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しおりを挟むコクヨウは魔導具技師に用があるというので、武器屋を出たところでコクヨウと別れ、俺は先に宿に帰って置くことにする。至るところで、建物の崩れた瓦礫や爆発が見受けられるが、今の所被害にはあっていない。税が高い理由…行けば分かると言われたが、確かに分かったな…。こうしてすぐに街が壊されるからなんだろうな。
帰り道に商店や市場を通った。この街で売られているものは、珍しい物も多く、ついつい足を止めて見てしまっていた。面白いもんだな。また明日にでもコクヨウと見に来てみるか。
今日はもう宿に帰らねぇと。かなり時間をかけてしまった。コクヨウの方が先に帰ってしまっているかもしれない。その後、道端の商店に目を向けないようにしつつ、急ぎで宿に向かった。丁重にもてなしてくれる従業員が出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、お客様。こちらお預かりしておりましたルームキーになります。」
「ああ、ありがとう。もう一人はまだ帰ってないか?」
「はい、まだお帰りではありません。」
「そうか。ならいい。ありがとう。」
俺が部屋に下がろうとしたとき、次の客がやってきたらしい。チラリと見ただけで分かる、貴族だ。冒険者のように発達した筋肉もなく、贅肉に包まれた身体、ギラギラした飾りだらけの服。傲慢そうな顔立ちと後ろに連れた従者達。
「おい、この私が来てやったのだ、勿論一番いい部屋は空いているんだろう?」
「申し訳ございませんが、本日はご予約で埋まっております。」
「はぁっ?!ふざけるなよ!追い出せ!そして私を入れろ!!グズが」
「…それは致しかねます。代わりの宿をご紹介させて頂きますので、そちらへ行って頂けませんでしょうか。」
「他所へ行けだと!?この…そんなに生命がいらないのなら覚悟しておくんだな?こんな宿すぐに潰してやる!!行くぞお前ら!!覚えておけ」
「……」
冷めた目でご貴族様を見送る従業員。慣れているんだろうか…?それにしてもやけに反抗的だったが、大丈夫なのか?俺が見ていたことに気がついたらしく、こちらに向き直る。
「お騒がせして大変申し訳ございません…」
「いや、いいんだが、あんなに強気にでて大丈夫なのか?」
「ああ、それでしたら問題ありません。今来られた方は伯爵子息ですが、この宿を常宿としてくださるお客様の中には公爵様が居られますので、不用意に手を出すことは出来ないのです。それに、公爵様直々に迷惑な客は泊まらせるな、とのお言葉を頂いております。」
公爵様が守ってくれるって訳か。そのうえ、質の悪い客まで排除してるのか。そりゃあいい宿な訳だな。
「そうか、なるほどな。俺達は本当にいい宿を紹介してもらったらしいな。」
「ありがとうございます。……しかし…あの方がこの街にいらっしゃるとなるとお気を付けになった方がよろしいかと…。」
「…?それはどういう意味だ?」
「ここでは少し…」
「なら部屋に水を頼む。」
「かしこまりました。すぐに伺います。」
「ああ」
部屋にやってきた従業員の彼が言うには、先程の伯爵子息は随分と問題のある人物のようだ。違法薬物を流しているとか、人身売買に関与しているとか。その中でも、美形の奴隷をコレクションしている、という噂があるらしい。
街で見かけた美形を兵や権力を使って攫って奴隷として屋敷に囲っているのだという。つまり気をつけろ、というのはコクヨウが攫われるかもしれないということだ。情報提供に礼を言って、従業員を見送る。
ドアがパタンと閉じる。違法奴隷…か。それが本当だとしてもコクヨウはSランクだ。簡単に拐われたりはしないはず。それでもどんな手段を使ってくるか分からない以上、気をつけるに超したことはない。
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