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1巻
1-3
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ふと気づくと、アラン坊っちゃんは立ち上がって森の奥に意識を向けていた。
「坊っちゃん、どうしました?」
声を掛けても私の言葉は届いていないようで、坊っちゃんは曖昧な返事をするだけ。
しかし突然意を決したような表情をすると、まるで風のごとき速さで森の奥へと走り出した。
「坊っちゃん!?」
慌てて引き留めようとするが、私の声は届いていない。
「私が追うから、お前はヤン様に報告しろ!」
妻が首を縦に振り背を向けて走り出す姿を見送ってから、私も坊っちゃんを追う。
整備されているとはいえ、森は森。立木や背の高い草が多く、私はすぐに坊っちゃんを見失ってしまった。
子供の足ではそう遠くへは行けないだろうと考えもしたが、大人顔負けの剣を振るう、あの坊っちゃんのことだ。どこまで行ってしまうかわからない。
私は坊っちゃんの名を呼びながら、あたりを捜索した。
叫ぶ声は木々の間に消えるだけで、応えるものはない。
私は次第に焦りを感じ、より大きな声で呼びかけた。
意外にもすぐに、小さな木の根元でうずくまっている坊っちゃんを見つけることができた。
「坊っちゃん!!」
「……あ、ジュリオ」
坊っちゃんの反応はあっさりしていた。
何事もなかったかのように私に顔を向ける坊っちゃん。
それを見て私は全身から力が抜けていくのを感じるが、今度は坊っちゃんの手の先にあるものに目を奪われることになる。
坊っちゃんの手の先。そこに横たわっていたのは、坊っちゃんと同じくらいの大きさの狼だった。
全身は真っ黒い毛皮で覆われ、血のように赤い目を私に向けている。
おぞましい外見のわりにどうしてか獰猛さは感じられないが、目から強い威圧感が放たれていた。
狼は怪我をしているようで、よく見れば坊っちゃんのシャツには狼のものと思われる赤い血が付着している。
「これは、一体……?」
「こいつ、怪我していて死にそうだったから、治癒の法術をかけてあげてたんだ」
「……坊っちゃんが急に走り出したのは、このためだったのですか?」
「うん。なんとなくだけど、『助けて』って声が聞こえた気がしたから」
「そう、ですか」
一体、この子には何が見え、何が聞こえているのだろう?
五歳で法術を操り、英雄と呼ばれる男に剣の腕を認められ、誰にでも優しいこの天使のような子には……。
「……それで、この獣をどうするおつもりですか?」
私が聞くと、坊っちゃんは困った表情になって、言いづらそうにしている。
なんとなく、言いたいことはわかるが……。
「坊っちゃん?」
私が促すと、坊っちゃんは眉を下げて私に聞いてくる。
「……家に連れて帰っちゃ、ダメかな?」
……やっぱりそうきたか。しかし。
「私が判断するわけにはまいりません」
それを聞いた坊っちゃんの顔に、悲しみの色が滲む。
坊っちゃんは顔を伏せてその目を狼に向けるが、私などが判断できることではない。
「ですから、旦那様に聞いてみましょう」
そう、判断を仰ぐしかない。
一転して眩しい笑顔になった坊っちゃんを見て、私の心も晴れやかになった。
「しかし、旦那様が駄目だと言われましたら、諦めてくださいね」
「うん!」
嬉しそうな坊っちゃん。
旦那様がそんなことを言うはずがないと、確信しているようだ。
事実、そうなのだろうが。
坊っちゃんは気持ちのよい返事をすると、いま気がついたかのように、自分の衣服を見た。
改めて見ると、血だらけのその姿はどこかの戦場をくぐりぬけてきたのかというような有様だ。
坊っちゃんは少しはにかみながら――。
「ミランダさん、許してくれるかな?」
そう聞いてくるのだが。
「さあ? 保証はできかねますね」
私はそのように答えるしかない……彼女は、ちょっとこわいからな。
「そんなぁ!? ……しょうがない、お前も一緒に謝ってくれよ?」
坊っちゃんは狼に話しかける。
狼はそれに応えるように「くるるる……」と喉を鳴らす。
この優しく、才能溢れる子は、この先どのように成長していくのだろう?
私はそれが楽しみでしかたない。
†
狼のラスが我が家に来て、ひと月が経った。
あの後、助けた狼を連れて帰っていいか聞くと父は渋ったのだが、母の一言でOKになった。
母は、ラスが自分達に危害を加えることはないだろうと言っていた。やっぱり法術を扱える人ってのは、そういうことを感じとる力が強いんだろうか。
ラスっていう名前は父が付けた。特に意味はないらしい。
聞いたら、「感覚だよ、感覚!」と胸を張って答えられてしまった。
しかし、さすがに狼が家にいるっていうのはまずいから、対外的には、ラスは「犬」ってことになってる。
すっかり元気になったラス。だがどうにも様子がおかしい。いくら狼とはいえ、家の屋根に飛び乗れるほどジャンプ力があるって、どういうこと?
背中に乗せてくれるのは嬉しいけど、信じられないスピードで走っちゃってるし。
……これは、やっぱりあれか? 俺の他者強化能力が原因ですか?
ある時、なんとなく気になって試してみたのだ。
俺の能力は、動物にも有効なようです。
それに、ラスはとても賢い。
芸を教えたら、すぐに覚えてしまった。
俺はその成果を見せるため、広間に家族を集めていた。
「ラス、お手!」
「わう!」
「おかわり!」
「わう!」
「伏せ!」
「わうう!」
「宙返りだ!」
「わふ!」
俺の言葉に、ラスは勢いよく宙返りをする。
「おおー!」
「すごいわねえ」
「きゃー!」
家族はラスのその姿に惜しみない拍手を送っている。
ラスは知能も上がっているのか、人間の言葉も少しなら理解できるみたいだ。
今ならトップブリーダーも夢じゃない。
俺とラスはいつも行動をともにしていた。
ご飯の時も、勉強の時も、剣や法術の稽古の時も、寝る時も。
今日も、部屋でラスのお腹を枕に本を読んでいると、開けっぱなしの入口から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「ちょっとアラン、何よ、その犬?」
「あ、フラン姉ちゃん、どうしたの?」
近衛騎士団団長であるジョルジェット・カッティーニ侯爵、その娘であるフランチェスカが、整った顔をしかめてこちらを睨んでいる。
腰あたりまである綺麗な金髪は緩やかにウェーブしており、切れ長の目は少しつり上がっていて、気の強い印象を見る者に与える。
初めて会った時は話しかけても逃げちゃうし、見かけによらず恥ずかしがり屋なのかと思ったけど、最近はだいぶ打ち解けてきた。
ちなみにフラン姉ちゃんは俺の三つ歳上で、身分も俺より上。
以前、格上だからと「フランチェスカ様」と呼んだのだが、フラン姉ちゃんから返ってきたのは拳骨だった。
生意気だからと言っていたが、他人行儀な態度が嫌だったのだろう。それ以来、俺は「フラン姉ちゃん」と呼ぶことにしている。
「どうしたの、じゃないわよ! せっかく遊びにきてあげてるのに、挨拶もないってどういうこと!?」
「でも、今日来るなんて聞いてなかったよ? ジョルジェット様が来るのは知ってたけど」
「何よ、私がお父様と一緒に来ちゃいけないってわけ!?」
そう、なぜか俺はいつもフラン姉ちゃんを怒らせてしまうのだ。……誰か、理由を知ってたら教えてほしい。
「そんなわけないよ、もちろんフラン姉ちゃんが来てくれて嬉しいよ」
「っ!? ……そ、それなら別にいいのよ。で、その犬は何よ?」
「ああ、ラスっていうんだ、可愛いでしょ?」
「ふ~ん」
フラン姉ちゃんはラスに近寄り、頭を撫でようと手を出すが、ラスは「ぐるるるるる!!」と唸り声をあげて威嚇する。
さすがにびっくりしたのか、慌てて手を引っ込めるフラン姉ちゃん。
「ぜ、ぜんっぜん可愛くないじゃない!!」
「ちょ……ラス、威嚇しないで」
「く~ん」
俺が注意すると、ラスはしょんぼりした声を出して耳を伏せる。
やっぱり可愛いと思うんだけどな。
「アラン、そんな犬放っておいて、中庭に行きましょう? 私、おいしいお菓子持ってきたのよ」
「あ、うん」
立ち上がろうとすると、「行かないで」とばかりにラスが俺の服の裾を咥えて放さない。フラン姉ちゃんは先に行ってしまった。
「大丈夫だよ、フラン姉ちゃんはああ見えて悪い人じゃないよ」
そう言って安心させてやると、ラスは名残惜しそうにしながらも、裾を解放してくれた。
「それじゃ、行ってくるね」
ラスを残して、俺は歩き出した。
中庭では、カッティーニ家のメイドさんがお茶の用意をしてくれていた。
フラン姉ちゃんはすでに優雅に椅子に座っていて「遅いわよ」と文句を言うが、言葉とは裏腹に表情は明るい。
「ごめん、フラン姉ちゃん。それで、どんなお菓子を持ってきてくれたの?」
「フフン、今日は珍しい木の実を使ったお菓子よ」
自慢げに言い、メイドさんに目で合図する。
すると、すぐにお菓子が運ばれてきた。
目の前に置かれたのは、クッキーのような土台の上に黄色のクリームがデコレーションされている、こぶし大のケーキ。
前世でも見たことがある。その見た目から、ある山の名前がつけられていたはずだ。
「……これって」
……モンブラン?
確かそんな名前だった。だとすれば、これは栗が使われているのか?
俺がケーキに見入っていると、フラン姉ちゃんが説明してくれた。
「フフフ。アラン、このお菓子が珍しいみたいね! えっと、これは外国で採れる、スリ……? とかいう木の実を使ったケーキなのよ」
「……栗、じゃないかな? 南のほうで採れるみたいだね」
自信なさげに言うフラン姉ちゃんに、俺は思わずツッコミを入れてしまう。
「そ、そう、栗よ! ちょっと間違えただけよ! 何よ、アランのくせに生意気よ!」
「本で読んだんだよ。それに、食べるのは初めてだよ。ありがとう、フラン姉ちゃん」
モンブランなんて、前世でも食べたことなかったなぁ。
栗といえば、食べたのは甘栗くらいか。
思い出したら、甘栗、ちょっと食べたくなってきた……。
「そ、そう。……まあいいわ、食べましょう」
「うん」
初めてのモンブランを食す。
モンブランはちゃんと栗の味がして、とても美味しかった。
ちなみにこのケーキの名前は、この世界では「レイモンテ」というらしい。由来はどこかの山の名前とのこと。フラン姉ちゃんは知らなくて、メイドさんが教えてくれた。
「そうそう、このス……栗なんだけど、炒ったのをそのまま食べても甘くて美味しいらしいわ」
「へえ~」
「ちょうどそれも持ってきてあるのよ」
これはもしかして、もしかするのか?
フラン姉ちゃんが合図すると、メイドさんが別の器を持ってくる。
俺はそれを見て心の中で歓喜する。盛られているのは、まさしく甘栗だったからだ。
甘栗は皮が剥かれていなかった。
しかし、前世で甘栗の皮の剥き方を袋裏のイラストで完璧に覚えた俺にとっては、造作もないことだ。
栗の腹に爪で亀裂を入れ両サイドを圧迫すると、パキッと小気味良い音を鳴らして中身がさらけ出された。
口に入れるとほろほろと崩れ、程よい歯ごたえと自然な甘みが口の中いっぱいに広がる……やっぱり、うまい。
ふと気づくと、フラン姉ちゃんは困惑した表情で、手にした栗を見ていた。
「……食べないの? おいしいよ?」
「む、剥くのに手が汚れるじゃない。私はいいから、アランが食べなさいよ」
拗ねたように横を向いてしまうフラン姉ちゃんを見て、俺はようやく気がつく。
あ……剥き方がわからないのか。
「僕が剥いてあげるから、フラン姉ちゃんも食べなよ。甘くて美味しいよ」
俺は手早く皮を剥き、それを差し出した。
フラン姉ちゃんは横目で見ながら、口を尖らせて言う。
「そ、そこまで言うなら、食べてあげてもいいわ。……て、手が汚れるから、食べさせてよね!」
「……え?」
「早く!」
フラン姉ちゃんは雛のように口を開けて栗を待つ。さすがに恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。
「じゃ、じゃあ、いくよ?」
俺も意を決して、いざフラン姉ちゃんの口に栗を入れようとしたその時、黒い影が栗を持つ俺の手に襲い掛かった。
ラスが、横合いから栗を奪ったのだ。
いきなりの出来事に動きが止まった俺とフラン姉ちゃんを尻目に、ラスはテーブルの上の甘栗を皮ごとガツガツと貪る。
悲鳴をあげるカッティーニ家のメイドの皆さん。
「この……バカ犬ぅぅぅぅぅ!!」
フラン姉ちゃんは金切り声をあげてラスに飛びかかる。
ラスはそれをヒラリとかわした。
テーブルに突っ伏すフラン姉ちゃん。飛び散る甘栗の残骸。メイドさん達のさらなる悲鳴。
けっこうな惨状である。
「ま、待ちなさい!!」
中庭を駆けまわるフラン姉ちゃんとラス。
フラン姉ちゃんは真っ赤な顔をして追いかけるが、からかうようにぎりぎりの速度で逃げるラスに追いつくことができない。
結局栗はラスに全部奪われ、フラン姉ちゃんは一つも口にすることができなかった。
第三章
アランです。
月日が流れるのは速いもので、俺は八歳になりました。
「にいさま、みてて、みててー!」
「ちゃんと見てるよ! 落ちるなよ、フィアス!」
「はーい!」
ラスの背中の上で元気よく返事をするフィアス。
「ラス、はしって!」
「わふ!」
フィアスが声をかけると、ラスは応えて走り出す。
「きゃーーー! はやいはやーい!」
フィアスは五歳。
最近は、覚えた言葉を俺に教えようとしたり、描いた絵を見せてくれたり、母から教わった歌を披露してくれたりと、行動の一つ一つが本当に可愛くて悶える毎日だ。
今日もフィアスはラスの背中に乗って、歓声をあげている。
初めのうちはずり落ちそうになったりして、見ていてヒヤヒヤしっぱなしだったが、この頃はそれもなくなってきた。
まあ実際は落ちたこともあるんだけど、落ちたと思った次の瞬間ラスはフィアスの服を咥えていて、地面にぶつかることはなかった。
なんという反射神経だとその時は驚いたが、いつの間にかそれが普通になってしまった。
そんなフィアスとラスを見ていて、最近気づいたことがある。
なんというか、体の大きさの対比がおかしいのだ。
俺が五歳の時、ラスは俺と同じくらいの体長だった。しかしフィアスとでは、明らかにラスのほうが大きい。
子供の身長なんて男女でそこまで違うはずがないし、やっぱりこれ、ラスが大きくなったとしか思えない……。
目算だけど、二メートルくらいになっちゃってる。
アーモンド形の円らな瞳に、ふさふさでツヤツヤな体毛、しなやかな体型。
真っ黒だった体毛は、だんだんと白くなってきていた。
屋敷の外を散歩していると、たまに、ラスを見て悲鳴をあげて逃げていく人がいるが、失礼な話である。
……でもまあ、さすがにちょっと大きくなりすぎだという気がしないでもない。一体どれだけ成長するんだろう?
そう思い、いろんな本を読み漁ってみたところ、とある冒険者の手記にそれらしいものを見つけた。
手記にはこうあった。
『ナリアス河のほとりに現れたその魔獣は光り輝く純白の体毛の巨狼で、血のように赤い目を対岸にいる我々に向けてきた。体長はおそらく三ガット以上。足元では三匹の小さな狼が川面に顔を近づけ水を飲んでいた。巨狼は三匹を守るような動きをしている。おそらく子供なのだろう。だが小さいといっても普通の狼の成獣ほどの大きさで、巨狼とは対照的に黒い毛で全身を覆われている。彼らは我々を警戒しながらも動じることなく水を飲み続け、やがて静かに森の奥へと消えていった』
ガットはこの世界の単位で、一ガットが約三メートルだ。
ということは、その巨狼は十メートル近いことになる。
もしもラスがこの狼と同じ種類の魔獣だったら……?
これ以上大きくなったら、さすがに家が大きくとも一緒には暮らせない気がする。
うん、確かにフィアスとじゃれるラスを見て、危険だと感じる人は多いかもしれない。
フィアスはもふもふを堪能しているだけなんだけどね。
この世界の動物は、獣と魔獣の二種類に大別される。
人間が狩ることのできる動物を獣、狩るのには困難な動物を魔獣と呼んでいた。
狩るのが困難というのは、空を飛んでいるとか、逃げ足が速いとか、そういったことではない。単純に生物としての「格」が違うということだ。
魔獣と獣はそもそも肉体の能力差が大きい。さらに魔獣は総じて知能が高く、言葉はもちろん、魔法まで使うものもいる。魔獣の魔法は人間とは比べものにならないほど強力だと言われている。
本で読んだのだが、家屋が浮かび上がるほどの突風を起こしたり、魚が溺れるほどの津波を起こしたり、地割れが起きるほど大地を揺るがしたりするらしいのだ。そりゃ魔獣にもピンからキリまでいるのだろうが、とても人間が敵うとは思えない。
そんな魔獣の代表格は、やはり竜種。
強靭かつ巨大な肉体を鱗の鎧で覆い、知能が高く人語を理解する。霊力も高く、高度な魔法を駆使する。空を自在に飛ぶもの、水中を棲処とするもの、硬い岩盤の下の地底を根城にしているものまでいるという。
そんなドラゴンを討伐しようとした猛者がこれまでに何人もいたそうだが、神話や物語の中にしかドラゴンを倒したという話は残っていなかった。
「ねえ、父様はドラゴンを倒せるの?」
一度父に聞いたことがある。
「倒せるわけねえ」
即答だった。そしてこうも言った。
「アラン。魔獣って奴は、人が手を出せねえくらい強いから魔獣って言われてんだぞ? そりゃ、強い奴もいれば弱い奴もいる。だがな、ドラゴンってのは中でもとびきり強いんだ。なんせ、硬い、速い、賢い。そのうえ奴らは飛んだり泳いだり地中に潜ったりしやがる。そんなの相手に人間がいくら集まろうと、それこそ国が総力を挙げたって、倒すなんて無理だ!」
英雄と呼ばれる父がこう言うのだ。もちろん世界は広いから父より強い人間だっているだろうが、少なくともこの国で最強の父が言うのだ。魔獣には手を出すな、と。
魔獣は知能が高いがゆえに非常に理性的で、こちらからへたに刺激しない限りは牙を剥くことはない。
魔獣による被害は世界各地で報告されているが、近年の研究で、多くは彼らを刺激した人間のせいであるということがわかっている。
魔獣は手を出さなければ怖くない。触らぬ神に祟りなしというやつだ。
だが、自らの欲のために魔獣を狩ろうという、愚かな人々がいるのもまた事実。
魔獣の毛皮や牙は金になる。運よく死骸を見つければ、一生遊んで暮らせると言われるほどだ。
彼らが求めるのは金か、名誉か……。
「坊っちゃん、どうしました?」
声を掛けても私の言葉は届いていないようで、坊っちゃんは曖昧な返事をするだけ。
しかし突然意を決したような表情をすると、まるで風のごとき速さで森の奥へと走り出した。
「坊っちゃん!?」
慌てて引き留めようとするが、私の声は届いていない。
「私が追うから、お前はヤン様に報告しろ!」
妻が首を縦に振り背を向けて走り出す姿を見送ってから、私も坊っちゃんを追う。
整備されているとはいえ、森は森。立木や背の高い草が多く、私はすぐに坊っちゃんを見失ってしまった。
子供の足ではそう遠くへは行けないだろうと考えもしたが、大人顔負けの剣を振るう、あの坊っちゃんのことだ。どこまで行ってしまうかわからない。
私は坊っちゃんの名を呼びながら、あたりを捜索した。
叫ぶ声は木々の間に消えるだけで、応えるものはない。
私は次第に焦りを感じ、より大きな声で呼びかけた。
意外にもすぐに、小さな木の根元でうずくまっている坊っちゃんを見つけることができた。
「坊っちゃん!!」
「……あ、ジュリオ」
坊っちゃんの反応はあっさりしていた。
何事もなかったかのように私に顔を向ける坊っちゃん。
それを見て私は全身から力が抜けていくのを感じるが、今度は坊っちゃんの手の先にあるものに目を奪われることになる。
坊っちゃんの手の先。そこに横たわっていたのは、坊っちゃんと同じくらいの大きさの狼だった。
全身は真っ黒い毛皮で覆われ、血のように赤い目を私に向けている。
おぞましい外見のわりにどうしてか獰猛さは感じられないが、目から強い威圧感が放たれていた。
狼は怪我をしているようで、よく見れば坊っちゃんのシャツには狼のものと思われる赤い血が付着している。
「これは、一体……?」
「こいつ、怪我していて死にそうだったから、治癒の法術をかけてあげてたんだ」
「……坊っちゃんが急に走り出したのは、このためだったのですか?」
「うん。なんとなくだけど、『助けて』って声が聞こえた気がしたから」
「そう、ですか」
一体、この子には何が見え、何が聞こえているのだろう?
五歳で法術を操り、英雄と呼ばれる男に剣の腕を認められ、誰にでも優しいこの天使のような子には……。
「……それで、この獣をどうするおつもりですか?」
私が聞くと、坊っちゃんは困った表情になって、言いづらそうにしている。
なんとなく、言いたいことはわかるが……。
「坊っちゃん?」
私が促すと、坊っちゃんは眉を下げて私に聞いてくる。
「……家に連れて帰っちゃ、ダメかな?」
……やっぱりそうきたか。しかし。
「私が判断するわけにはまいりません」
それを聞いた坊っちゃんの顔に、悲しみの色が滲む。
坊っちゃんは顔を伏せてその目を狼に向けるが、私などが判断できることではない。
「ですから、旦那様に聞いてみましょう」
そう、判断を仰ぐしかない。
一転して眩しい笑顔になった坊っちゃんを見て、私の心も晴れやかになった。
「しかし、旦那様が駄目だと言われましたら、諦めてくださいね」
「うん!」
嬉しそうな坊っちゃん。
旦那様がそんなことを言うはずがないと、確信しているようだ。
事実、そうなのだろうが。
坊っちゃんは気持ちのよい返事をすると、いま気がついたかのように、自分の衣服を見た。
改めて見ると、血だらけのその姿はどこかの戦場をくぐりぬけてきたのかというような有様だ。
坊っちゃんは少しはにかみながら――。
「ミランダさん、許してくれるかな?」
そう聞いてくるのだが。
「さあ? 保証はできかねますね」
私はそのように答えるしかない……彼女は、ちょっとこわいからな。
「そんなぁ!? ……しょうがない、お前も一緒に謝ってくれよ?」
坊っちゃんは狼に話しかける。
狼はそれに応えるように「くるるる……」と喉を鳴らす。
この優しく、才能溢れる子は、この先どのように成長していくのだろう?
私はそれが楽しみでしかたない。
†
狼のラスが我が家に来て、ひと月が経った。
あの後、助けた狼を連れて帰っていいか聞くと父は渋ったのだが、母の一言でOKになった。
母は、ラスが自分達に危害を加えることはないだろうと言っていた。やっぱり法術を扱える人ってのは、そういうことを感じとる力が強いんだろうか。
ラスっていう名前は父が付けた。特に意味はないらしい。
聞いたら、「感覚だよ、感覚!」と胸を張って答えられてしまった。
しかし、さすがに狼が家にいるっていうのはまずいから、対外的には、ラスは「犬」ってことになってる。
すっかり元気になったラス。だがどうにも様子がおかしい。いくら狼とはいえ、家の屋根に飛び乗れるほどジャンプ力があるって、どういうこと?
背中に乗せてくれるのは嬉しいけど、信じられないスピードで走っちゃってるし。
……これは、やっぱりあれか? 俺の他者強化能力が原因ですか?
ある時、なんとなく気になって試してみたのだ。
俺の能力は、動物にも有効なようです。
それに、ラスはとても賢い。
芸を教えたら、すぐに覚えてしまった。
俺はその成果を見せるため、広間に家族を集めていた。
「ラス、お手!」
「わう!」
「おかわり!」
「わう!」
「伏せ!」
「わうう!」
「宙返りだ!」
「わふ!」
俺の言葉に、ラスは勢いよく宙返りをする。
「おおー!」
「すごいわねえ」
「きゃー!」
家族はラスのその姿に惜しみない拍手を送っている。
ラスは知能も上がっているのか、人間の言葉も少しなら理解できるみたいだ。
今ならトップブリーダーも夢じゃない。
俺とラスはいつも行動をともにしていた。
ご飯の時も、勉強の時も、剣や法術の稽古の時も、寝る時も。
今日も、部屋でラスのお腹を枕に本を読んでいると、開けっぱなしの入口から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「ちょっとアラン、何よ、その犬?」
「あ、フラン姉ちゃん、どうしたの?」
近衛騎士団団長であるジョルジェット・カッティーニ侯爵、その娘であるフランチェスカが、整った顔をしかめてこちらを睨んでいる。
腰あたりまである綺麗な金髪は緩やかにウェーブしており、切れ長の目は少しつり上がっていて、気の強い印象を見る者に与える。
初めて会った時は話しかけても逃げちゃうし、見かけによらず恥ずかしがり屋なのかと思ったけど、最近はだいぶ打ち解けてきた。
ちなみにフラン姉ちゃんは俺の三つ歳上で、身分も俺より上。
以前、格上だからと「フランチェスカ様」と呼んだのだが、フラン姉ちゃんから返ってきたのは拳骨だった。
生意気だからと言っていたが、他人行儀な態度が嫌だったのだろう。それ以来、俺は「フラン姉ちゃん」と呼ぶことにしている。
「どうしたの、じゃないわよ! せっかく遊びにきてあげてるのに、挨拶もないってどういうこと!?」
「でも、今日来るなんて聞いてなかったよ? ジョルジェット様が来るのは知ってたけど」
「何よ、私がお父様と一緒に来ちゃいけないってわけ!?」
そう、なぜか俺はいつもフラン姉ちゃんを怒らせてしまうのだ。……誰か、理由を知ってたら教えてほしい。
「そんなわけないよ、もちろんフラン姉ちゃんが来てくれて嬉しいよ」
「っ!? ……そ、それなら別にいいのよ。で、その犬は何よ?」
「ああ、ラスっていうんだ、可愛いでしょ?」
「ふ~ん」
フラン姉ちゃんはラスに近寄り、頭を撫でようと手を出すが、ラスは「ぐるるるるる!!」と唸り声をあげて威嚇する。
さすがにびっくりしたのか、慌てて手を引っ込めるフラン姉ちゃん。
「ぜ、ぜんっぜん可愛くないじゃない!!」
「ちょ……ラス、威嚇しないで」
「く~ん」
俺が注意すると、ラスはしょんぼりした声を出して耳を伏せる。
やっぱり可愛いと思うんだけどな。
「アラン、そんな犬放っておいて、中庭に行きましょう? 私、おいしいお菓子持ってきたのよ」
「あ、うん」
立ち上がろうとすると、「行かないで」とばかりにラスが俺の服の裾を咥えて放さない。フラン姉ちゃんは先に行ってしまった。
「大丈夫だよ、フラン姉ちゃんはああ見えて悪い人じゃないよ」
そう言って安心させてやると、ラスは名残惜しそうにしながらも、裾を解放してくれた。
「それじゃ、行ってくるね」
ラスを残して、俺は歩き出した。
中庭では、カッティーニ家のメイドさんがお茶の用意をしてくれていた。
フラン姉ちゃんはすでに優雅に椅子に座っていて「遅いわよ」と文句を言うが、言葉とは裏腹に表情は明るい。
「ごめん、フラン姉ちゃん。それで、どんなお菓子を持ってきてくれたの?」
「フフン、今日は珍しい木の実を使ったお菓子よ」
自慢げに言い、メイドさんに目で合図する。
すると、すぐにお菓子が運ばれてきた。
目の前に置かれたのは、クッキーのような土台の上に黄色のクリームがデコレーションされている、こぶし大のケーキ。
前世でも見たことがある。その見た目から、ある山の名前がつけられていたはずだ。
「……これって」
……モンブラン?
確かそんな名前だった。だとすれば、これは栗が使われているのか?
俺がケーキに見入っていると、フラン姉ちゃんが説明してくれた。
「フフフ。アラン、このお菓子が珍しいみたいね! えっと、これは外国で採れる、スリ……? とかいう木の実を使ったケーキなのよ」
「……栗、じゃないかな? 南のほうで採れるみたいだね」
自信なさげに言うフラン姉ちゃんに、俺は思わずツッコミを入れてしまう。
「そ、そう、栗よ! ちょっと間違えただけよ! 何よ、アランのくせに生意気よ!」
「本で読んだんだよ。それに、食べるのは初めてだよ。ありがとう、フラン姉ちゃん」
モンブランなんて、前世でも食べたことなかったなぁ。
栗といえば、食べたのは甘栗くらいか。
思い出したら、甘栗、ちょっと食べたくなってきた……。
「そ、そう。……まあいいわ、食べましょう」
「うん」
初めてのモンブランを食す。
モンブランはちゃんと栗の味がして、とても美味しかった。
ちなみにこのケーキの名前は、この世界では「レイモンテ」というらしい。由来はどこかの山の名前とのこと。フラン姉ちゃんは知らなくて、メイドさんが教えてくれた。
「そうそう、このス……栗なんだけど、炒ったのをそのまま食べても甘くて美味しいらしいわ」
「へえ~」
「ちょうどそれも持ってきてあるのよ」
これはもしかして、もしかするのか?
フラン姉ちゃんが合図すると、メイドさんが別の器を持ってくる。
俺はそれを見て心の中で歓喜する。盛られているのは、まさしく甘栗だったからだ。
甘栗は皮が剥かれていなかった。
しかし、前世で甘栗の皮の剥き方を袋裏のイラストで完璧に覚えた俺にとっては、造作もないことだ。
栗の腹に爪で亀裂を入れ両サイドを圧迫すると、パキッと小気味良い音を鳴らして中身がさらけ出された。
口に入れるとほろほろと崩れ、程よい歯ごたえと自然な甘みが口の中いっぱいに広がる……やっぱり、うまい。
ふと気づくと、フラン姉ちゃんは困惑した表情で、手にした栗を見ていた。
「……食べないの? おいしいよ?」
「む、剥くのに手が汚れるじゃない。私はいいから、アランが食べなさいよ」
拗ねたように横を向いてしまうフラン姉ちゃんを見て、俺はようやく気がつく。
あ……剥き方がわからないのか。
「僕が剥いてあげるから、フラン姉ちゃんも食べなよ。甘くて美味しいよ」
俺は手早く皮を剥き、それを差し出した。
フラン姉ちゃんは横目で見ながら、口を尖らせて言う。
「そ、そこまで言うなら、食べてあげてもいいわ。……て、手が汚れるから、食べさせてよね!」
「……え?」
「早く!」
フラン姉ちゃんは雛のように口を開けて栗を待つ。さすがに恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。
「じゃ、じゃあ、いくよ?」
俺も意を決して、いざフラン姉ちゃんの口に栗を入れようとしたその時、黒い影が栗を持つ俺の手に襲い掛かった。
ラスが、横合いから栗を奪ったのだ。
いきなりの出来事に動きが止まった俺とフラン姉ちゃんを尻目に、ラスはテーブルの上の甘栗を皮ごとガツガツと貪る。
悲鳴をあげるカッティーニ家のメイドの皆さん。
「この……バカ犬ぅぅぅぅぅ!!」
フラン姉ちゃんは金切り声をあげてラスに飛びかかる。
ラスはそれをヒラリとかわした。
テーブルに突っ伏すフラン姉ちゃん。飛び散る甘栗の残骸。メイドさん達のさらなる悲鳴。
けっこうな惨状である。
「ま、待ちなさい!!」
中庭を駆けまわるフラン姉ちゃんとラス。
フラン姉ちゃんは真っ赤な顔をして追いかけるが、からかうようにぎりぎりの速度で逃げるラスに追いつくことができない。
結局栗はラスに全部奪われ、フラン姉ちゃんは一つも口にすることができなかった。
第三章
アランです。
月日が流れるのは速いもので、俺は八歳になりました。
「にいさま、みてて、みててー!」
「ちゃんと見てるよ! 落ちるなよ、フィアス!」
「はーい!」
ラスの背中の上で元気よく返事をするフィアス。
「ラス、はしって!」
「わふ!」
フィアスが声をかけると、ラスは応えて走り出す。
「きゃーーー! はやいはやーい!」
フィアスは五歳。
最近は、覚えた言葉を俺に教えようとしたり、描いた絵を見せてくれたり、母から教わった歌を披露してくれたりと、行動の一つ一つが本当に可愛くて悶える毎日だ。
今日もフィアスはラスの背中に乗って、歓声をあげている。
初めのうちはずり落ちそうになったりして、見ていてヒヤヒヤしっぱなしだったが、この頃はそれもなくなってきた。
まあ実際は落ちたこともあるんだけど、落ちたと思った次の瞬間ラスはフィアスの服を咥えていて、地面にぶつかることはなかった。
なんという反射神経だとその時は驚いたが、いつの間にかそれが普通になってしまった。
そんなフィアスとラスを見ていて、最近気づいたことがある。
なんというか、体の大きさの対比がおかしいのだ。
俺が五歳の時、ラスは俺と同じくらいの体長だった。しかしフィアスとでは、明らかにラスのほうが大きい。
子供の身長なんて男女でそこまで違うはずがないし、やっぱりこれ、ラスが大きくなったとしか思えない……。
目算だけど、二メートルくらいになっちゃってる。
アーモンド形の円らな瞳に、ふさふさでツヤツヤな体毛、しなやかな体型。
真っ黒だった体毛は、だんだんと白くなってきていた。
屋敷の外を散歩していると、たまに、ラスを見て悲鳴をあげて逃げていく人がいるが、失礼な話である。
……でもまあ、さすがにちょっと大きくなりすぎだという気がしないでもない。一体どれだけ成長するんだろう?
そう思い、いろんな本を読み漁ってみたところ、とある冒険者の手記にそれらしいものを見つけた。
手記にはこうあった。
『ナリアス河のほとりに現れたその魔獣は光り輝く純白の体毛の巨狼で、血のように赤い目を対岸にいる我々に向けてきた。体長はおそらく三ガット以上。足元では三匹の小さな狼が川面に顔を近づけ水を飲んでいた。巨狼は三匹を守るような動きをしている。おそらく子供なのだろう。だが小さいといっても普通の狼の成獣ほどの大きさで、巨狼とは対照的に黒い毛で全身を覆われている。彼らは我々を警戒しながらも動じることなく水を飲み続け、やがて静かに森の奥へと消えていった』
ガットはこの世界の単位で、一ガットが約三メートルだ。
ということは、その巨狼は十メートル近いことになる。
もしもラスがこの狼と同じ種類の魔獣だったら……?
これ以上大きくなったら、さすがに家が大きくとも一緒には暮らせない気がする。
うん、確かにフィアスとじゃれるラスを見て、危険だと感じる人は多いかもしれない。
フィアスはもふもふを堪能しているだけなんだけどね。
この世界の動物は、獣と魔獣の二種類に大別される。
人間が狩ることのできる動物を獣、狩るのには困難な動物を魔獣と呼んでいた。
狩るのが困難というのは、空を飛んでいるとか、逃げ足が速いとか、そういったことではない。単純に生物としての「格」が違うということだ。
魔獣と獣はそもそも肉体の能力差が大きい。さらに魔獣は総じて知能が高く、言葉はもちろん、魔法まで使うものもいる。魔獣の魔法は人間とは比べものにならないほど強力だと言われている。
本で読んだのだが、家屋が浮かび上がるほどの突風を起こしたり、魚が溺れるほどの津波を起こしたり、地割れが起きるほど大地を揺るがしたりするらしいのだ。そりゃ魔獣にもピンからキリまでいるのだろうが、とても人間が敵うとは思えない。
そんな魔獣の代表格は、やはり竜種。
強靭かつ巨大な肉体を鱗の鎧で覆い、知能が高く人語を理解する。霊力も高く、高度な魔法を駆使する。空を自在に飛ぶもの、水中を棲処とするもの、硬い岩盤の下の地底を根城にしているものまでいるという。
そんなドラゴンを討伐しようとした猛者がこれまでに何人もいたそうだが、神話や物語の中にしかドラゴンを倒したという話は残っていなかった。
「ねえ、父様はドラゴンを倒せるの?」
一度父に聞いたことがある。
「倒せるわけねえ」
即答だった。そしてこうも言った。
「アラン。魔獣って奴は、人が手を出せねえくらい強いから魔獣って言われてんだぞ? そりゃ、強い奴もいれば弱い奴もいる。だがな、ドラゴンってのは中でもとびきり強いんだ。なんせ、硬い、速い、賢い。そのうえ奴らは飛んだり泳いだり地中に潜ったりしやがる。そんなの相手に人間がいくら集まろうと、それこそ国が総力を挙げたって、倒すなんて無理だ!」
英雄と呼ばれる父がこう言うのだ。もちろん世界は広いから父より強い人間だっているだろうが、少なくともこの国で最強の父が言うのだ。魔獣には手を出すな、と。
魔獣は知能が高いがゆえに非常に理性的で、こちらからへたに刺激しない限りは牙を剥くことはない。
魔獣による被害は世界各地で報告されているが、近年の研究で、多くは彼らを刺激した人間のせいであるということがわかっている。
魔獣は手を出さなければ怖くない。触らぬ神に祟りなしというやつだ。
だが、自らの欲のために魔獣を狩ろうという、愚かな人々がいるのもまた事実。
魔獣の毛皮や牙は金になる。運よく死骸を見つければ、一生遊んで暮らせると言われるほどだ。
彼らが求めるのは金か、名誉か……。
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