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しおりを挟むそして宿で過ごすこと数日、子猫の怪我も順調に回復してきていた。しかし精神的ダメージはまだまだ深いようで、俺が見えなくなったりするとすぐに探しにやって来る。
「大丈夫だぞ、ここにいる」
「みー」
「あ?抱っこか?」
足元にやって来たかと思えば、登ろうとして前足を俺の足に掛けてくる。しゃがんで片手で抱き上げる。満足そうだな。まぁ子猫にとって安心出来るならそれが一番だろう。宿提供の飯を食べて、只管部屋で過ごしている。
そろそろ飽きてきたが…この調子だと外に出すのも不安だよなぁ?
因みに目下の悩みは子猫の名前だ。部屋で考えてもいい考えが浮かばず、気晴らしに出掛けようとして、思い留まる、という日々を過ごしていた。
「なぁ、そろそろ外出てみるか?」
「…みー」
肯定しているように聞こえる。連れ出してみて嫌がったら宿に戻ってくればいいか。そう考えて、抱き上げたまま宿を出た。そして買い物がてら店を回っている途中で、漆黒に輝く石のペンダントを見つけた。
それを購入するときに、子猫を下ろし金銭を支払って次に向かった。その時、子猫と逸れてしまったのだ。いつも俺について回っているので、着いてきているだろうと思い込んでしまったのだ。
「次は屋台見に行くか。お前の好きな肉も売ってるぞ?」
………ん?
振り返って足元を見ても、辺りを見回してみてもそこにある筈の姿は見つけられない。少し焦りながら来た道を引き返す。さっきのペンダントを買った店までは確実に側にいた。だから逸れたとすれば、ここまでの道のどこかだということだ。
人混みの中で辺りを見回しながら子猫の姿を見逃さないように走って探す。石のペンダントの店まで戻ってきてもその姿はなく、店主に見ていないかと聞いてみても情報は無い。
子猫の向かう場所に心当たりがあるはずもなく…宛もなく街を走り回る。街を出ていないとは思うが、道も入り組んでいるしなかなか見つけることが出来ない。
時々人に声を掛けては猫のことを見ていないかと尋ねるが成果は得られない。焦る気持ちだけが大きくなっていく。冒険者として鍛えてはいるが、街中を縦横無尽に駆け回り続け、休むこともなく動いている。そろそろ体力の限界だ。しかし諦める訳にはいかない。
ひとりぼっちで怖い思いをしているだろう…一刻も早く見つけてやらなければ…しかしもうすぐ日も暮れて暗闇に包まれる。そうなってしまえばあの子の黒い毛皮は見え辛くなり、見つけにくい。
それに夜は冷えるのだ。風邪を引いてしまうかもしれない。
「げほっ…くそ…俺が不用意に目を離したりしなきゃ…こんなことには…」
痛みを訴える足を引きずって、それでも前に進む。たまたま辿り着いた路地。細い道だ。普段ならこんなところには入らないんだが…あの子がここにいるかもしれない。
暗い路地の奥で蹲るようにしていた子猫。逆光でこちらのことがわからないのだろう。威嚇してくる。やっと…やっと見つけてやれた。怪我なんかもしていないようだ。
「ぐるるる!」
「っ!?猫!猫だろう?」
「…み…?」
「そうだ!俺だ!迎えに来た!遅くなって悪かった…不安だったろ。もう大丈夫だ。おいで」
「みー!!みー!!」
両膝をついた俺に突進する勢いで駆け寄ってくる。子猫を抱き締めて、俺も安心してしまって力が抜ける。
「ふぅ…宿に帰ろう。」
「み!」
「ちょっと待ってくれ、力が抜けちまって…ははっ情けねぇ」
ぽろぽろと涙を零す子猫。俺も釣られて泣いてしまうところだった。自分も泣いているくせに子猫が俺を宥めるように擦り寄ってくる。俺を心配するような仕草を見せたのはこれが初めてだ。暴れた時も申し訳なさそうにしていたが、行動にうつしたわけではなかったからな。
「ありがとな。少し休んだら大丈夫だからよ。」
「みぃ」
子猫を撫でて過ごし、宿に帰ると疲れがどっと押し寄せてきて風呂にも入らずベッドで眠ってしまった。
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