黒豹拾いました

おーか

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あのあと結局俺はコクヨウの宿に泊めてもらうことになった。というか、コクヨウに負けた。夜もぎゅうぎゅうに抱き締められて眠りに…つけないまま朝を迎えた。

「まじか…」

そんな俺を隣に、コクヨウはスヤスヤと眠っていた。俺はお前が密着してくるせいで、なんだか緊張して…眠れなかったんだが?気持ち良さそうに寝ていやがるコクヨウのキレイな鼻筋を軽く摘んでやる。

「うぅ…」

「ははっ俺は取り敢えず起きるからな。」

「むにゃ…」

寝ているコクヨウの腕の中から抜け出し、顔を洗うために洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗えば、シャキッとした気分になった。

それにしても…離れてる間にコクヨウへの気持ちは薄れていくものだと思ってたんだがなぁ…。それにコクヨウから俺への気持ちも、変化していると思っていた。久しぶりにあって変わらずに懐いてくれる様子に胸が暖かくなるのを感じた。

単に俺はとても嬉しかったのだ。コクヨウが広い世界で得た筈の様々なものたちよりも俺を選んでくれたことが。俺の初めてと言っていい大切な家族が同じ様に思っていてくれたことが。

それなら俺も本格的に腹を括らなくてはならない。ふぅ…と長く息を吐きだし、心を決める。俺はコクヨウが好きだ。ちゃんと、そういう意味で。今までずっとずっと心の中でも自分を誤魔化し続けていたが、もう目を背けることはしない。

「タカミ!!!」

バタバタという慌てた足音とともに叫ぶように俺を呼ぶ声が聞こえる。コクヨウが目を覚ましたのだろう。寝室へと続く扉を開けると、コクヨウが俺を探してか、ソファの下を覗き込んでいるところだった。

俺がそんなところに隠れると本気で思ってるのか…?だとしたらコクヨウとは一度俺についてどう思っているのか話し合う必要性がある。少し呆れたような視線を向けながら声をかける。

「おい、コクヨウ、俺はここだが?」

「あ!!タカミ!そんなところにいたの!?」

「いや、ソファの下より意外じゃねぇよ…。」

「だって昔はこういうところに隠れてたじゃん!!」

確かにベッドの下とかに隠れたことはある。まだコクヨウが幼かった頃の思い出だ。コクヨウとはよくかくれんぼや追いかけっ子をして遊んだ。しかし、かくれんぼをするにしても、あの狭い一軒家では他に隠れる場所もなかったからな。

「それは…かくれんぼをして遊んだときの話だろ?」

「でも今だって僕から隠れてた!!」

「隠れてねぇ。ただ顔を洗いに行っただけだ。」

少し不安げに揺れるコクヨウの瞳。これはコクヨウの不安な時の癖のようなものだ。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。コクヨウの気持ちは、目や尻尾、耳に現れやすい。本心を押し隠そうとしていても、耳や尻尾は勝手に動いてしまうらしい。

「…そうなの?僕から逃げたんじゃなくて?」

「…逃げねぇよ…もう俺はお前からは逃げねぇ。」

「ふふっそっか。じゃあ信じる。」

随分とあっさり頷いたが、恐らくこれは自信の現れだろうな。俺がもし逃げても捕まえられる…そういうことだ。全く…手に負えねぇな。

それでもコクヨウの成長には、勿論嬉しい気持ちのほうが大きい。大切な子が育つってのは、やはり特別で嬉しいことだ。褒めるように抱き締めて、撫でてやる。一瞬驚いていたが、コクヨウはリラックスしたように俺に身体を預ける。

「コクヨウ、そろそろ出掛けるぞ。」

「えー…もっと二人きりで居よう?」

「駄目だ。Aランク試験の受付があるからな。」

「そっか…分かった。行こう。」

「おう。ところで、今更だけどお前パーティーメンバーはどうした?」

「ん?同じ宿だし近くにいるんじゃない?そんなことどうでもいいでしょ。Aランク試験の受付のあとはどこ行く?僕、タカミが好きそうな場所沢山見つけたんだ!!」

「そうか、また暇なときに連れてってな。取り敢えず、お前のパーティーメンバーに挨拶しねぇと。」

「タカミのための時間より優先することなんて無いよ?だから大丈夫!!」

……コクヨウってここまで態度で示すタイプだっけ…?
なんか離れてる間に酷くなってね…?俺のこと好きすぎねぇ?いやまぁ嬉しいんだが…。パーティーメンバーには少し申し訳なくなってきたぞ。

「あー、コクヨウ取り敢えず行くか。冒険者ギルド」

「うん!」






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