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「奥様、旦那様がお戻りになるまでお待ちください」
「そうです。奥様が身代わりなどと、旦那様が許すはずがありません」
「そもそも、身代わりになる必要はありません」
「うまくいくはずがありませんよ」

 お姉様の内密の話は、スタンフィールド侯爵家に響き渡っていた。

 当然、使用人たちはわたしを引き留めた。

 しかし、わたしにも都合というものがある。

 お姉様がここにいる以上、わたしは邪魔になる。彼女にとっても夫にとっても。それだけではない。お姉様を捜している反乱軍の人たちが侯爵領内にいたとすれば、彼らは領民たちに迷惑をかけているかもしれない。

 とりあえず、ここを出て彼らに捕まえてもらう。そのあとは、どうにかなる。

 というか、どうにかすればいい。

「旦那様がお戻りになるまで、迷惑でしょうけど姉をわたしの部屋にでも閉じこめておいてください。旦那様さえお戻りになれば、あとは旦那様がうまくやってくれるはずです」

 夫は、元軍人。将軍だった。その上、政治的にもうまくたちまわっていた。どちらも引退してしまっているけれど、そんな彼ならこの状況をうまくやりすごすはず。

 たとえば、スタンフィールド侯爵領のどこかでひっそり暮らすようにするとか、亡命するとか。あるいは、世間には姉をわたしだということにしてうまくやりすごすとか。

 いずれにせよ、彼ならうまくやる。

 そう信じている。それから、確信している。

 というわけで、恐怖や不安で気が挫ける前にスタンフィールド侯爵家を出て行った。
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