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母は強し、いえ、ど厚かましい

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 執事のリーアムがしばらく王都へ行くことになった。

 クレイグへの引継ぎは、すべてわたしが行った。

 わたしがやってきたことも含め、リーアムや管理人のやっていることもクレイグに伝えた。

 クレイグは、記憶力がよく柔軟性に富んでいる。

 あっという間に引継ぎが終った。

(これでわたしの役目も終わった)

 ホッとするとともに、寂寥感と脱力感に襲われた。

 前の夫のときからずっと働き続けてきた。もっとも、レンを産む前後は休んでいたけれど。

 とにかく、燃え尽きた。やることは全力でやった。国レベルだろうと領地レベルだろうと、王国の人たちや領地の人たちの役に立ちたい。その一心でがんばったつもりである。

 そんなことを思うことじたい、傲慢でひとりよがりなのかもしれない。

 ヒーロー、もといヒロインを気取りたいだけなのかもしれない。

 それでもいい。どうせだれも褒めてくれないのだから。

 自分で自分を褒めればいい。

「気持ちを切り替えないと。これからは、レンとの時間が増える。これまで寂しい思いをさせた分、いっぱいいっぱいかまいたい」

 それこそが、わたしの寂しさを埋めてくれる。癒してくれる。元気をくれることになる。

「待って。もしかして、ここから放り出されるとか?」

 うっかりすぎる。

 当主のクレイグにとって、わたしはただのおしかけ傷物レディ。レンは、そのレディの連れ子。

 マッキントッシュ公爵家の当主であるクレイグは、わたしのことが大嫌いである。だからわたしに興味も関心もない。

 というよりか、いまや鬱陶しいごく潰しな存在になっているに違いない。

 結婚、夫、妻、夫婦。

 クレイグは、そういった概念は持ち合わせていないだろう。

 引継ぎが終わったいま、すぐにでも出ていってもらいたいかもしれない。

「それはそれで仕方がない。五年以上の間、ここに置いてもらえただけでなく、気ままに生活させてくれた。レンを育てる最高の環境を与えてくれた。これ以上なにを望むというの?」

 では、ここから放り出されたらどこへ行く?

 どうするの?

 王都に戻るのもいいけれど、事実上追放されているようなもの。どんなトラブルに発展するかわからない。

 レンもいる。面倒やリスクは避けたい。

「そうだわ。マッキントッシュ公爵家の領地内にいさせてもらおう」

 さいわい、病院や教会関係の仕事にいくらでも空きがある。

 住むところも提供している。

「問題解決ね」

 自分のやってきたことに自分で感謝してしまった。

「これでいつ、クレイグに『出て行け』と言われてもいいわね。だけど、言われるまではいさせてもらおう」

 母は、ど厚かましいのだ。


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