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「拝啓 わたしのことが大嫌いな旦那様。旦那様、わたしたちのいまの生活に意味はあるのでしょうか? すくなくとも、わたしにはいまの生活に意味や意義を感じてはいません。そして、これからもそれらを感じることはないかもしれません。このさきずっとです。わたしにはわかっています。あなたにはほんとうに愛するレディがいることを。あなたは、ずっと昔からそのレディのことを愛し、ほんとうはそのレディを娶りたかったということを。それなのに、実際に娶ったのはこのわたしでした。だから、あなたはわたしのことが大嫌いなのです。そのことを、わたしは身をもって知っています。つねに感じています。ですから、そろそろ終わりにしませんか? わたしたちの生活を。この意味のない結婚を。ムダな夫婦関係を。あなたからのお返事をお待ちしております」

 最後に、「ミカ・スタンフィールド侯爵夫人」と署名する。

 この署名をするのは、これを最後にしたい。

 そう考えつつ手紙を折りたたんで封筒に入れ、封をした。

「今度こそ、この手紙を彼の手に……」

 完璧に仕上がった手紙を、窓から射しこむ月光にかざした。

 が、手が勝手に動き、机の端に置いてある箱にそれを放り込んでしまった。

 その箱の中には、彼に嫁いでからずっと書き続けてきた手紙が入っている。

 手紙の数? これまでに何通書いたか? 

 数えたことはない。夜、こうして寝台に横になる前に書いているので、千通よりすくなくはないはず。

 箱の大きさは、最初よりずいぶんと大きくなってしまった。いまのはこの大きさは、幅と奥行きは机の三分の一をゆうに占め、片腕を伸ばせばなんとか手紙を放り込めるほどの高さにまでなっている。

「今度もまた、せっかく書いた手紙を彼に渡すことが出来なかった」

 つぶやいてしまった。つぶやきは、いまやすっかり癖になっている。

 とはいえ、屋敷のみんなの前ではつぶやかないけれど。

「それはともかく、いったいいつになったら彼にわたしの気持ちを伝えられるのかしら?」

 いま記したばかりの手紙の内容を、いつになったら彼に伝えることが出来るのか?

 わたしのことが大嫌いな旦那様に、わたしの気持ちをいつになったら伝えることが出来るのかしら?

 いまのわたしの悩み、というよりか問題である。が、わたしが彼に自分の気持ちを伝えられないというのは、ささやかな問題にすぎない。

 それよりも、彼は妻のわたしを愛していなくて、彼がほんとうに愛しているのはわたしとは違うレディだということが問題なのだ。

 いいえ。それもまだマシな問題。

 最大の問題は、彼がほんとうに愛しているレディには夫がいるということ。しかもその夫というのがふつうではないということ。

 夫がほんとうに愛しているのは、わたしのお姉様。

 彼女はいま、王都にいる。具体的には王宮にいる。

 彼女は結婚していて、その相手がこの国の王太子であるということ。

 わたしの問題というよりか、夫の問題かもしれない。

 自分の愛しているレディは、手を届けようにも届けようがない。

 それは、彼にとっては大問題に違いない。

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