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掃除屋は哂う
しおりを挟む血に濡れた凶器が月光に照らされ、鈍い光を放つ。
煌々と照らされる都会。その裏側にある真っ暗な場所。表裏一体、眩く輝く場所の裏には深い闇が存在している。
血に塗れた男は暗く嗤う。狂ったように。
「ふははは!やった…これで金は俺の物だ!はははははっ!こんな簡単な事ならもっと早く殺っとくんだったぜ」
部屋の中には月明かりだけが差し込む。その部屋の中心には、血塗れの男が一人。部屋の片隅では、幾つもの刺し傷によって事切れた老人の体が転がっている。
老人の金品を手に入れられたからなのか、人を殺した事で狂ってしまったのか、傍また気分が高揚しているのか。とにかく男は血に塗れたまま高笑いを繰り返す。一頻り嗤った男は金品を鞄に詰め込んで、自身が犯した罪の証拠を消す為にスマホを取り出す。
「…掃除屋、依頼だ。場所は……の地下室だ。」
「ええ、わかりました。それで、報酬は…」
「あ?報酬はアレだろ。タダなんだろ?さっさと来て片付けろや。完璧にな。」
「承りました。此度の行いの全てを片付けますよ。」
「おう。頼んだぜ?こんな爺殺したくらいで捕まりたかねぇからなぁ!ははははっ!」
「テケリ、リ…テケリ、リ」
掃除屋、そう呼ばれる彼はこの街の裏側を取り仕切る者達に重宝されている。けれど本来、組織の下っ端も下っ端である男が、その存在を知ることは無い筈だった。けれど時に、奇跡的な偶然があった。その幾重にも重なった偶然は運命と言い換えてもいいかもしれない。
ともかく男は運良くか運悪くか、掃除屋の存在を知るところとなった。彼さえ居れば、警察にだって捕まることは無いと考えた。そして、その力を利用して良からぬ考えを実行に移したのであった。
実際男の運が良かったのかといえば、それは今後の流れを考えれば"否"というしか無いのであるが、この男はまだ知らない。
本来、高価な家具が置かれた上品な部屋であったその部屋は、朱に染まっていた。掃除屋として呼ばれた彼は、髪も目も漆黒、そして真っ黒なスーツを身に纏う。闇から生まれたようなその特異な出で立ちは彼を闇に紛れさせる。
彼は目の前の光景に動揺するでも無く、ただ淡々としていた。作業をこなすように死体の処理にかかる。まずその死体に刺された刃を引き抜き、血が付くのにも構わずに手に取る。
「ふふっ…これが凶器ですね…ふぅ、駄目ですねぇ。こんな物では報酬には値しません。もっと狂っていただかないと、ね?」
静かな部屋に彼の声だけが反響する。彼が歩く度にぴちゃりぴちゃりと部屋中を濡らした血の水音が鳴る。血溜まりを歩く男の靴を跳ねた血が汚す。手にした凶器で片手で持ち運べる程度の大きさの肉塊になるまで切りつける。細い目を見開き、狂気に染まった顔で、実に楽しそうに何度も何度も何度も何度も…
「あはははははははっ!あははははっ!ハハハハハハッ!…ふぅ」
そして突然我に帰ったように元の取り繕った様な冷酷な表情を張り付ける。手を振り回す様に切りつけた結果、真っ黒なスーツは血を吸い、更にドス黒く染まっていた。
その場の血を拭き取るでもなく、淡々と灯油を撒き散らす。掃除屋の手が肉塊に触れる。途端に死体は蠢くように広がった掃除屋の手に同化するようにして、その姿を消す。そして全てを消し去るように燃やし尽くす。本来ではあり得ないほどに燃え上がった炎が、男の痕跡も死体から出た血液も、全てを灰へと帰す。
「さて…この場はこれくらいでいいでしょう。」
先ほどまで灼熱の炎で燃えていたとは思えないほどの静寂。簡単に消えるはずのない火は全てを燃やし尽くすと、まるで始めから何事もなかったように収束し消え去った。
「報酬の取り立てに行かなくては、ね?それに…"全て"を消すのが依頼だから、まだ犯人が残っていますしね。…テケリ、リ、テケリ、リ。」
血に塗れたままの手を軽く払うような仕草をすれば、血は全て消え去る。
ただただ美しい顔に人形の様な、それでいて邪悪にも無邪気にも猟奇的にも見える。そんな顔で彼は嗤う。
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