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わたしのことが大嫌いな旦那様
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「わたしではなく、旦那様に確認した方がいいわよ」
「アン。クレイグではまだムリだよ……」
執事のリーアム・ホプキンズが領地内の病院の件で確認をしてきた。
クレイグが帰還した以上、わたしの出る幕はない。
リーアムと管理人に引継ぎを任せている。
あとは、旦那様にすべてを託せばいい。
が、習慣や癖で彼らはわたしに尋ねたり確認してくる。
「まだ引継ぎが終わっていないからな。早急に片付けたい案件は山積みだ」
困った表情のリーアムに苦笑するしかなかった。
彼の言う通りである。
クレイグは、五年間もの間緊迫状態にある国境を見張り、守り続けていた。領地に戻ってきて数日で疲れが取れるものではない。ましてや膨大な量と多岐に渡る情報を吸収できるわけはない。
「ごめんなさい。わたしの配慮が足りず、あなたを困らせてしまったわね。旦那様が執務につけるまで、いままで通りわたしがやります。だけど、『レディごときがしゃしゃり出るな』と不興を買わないかしら?」
以前の二の舞になりかねない。
以前は、しゃしゃり出たくなかったけれどそうするしかなかった。しかし、しゃしゃりでたからといって、すべてを掌中におさめようとしたわけではない。ましてや乗っ取ろうという気など微塵もなかった。
わたしは、愚かで怠惰な国王である夫のかわりに、できるだけのことをやったまでのこと。
その結果が裏切りだった。離縁されただけでなく、冤罪による追放。そして、嫌われ妻として下賜された。
「アン、心配はいらない。クレイグにはちゃんと了承を得ている」
「さすがね、リーアム」
リーアムは、何事も完璧だし先見の明があるし、なによりクレイグとマッキントッシュ公爵家に忠実である。彼は、クレイグとは同じ年齢で乳兄弟。わたしより十三歳年長である。彼は、熟練した執事なのだ。
彼みたいな人が側にいてくれたら、わたしの王宮での政務もすこしははかどったに違いない。彼のように信頼できる人がいてくれたら、精神の支えと慰めになったに違いない。
「さっそく街に行ってくるわ。レンは、まだ庭にいるのかしら?」
「ああ。マーティーに剣を振らされているよ。マーティーめ、レンはまだ五歳だというのに……」
「レンがやりたがっているのよ。まったく、レンはすぐに意地になるのだから。だれに似たのかしらね?」
マッキントッシュ公爵家は、初代公爵のときから武門の家系である。代々、ぶれることなく武でもって王家に仕えている。そういう家だからこそ、屋敷内にはそういう関係のもので溢れかえっている。
レンは、男の子だからというだけではない。まだハイハイしている頃から剣や馬に興味を抱いていた。
マーティー・ハンフリー元大佐は、将軍であるクレイグの側近だった。彼は、戦時中の足の負傷で引退をしたのである。彼は、故郷であるマッキントッシュ公爵領に帰ってくると、領地内の病院で治療とリハビリを行い、いまでは公爵家の雑用人としてわたしを助けてくれている。
マーティーもまたクレイグとは幼馴染であり、剣のライバルでもある。いまではレンの指南役を務めてくれている。
マーティーは、お世辞やおべんちゃらをいうタイプではない。その彼が「レンは、筋がいい」と言ってくれている。
レンもがんばっている。
しばらくは、マーティーにお願いしてレンの好きなようにさせるつもりである。
「アン。クレイグではまだムリだよ……」
執事のリーアム・ホプキンズが領地内の病院の件で確認をしてきた。
クレイグが帰還した以上、わたしの出る幕はない。
リーアムと管理人に引継ぎを任せている。
あとは、旦那様にすべてを託せばいい。
が、習慣や癖で彼らはわたしに尋ねたり確認してくる。
「まだ引継ぎが終わっていないからな。早急に片付けたい案件は山積みだ」
困った表情のリーアムに苦笑するしかなかった。
彼の言う通りである。
クレイグは、五年間もの間緊迫状態にある国境を見張り、守り続けていた。領地に戻ってきて数日で疲れが取れるものではない。ましてや膨大な量と多岐に渡る情報を吸収できるわけはない。
「ごめんなさい。わたしの配慮が足りず、あなたを困らせてしまったわね。旦那様が執務につけるまで、いままで通りわたしがやります。だけど、『レディごときがしゃしゃり出るな』と不興を買わないかしら?」
以前の二の舞になりかねない。
以前は、しゃしゃり出たくなかったけれどそうするしかなかった。しかし、しゃしゃりでたからといって、すべてを掌中におさめようとしたわけではない。ましてや乗っ取ろうという気など微塵もなかった。
わたしは、愚かで怠惰な国王である夫のかわりに、できるだけのことをやったまでのこと。
その結果が裏切りだった。離縁されただけでなく、冤罪による追放。そして、嫌われ妻として下賜された。
「アン、心配はいらない。クレイグにはちゃんと了承を得ている」
「さすがね、リーアム」
リーアムは、何事も完璧だし先見の明があるし、なによりクレイグとマッキントッシュ公爵家に忠実である。彼は、クレイグとは同じ年齢で乳兄弟。わたしより十三歳年長である。彼は、熟練した執事なのだ。
彼みたいな人が側にいてくれたら、わたしの王宮での政務もすこしははかどったに違いない。彼のように信頼できる人がいてくれたら、精神の支えと慰めになったに違いない。
「さっそく街に行ってくるわ。レンは、まだ庭にいるのかしら?」
「ああ。マーティーに剣を振らされているよ。マーティーめ、レンはまだ五歳だというのに……」
「レンがやりたがっているのよ。まったく、レンはすぐに意地になるのだから。だれに似たのかしらね?」
マッキントッシュ公爵家は、初代公爵のときから武門の家系である。代々、ぶれることなく武でもって王家に仕えている。そういう家だからこそ、屋敷内にはそういう関係のもので溢れかえっている。
レンは、男の子だからというだけではない。まだハイハイしている頃から剣や馬に興味を抱いていた。
マーティー・ハンフリー元大佐は、将軍であるクレイグの側近だった。彼は、戦時中の足の負傷で引退をしたのである。彼は、故郷であるマッキントッシュ公爵領に帰ってくると、領地内の病院で治療とリハビリを行い、いまでは公爵家の雑用人としてわたしを助けてくれている。
マーティーもまたクレイグとは幼馴染であり、剣のライバルでもある。いまではレンの指南役を務めてくれている。
マーティーは、お世辞やおべんちゃらをいうタイプではない。その彼が「レンは、筋がいい」と言ってくれている。
レンもがんばっている。
しばらくは、マーティーにお願いしてレンの好きなようにさせるつもりである。
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