不良×平凡

おーか

文字の大きさ
上 下
2 / 22

副総長×平凡2

しおりを挟む





秋夜さんは、歩きながら電話をかけていた。溜まり場?に居る人にシャワー貸してやって、という話をしているらしい。
ゆっくりとした歩みだったが数分で某廊下へと辿り着く。

やはりそこには、俺が放り投げる形になってしまったバケツが転がっており、水が広がっていた。早く片付けなくては。
見ているのかと思っていた、秋夜さんはまさかの普通に手伝ってくれた。とりあえずバケツに雑巾で水を吸っては絞り、水を戻していった。最終的に乾いた雑巾で拭きあげて大体キレイになった。

「これで終わりでいいね?じゃあ荷物取ってきていこっか?」

「あ、はい!手伝ってくれてありがとうございます!」

片づけしている時はあまり気づいていなかったが、こんなに綺麗な人に廊下掃除させたのか……ヤバイ……というか、積極的に手伝ってくれた。好感度バク上がりなんだが。イケメンで優しいとかモテる要素しかない。
掃除して汚れた手を洗いに行って、水を流す。
「んじゃ俺片付けてくるから、荷物取ってきて」

と言ってバケツと雑巾を片付けに行ってくれた。優しい。

「はい、行ってきます」

「ハイハーイ」

急ぎ足でカバンを取りに教室へ入る。もう誰も残っていない教室では、俺の荷物だけがポツンと残されていた。

荷物を持ち、廊下に出ると間もなく、秋夜さんがやってきた。

「秋夜さん、ところでどこに行くんですか?」 

「んー、最初は溜まり場と思ってたんだけど。俺の部屋行こっかなって。いや?一応ひとり暮らしだし。」
 
「いやじゃないですよ。行きましょう。」

「そう?なら良かった。近いからさ。」

そう言われて、ついていった先には立派なマンションが立っていた。
見上げれば首が痛くなるような高さだ。もしかしてイケメンでお金持ちですか?

人ってのは不公平だな…。俺なんて普通の顔と普通の背丈と普通の家庭に育った経歴しかない。(いやまぁそれでも幸せだったと思うけどね?)ついでにモテることもなく、人生の中で彼女がいたこともない。

馬鹿すぎて普通の高校に入ることもできずに、やむを得ず現在の不良高校に進学した残念な頭脳しか持ち合わせていない。というか、現在の不良7割の高校でさえ底辺よ。ちゃんと勉強してるのに……

かなしくなってきたな……泣こうかな…。

マンションを見上げて悲しげな顔をする俺に何を思ったのか、先輩はなんとも複雑そうな顔をしたまま、俺の腕を引いてエントランスに入っていく。

「ねぇ…なんか、ここで嫌なことでもあった?」 

「あ、いえ…天は不公平だなと思って、自分のことを思い返して悲しくなっていました。」

「どーゆー?」
拍子抜けしたように、きょとんとした顔で聞いてくる。そんな顔もカッコイイなっ!!くそー、ずりぃ

「顔も身長も普通だし、モテたことなんてないし……頭悪いし…なんて考えてたら、かなしくて……」

「あはは、オレが恵まれてるように見える?」

「まあ、そうです!俺にないものがいっぱいです!」

「……そっか……オレには誇れるものなんて何も無いんだけどね…」

笑っているのに……どうしてこんなに哀しそうに見えるのだろう。どうしてそんなに哀しそうな顔をするのだろう。この人は、こんなに綺麗な顔も、身長も、不良としても偉いみたいだし。このマンションに住んでいるあたりお金持ちでもあるようだし。

いや、でもだからこそなんだろうか…恵まれてるからこそ、それに群がってくる人も多いのだろうか。

持っているものが多ければ幸せなわけじゃない…そうだよな。俺は母さんも父さんも可愛がってくれたし。友達にも恵まれてると思う。だからこそ幸せだといえる。

この人はどんなふうに生きてきたんだろう…どうしてあんなに慕われているのにこんなに寂しそうなのだろう…。信じられる人は居るんだろうか。

俺が推し量ったところでわかるわけもない。聞いてみたいような気持ちにもなったが、踏み込んではいけないと、踏み込もうとすれば次はないのだと本能的に理解する。まだ……向こうから歩み寄ってくれるまでは待とう。

まあ、俺が仲良くなりたいと思ったって一方的なものでは意味がないし。なぜだか俺のこと気に入ってくれたみたいだけど…。そんな長考をしている間に部屋に到着していた。

「おじゃましまーす」

「はい、いらっしゃい。飲み物取ってくるから適当に座ってなよ。」

「あ、ありがとうございます!」

「ん、紅茶でいい?」

「はい!紅茶も好きです!」

モデルルームのようなオシャレさにくわえて高そうな家具。リビングに通され、座るのは綺麗な深緑のふかふかソファだ。
汚したらヤバそう…。

「はい、どーぞ」

「ありがとうございます!いただきます!」

「ん、クッキーしかなかったけどいい?スナック系はこの間溜まり場持ってちゃったからなくて、なんなら買ってくるけど?」

「いえいえ!そもそも邪魔したお詫びに来てるのに、もてなしていただいて申し訳ないです!というかこのクッキー紅茶にめっちゃ合いますね!ウマいです!!」

「そー?ならいいけど。適当にゆっくりしてってよ。」

「なんかただ寛いでるだけですけど、なんかできることあったら言ってください」

「別に何かして欲しいわけじゃない。ただなんとなく気に入ったから連れてきただけ。」

「なる…ほど…?」

「ここにいてくれればいいから。」

何もしなくていい。ここにいればいい。こんな口説き文句みたいなこと、いくら男でも綺麗な顔の人に言われたら勘違いしそうになるかも…。

俺の何をそんなに気に入ったんだか…。いくらでも秋夜さんを好きになる人はいるだろうに。こんな普通の男子高校生捕まえてそんなこと言わなくてもいいのに。

それからも、秋夜さんはとくに何かを要求することはなく、ただゆっくりと会話してゆったりとした時間が過ぎていった。ほとんど話してたのは俺だけど。きちんと聞いてくれていて、そんな時間は嫌いじゃない。
その最中、俺の顔をやけに見つめてきているのだけが気になった…。気のせいだろうと言い聞かせても、紫色の瞳は確かに俺を見ている。人に見られるのに慣れていなくて、照れくさい。

しかし何かされる訳でもないのにやめてくれなんて言えないよなー。でもその視線がなんだかくすぐったい。

「そろそろお腹減った。」

「そうですね。何か作ります?俺それなりに作れますよ!」

「ご飯は任せる。じゃあ買い物行くよ。うちなんもないから。」

「はい、行きましょう。何作りましょうか?」

「んー、ハンバーグがいい。」

「りょーかいです!美味しいの期待しててください!」

「期待してる。ふふっ」

妖艶な笑みとでも言うのだろうか。そこはかとない色気を感じる。高校生でこの色気。ヤバい。少しの間、秋夜さんを見つめてしまっていたらしい。
ん?と首を傾げる秋夜さん。ぐはぁっ!カッコイイな!くそー!!

「じゃあ着替えて出かけよ」

「そうですね。もう六時半なんですね。秋夜さんの服じゃ大きそうなんですよね。」

「曲げれば着れるでしょ。出来るだけ小さいの探してあげるから」

「ズボンは制服のまま行きますよ。上だけお借りしてもいいですか?」

「ん、ちょっと待ってて。そういえば今日うち泊まってくよね?」

「え?帰るつもりでしたけど…泊まるのは問題ないです!俺もひとり暮らしなんで」

「帰るつもりだったんだ?まだ寝てないのに…?酷いなー」

「す、すみません?確かにそう言ってましたね。」

「ま、泊まってくれるならそれでいいや。食材買いに出るついでに、服も買ってこようね。」

「お金持ってないんで、服借りても?」

「気にしなくていい。俺が出すから。」

「え、でもそれは…。」

「ご飯作ってくれるんでしょ?それに添い寝も」

「えっ!!ええっ?添い寝?するんですか?」

「え?うん、そのつもりで連れてきたけど?駄目だった?」

「だ…めでは…ないですけど…」

「じゃあお腹減ったしさっさと買い物行くよ」

秋夜さんが探してきてくれた一番小さいサイズのシンプルな服を着る。が、それでも曲げないと長いくらいだった。噴き出すのこらえてるのわかってるんですけど?笑うなら思いっきり笑えばいいじゃないか!!
うわ、秋夜さんの服いい匂いする。美形は匂いまで違うのか。

そんなこんなで、極力安いものを選んで秋夜さんに服と食材を買ってもらった。

秋夜さんの隣を歩けば、多くのひと目を集めた。そんな中でも秋夜さんは、少しも気にした様子はなく、慣れていることを感じさせた。

しかしながら家で話していた時とは様子が違い、外では無表情を貫いていた。
話しかけてこっちを向いて話してくれる時には少し和らいでいたけれど、それ以外は人を拒絶するように冷たい表情をしていた。

数時間一緒にいて忘れかけるけど、秋夜さんも不良なんだもんなー。何故か俺には優しいけど。
家に帰り着いて、手を洗い、リビングで待っててと言っても聞かない秋夜さんに側で見つめられながら料理していく。

パックから肉を取り出しボールに入れる。卵やパン粉をつなぎに入れて玉ねぎも入れて混ぜる。塩コショウなどで味を整えて、形成する。フライパンで焼き目をつけて、オーブンでさらに焼いていく。和風ハンバーグが好きらしいので、大根おろしや醤油などを使ってソースを作っていく。

うーんいい感じ!ご飯はレンチンのやつだけど…。お皿に盛り付けてでーきた!!

「完成ですよ!スープとかもないし、手抜きですけど……早く食べましょう!」

「ん、いただきます!」

「俺もいただきます!」

といったものの、ちゃんと美味しいだろうか…と不安で、つい秋夜さんを見てしまう。
俺の視線に気づいて、ニコリと笑ってくれる。

「ちゃんと美味しいよ。ありがと。」

「よ、よかったぁ…家族以外の人に食べてもらうの初めてだったから、喜んでもらえてよかったです!」

「そっか……初めて…なんだ?」

妖艶な笑みを浮かべ、首を傾げる。

「え?はい…いや、…違わないですけど…」

なんか言い方?!悪意あるよね?なんか照れる。

「ふふっははは!ごめん!そんなに反応してくれると思わなかった」

からかわれたー!!もうっ!!まぁ笑顔にさせれたならいいか…。はぁ…。

少し拗ねていると、夕飯のあとアイスあるよ?と言われ、すぐに機嫌が良くなった俺を見てまた笑う。俺はどうせ単純だし…。食べ物にも釣られるし。

デザートも食べて、適当にテレビを流し見て、もう9時になろうとしていた。

「お風呂入ってくれば?」

「秋夜さんが先に入ってください。家主より先に入るのは申し訳ないですし。」

「気にしなくていい」

「そう…ですか?じゃあお先に失礼します」

「ん、行ってらっしゃい」

部屋に負けず劣らず綺麗なお風呂場だな。さっとシャワーを浴びて、頭と体を洗う。
お風呂につかって、今日を思い返す。一日でなんでこんなにことになってるんだろ。

不良に水かけて追いかけられて、秋夜さんに出会って、その今日出会ったばかりの秋夜さんの家にお泊り…。今日一日で、色々ありすぎたな。

「お風呂ありがとうございました!」

そう言ってリビングに入ると、秋夜さんがこちらに来て、タオルで頭を拭かれる。
あれ?まだ濡れてたか。

「乾かしてあげるからソファ座ってなよ。ドライヤー取ってくる。」

「自分で出来るのでお風呂どうぞ」

「嫌」

「え?」

「嫌だって言ってる」

「なぜ…?」

「なんとなく?」

「はぁ…じゃあお願いします」

おおっ!人にドライヤーしてもらうのって意外と心地良いな…。お返しにあとで俺も乾かしてあげようかな。乾かし終わると、秋夜さんがお風呂に行ったので暇になってテレビを流し見ていると眠くなってきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話

雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。 主人公(受) 園山 翔(そのやまかける) 攻 城島 涼(きじまりょう) 攻の恋人 高梨 詩(たかなしうた)

俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。 勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。 しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!? たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。

こいつの思いは重すぎる!!

ちろこ
BL
俺が少し誰かと話すだけであいつはキレる…。 いつか監禁されそうで本当に怖いからやめてほしい。

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】兄狂いなところ以外は完璧な僕の弟

ふくやまぴーす
BL
イケメンで優等生かつ兄に対してのみ変態ヤンデレ気質な弟 遥(はるか)×ノンケ弟思い兄 悠人(ゆうと) あらすじ 中学生の頃から、突然仲良しの弟遥に避けられるようになった兄の悠人。 また昔の頃に戻りたくて、4年越しの再会に喜ぶ悠人だが、弟の様子が何やらおかしくて……というお話 ※R18描写ありの話のタイトルには※マークがついてます。 序盤は無理矢理犯される系ですのでご注意を。

処理中です...