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52.推しが会いに来ました。
しおりを挟む相変わらず、藍月くんを応援する日々を送っている。けれど、寂しさや会わないことの辛さは全然なくならない。
時間が解決するもんだと思うんだけどな…。好きな気持ちが消えない。元気のない俺を見かねてか、珍しく彼方から誘いがあった。
週末俺の家に来るらしい。いいワインが手に入ったとかで、俺にも飲ませてやろうということらしい。俺は少しずつやっている料理を作りつつ彼方が来るのを待つ。
スマホが鳴る。確認すると、彼方から着いたから開けろというメッセージが来ていた。一度火を止めて、彼方を出迎えに玄関に向かう。
カチャ
ドアを開けば、彼方…ではなく何故か藍月くんが俺を見つめていた。
「え…?」
「入れてください、リンさん。」
にこりと微笑んでそう言う彼に驚きつつも逆らえない空気を感じて言われるがままに、部屋に上げる。
なんで…?彼方は?そんな俺の疑問に答えるように藍月くんが口を開く。
「リンさん、久しぶりですね?今日は遠野さんに協力してもらって、会いに来たんです。俺が会いたいって言っても会ってくれないから。」
「…それは…ごめん…」
藍月くんが俺に会いに来てくれた…その事実は俺の胸を喜びで満たした。が、避けていた事をつかれれば、胸が痛い。謝罪の言葉しか出ない…
「いいんです、俺が悪かったですから。でも…悲しかったんですよ?辛くて苦しかった…」
「うん…ごめん…」
藍月くんが泣きそうな顔で俺を見つめる。綺麗な顔が悲しげに歪んで、その言葉が本当なのだと裏付ける。
藍月くんが俺に手を伸ばして、立ったままでいる俺の手を掴んで引き寄せる。そしてそのまま、藍月くんの隣に座るように促され、座った。
「リンさん、抱き締めてもいいですか…?」
「えっと…」
藍月くんに力なく強請られる…こんなにも元気のない藍月くんは初めて見た…。キラキラと輝いている姿は見慣れていても、弱っているところなど見せなかったから。その姿にどれだけ追い詰められているのかわかる。
「…いいよ」
おずおずと告げると、ガバリと抱きしめられる。今までにも抱きしめられることはあったけれど、こんなにも切羽詰まったように痛いほど抱きしめられることはなかった。俺のしたことがどれだけ彼を傷つけたのか思い知る。
「…リンさん、好き…大好きだから…側にいて…お願い…お願いリンさん」
「…それは…出来ないよ」
「なんで…?」
「…藍月くんはアイドルだし、こんな関係がバレたら藍月くんも、alfalfaもファンの人たちもみんな傷つけることになる。」
「そう…わかった。なら俺アイドルやめる…そうしたら側にいてくれる?」
…藍月くんが…アイドルをやめる…?そんなことを思ってくれるほど俺のこと好きなんだな…嬉しくて、でも…そこまで言わせてしまったのが悲しくて。暫く黙ってしまった。
「駄目だよ…側にいるから辞めないで…」
「本当に側に居てくれる?」
「…うん…」
「えへへ!大好きだから、幸せにするからね!リンさん!」
「…俺も好きだよ、藍月くん」
「…っ!?」
な、泣いてる…?藍月くんが…泣いてる。
「どうしたの?大丈夫?」
「うん…ヒック…嬉しくて…」
落ち着くまで背中をトントンしながら待った。落ち着いてくると、急に重みが増した。藍月くんは眠ってしまったみたいだった。よく見ると藍月くんの顔にはクマが浮かんでいる。寝られなかったのかな…
俺よりもだいぶ背の高い藍月くんを運ぶのは骨が折れたけど、なんとかベッドに寝かせることができた。藍月くん、これでも俺よりも年下なんだもんな…俺の方がずっと子供っぽい。藍月くんに無理させて悲しませたのは俺なのに、逃げ回って…情けない…。
ベッド脇に座って藍月くんの頭をなでていると、薄目を開けた藍月くんに捕まり、俺もベッドに引きずり込まれる。本当は彼方に連絡したりしたかったけど、離れたくなくてそのまま二人で眠りについた。
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