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 この夜もまた、いつものように夫に手紙を書いた。手紙、というよりかは訴えかもしれない。

 彼に顧みられることのない生活に慣れたとはいえ、なにもない生活、なにもない夫婦関係を続けることは時間と労力のムダである。彼もわたしもやり直すのならすこしでもはやい方がいい。本来なら、直接彼に言葉でもって訴えるべきなのだ。というか、お願いすべきなのだ。しかし、わたしは姉とは違う。自分の気持ちをうまく伝えられないどころか、彼の顔をまともに見ることさえ出来ない。

 彼に話せず、見ることが出来ないのはわたしだけではない。彼もまた、わたしに話したり見ることはいっさいない。もっとも、彼の場合はわたしのように臆病だからではなく、わたしのことが大嫌いというのが理由だけれど。

 いずれにせよ、最強のコミュニケーション方法である言葉で伝えることが出来ないから、毎夜彼宛てに手紙を書いている。

 たしかに、手紙でさえ手渡せないというダメダメっぷりだけど。

 いえ、本来なら手渡すチャンスはいくらでもあった。彼は、遠い戦地にいるわけではない。他国ですごしているわけでもない。同じ屋根の下、寝起きしているのだから。すくなくとも朝食と夕食は、いっしょに食べているのだ。わたしたちは、長テーブルをはさんで向かい合わせになり、おたがいにおたがいを見ることなく、当然会話もなく、ただ黙々と食べ物を口に運んでいる。

 彼と食事をするとき、わたしが料理を作っている。社交的で飛びまわっている姉と違い、わたしは屋敷内ですることならなんでも大好きなのである。料理は、もっとも大好きな家事。美味しい不味いはともかく、自分では得意だと思っている。

 とはいえ、彼と食事をすると、どれだけ美味しく仕上がった料理でも美味しく感じられない。きっと料理ではなく、食べている環境がそう感じさせるのだ。

 わたしだけではない。彼もまた、大嫌いなわたしを前にしての料理は美味しくないにきまっている。

 もっとも、彼はわたしが料理を作っていることは知らない。スタンフィールド侯爵家の料理人が作っていると思っている。スタンフィールド侯爵家の使用人たちには、そのようにお願いしているのだ。

 それはともかく、手紙を渡すチャンスはそういった食事のときだけではない。

 彼は、わたしの行動をつねに見張っている。

 とはいえ、わたしに気づかれぬようこっそりとである。わたしも最初は気がつかなかった。しかし、気がついてしまったのだ。

 メイドたちと掃除をしているとき。洗濯物を干しているとき。野菜や花の世話をしているとき。居間で読書をしているとき。町で買い物をしているとき。近くの森にベリーやキノコをとりをしているとき。

 彼は、自分が屋敷にいて時間の許すかぎりわたしを見張っている。というか、監視している。

 わたしがなにかいけないことや悪いことをしでかさないか……。

 彼は、目を光らせている。

 いまではもうそんな彼の厳しい視線にも慣れてしまっている。逆に、彼の厳しい視線がないと落ち着かない。そんな自分に自分で驚いてしまう。
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