから第一王子としても、早く動いてくれる分には問題ないとのことだった。ナルアには何も伝えないまま、この作戦は進んでいった。商人の男を連れて、第一王子の協力のもと、王城へ上がる。
第三王子の部屋に入るのは、王側の警備がいるので面倒だったが、テスラさんと俺がいるので事を荒立てずに侵入するのも、簡単だ。幻惑魔法をかけられた兵たちは、魔法が解けても何も覚えてはいないだろう。
「な!だ、だれ!?侵入者だよ!!早く捉えろ!!」
「ミラージュ…」
わめき散らすのを無視してさっさと幻覚魔法を掛けるテスラさん。その腕前は確かなもので、すぐに掛かったらしい第三王子は、フラフラと商人の男に縋りつく。
「え…?あれ?なんでテスラがいるの?あ!やっぱり僕が好きで会いに来てくれたんだ!」
「そうですよ。是非番になっていただきたい。」
「うん!もちろんだよ!テスラのために今まで独り身でいたんだもん。ねぇ、しよ?僕、兎だから何時でも出来るの知ってるでしょ?」
誘うようにフェロモンを出す兎。幻覚魔法は上手くかかっているようで、豚獣人の男をテスラさんだと思って誘っている。豚獣人のオトコも楽しげに誘われてベッドへと入る。
面食いで綺麗な者ばかりを側に起き、不細工だというだけで近寄らせもしなかったあの兎の顔が絶望に染まるのを想像するだけで暗い笑みが溢れる。そこまで見届けて、さっさと俺達は部屋を出た。そしてその足で第一王子の元へ向かう。
「お久しぶりです。テスラさん。」
「ああ、そうだな。…これ以上は首を突っ込むつもりはない。ツェルトも協力しているようだし問題はないだろう。」
軽い調子で挨拶してきた第一王子は、魔道士団長をしていたテスラさんとはもちろん面識がある。テスラさんは釘を差すように先んじて今後のことを口に出した。
「ええ、騎士団長も魔道士団も協力してくれているので問題はありません。…やはりこの国に戻るつもりはないのですよね?」
「無い。」
「きっぱり仰るのですね…。」
「言葉を濁したところで無意味だろう。」
「そうですね…残念です。…それで一つ聞きたいのですが、幻覚魔法はいつ解かれるのですか?」
「そうだな…輿入れが本格的に済んだ後だろう。そうでないと面倒なことになりそうだからな。」
「わかりました。その予定で考えておきます。今回はご助力ありがとうございました。」
「構わない。復讐がしたかっただけだからな。」
「それでも感謝しております。後は王を追い落とすだけですので、上手くやりますよ。第四王子も育ってきた所ですしね。」
「…そうか」
「ええ、まぁ、ここから先はテスラさんには関係のない話ですね。」
「ああ、これで失礼する。もう関わることはないだろうが。」
「…何かあれば何時でも力になりますよ。私に出来ることなど高が知れていますがね。」
そんな言葉を背に受けながら部屋をあとにする。テスラさんはさっさとナルアくんに会いたいらしく、帰るというので部屋を出て別れる。俺はと言うと、特に問題なく番になったのを見届けて、第一王子と商人の男を繋いで、今後のことを話す彼らを置いて帰った。
それ以上は、俺には関係のないことっすからね。1週間程動き回って疲れたっすけど、まぁこれで少しは気が晴れたっすね。後は王っすけど、それは俺達が手を出さなくても第一王子がやってくれるだろうから任せるっすかね。
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