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【最終話】ふたりで死亡フラグへし折り、しあわせになるわ
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「ナオ。きみは、おれがここまで言ってもわからないのかい?」
「はい? いまのでなにかわからないといけないことがあったのですか? もしかして、なにかの伏線だったとか?」
「伏線って、本好きのきみらしいな。とにかく、さきほどのきみの質問『ディーマー帝国に行くことをを許してくださいますか?』の答えは、『ノー』だ。許すつもりはない。というよりか、ぜったいに許さない。きみには、おれの側にいて欲しい。そして、おれを助けて欲しい」
アレックスの断固たる意志は、わたしをおおいに安堵させた。というよりか、よろこばせた。
(よかった。いまのところは、アレックスに必要とされている)
気分が高揚してしまう。気持ちが急上昇する。飛び上がってよろこびたいのを、必死に耐えなければならない。
「殿下、よろこんで殿下の仰せに従います。もっとも、わたしもそのつもりです。殿下がわたしを必要としなくなるそのときまで、わたしは殿下にお仕えします。なにせわたしは、殿下の専属の『できる侍女』ですから」
「ナオ……、待ってくれ。違うんだ。きみは、またもや勘違いしている。おれが望む『側にいてほしい』のは、侍女としてではない。専属侍女としてではなく、その、正式になってだな、それで助けて欲しいんだ」
「はい? それは、失礼いたしました。わたしって早とちりばかりして。やっと理解出来ました。本格的に殿下だけの専属侍女になるわけですね。承知しました。ですが殿下だけにお仕えするのでしたら、副侍女長はやめなければなりませんね。通常の侍女の仕事はしてはいけませんものね」
「ああ、くそっ!」
アレックスは、急に苛立ったように拳で太腿を殴った。
「ナオ、どうしてきみはそう鈍感なのだ。鈍いにもほどがある。いいかげんにわかってくれないか? きみは侍女としては完璧なのに、こういうことはどうしてこうポンコツなのだ?」
「はい? ですが、わたしはわたしです。もしかして、わたしはまだ勘違いをしているのですか? なるほど。本格的に殿下の侍女になっても、他の侍女の仕事もしていいということですね? よかった。それなら、副侍女長を続けられます」
「ナオ、わかった。もういいよ。降参する。おれの負けだ。きみとのことは、地道に努力を続けることにする。とにかく、いまのところは侍女としてでもいい。これまで以上におれの側にいて、助けて欲しい」
「はい、殿下」
「というわけで、ハグしてもいいかい?」
「ハグでしょうか? そのようなこと、ダメにきまっています。お断りいたします。殿下は、カニンガム王国の国王になるお方です。たかだか侍女ごときのわたしに、気安く触れてはなりません」
「はあーっ! まったくもうっ、このさきこれ以上に思いやられるな。おれの理性がどこまで耐えられるか……。もはやこれは、神に与えられた試練だな」
アレックスのおおきな溜息が図書室内に響き渡った。
「さあ、殿下。わたしはもう大丈夫です。ほんとうにご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。皇太子殿下がお腹を空かせているかもしれません。急いで最後の晩餐に行きましょう」
勢いよく立ち上がった。
その瞬間、立ち眩みを起こしふらついてしまった。
が、アレックスがいつものように抱きとめ助けてくれた。
「ナオ、しばらくこのままでいてほしい。というか、このままいろと命じる」
アレックスの胸に抱かれたまま、命じられた通りしばらく動かなかった。
度が合わず、しかも似合っていないメガネが、アレックスの胸に食い込んで彼が痛い思いをしていないかと心配になった。
が、そのアレックスは、そんなわたしの心配をよそにずっとわたしを抱きしめている。
(結局、ハグよりひどくないかしら?)
ハグは挨拶みたいなものだから軽いけれど、これは親密度が違う。わたしにすれば、濃厚すぎる。
だけど、アレックスにされるのはけっしてイヤではない。それどころか、落ち着ける。というか、気持ちがいい。それから、心から安心出来るし守られている気がする。
そんなふうに思えるほど、彼の胸の中はあたたかくてやさしい。
そして、生きる気力が満ち溢れている。夢や希望がひろがっている。
(これからもずっと、出来れば一生彼の側にいたい。そして、彼を守りたい)
一度目の人生のときのように無念の死を遂げることなく、いついつまでも生き続ける。
だれよりもしあわせになる。
アレックスとわたし、ふたりとも。
いまのわたしたちには、夢や希望や前途や将来がある。
わたしたちは、ぜったいに死なない。
(了)
「はい? いまのでなにかわからないといけないことがあったのですか? もしかして、なにかの伏線だったとか?」
「伏線って、本好きのきみらしいな。とにかく、さきほどのきみの質問『ディーマー帝国に行くことをを許してくださいますか?』の答えは、『ノー』だ。許すつもりはない。というよりか、ぜったいに許さない。きみには、おれの側にいて欲しい。そして、おれを助けて欲しい」
アレックスの断固たる意志は、わたしをおおいに安堵させた。というよりか、よろこばせた。
(よかった。いまのところは、アレックスに必要とされている)
気分が高揚してしまう。気持ちが急上昇する。飛び上がってよろこびたいのを、必死に耐えなければならない。
「殿下、よろこんで殿下の仰せに従います。もっとも、わたしもそのつもりです。殿下がわたしを必要としなくなるそのときまで、わたしは殿下にお仕えします。なにせわたしは、殿下の専属の『できる侍女』ですから」
「ナオ……、待ってくれ。違うんだ。きみは、またもや勘違いしている。おれが望む『側にいてほしい』のは、侍女としてではない。専属侍女としてではなく、その、正式になってだな、それで助けて欲しいんだ」
「はい? それは、失礼いたしました。わたしって早とちりばかりして。やっと理解出来ました。本格的に殿下だけの専属侍女になるわけですね。承知しました。ですが殿下だけにお仕えするのでしたら、副侍女長はやめなければなりませんね。通常の侍女の仕事はしてはいけませんものね」
「ああ、くそっ!」
アレックスは、急に苛立ったように拳で太腿を殴った。
「ナオ、どうしてきみはそう鈍感なのだ。鈍いにもほどがある。いいかげんにわかってくれないか? きみは侍女としては完璧なのに、こういうことはどうしてこうポンコツなのだ?」
「はい? ですが、わたしはわたしです。もしかして、わたしはまだ勘違いをしているのですか? なるほど。本格的に殿下の侍女になっても、他の侍女の仕事もしていいということですね? よかった。それなら、副侍女長を続けられます」
「ナオ、わかった。もういいよ。降参する。おれの負けだ。きみとのことは、地道に努力を続けることにする。とにかく、いまのところは侍女としてでもいい。これまで以上におれの側にいて、助けて欲しい」
「はい、殿下」
「というわけで、ハグしてもいいかい?」
「ハグでしょうか? そのようなこと、ダメにきまっています。お断りいたします。殿下は、カニンガム王国の国王になるお方です。たかだか侍女ごときのわたしに、気安く触れてはなりません」
「はあーっ! まったくもうっ、このさきこれ以上に思いやられるな。おれの理性がどこまで耐えられるか……。もはやこれは、神に与えられた試練だな」
アレックスのおおきな溜息が図書室内に響き渡った。
「さあ、殿下。わたしはもう大丈夫です。ほんとうにご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。皇太子殿下がお腹を空かせているかもしれません。急いで最後の晩餐に行きましょう」
勢いよく立ち上がった。
その瞬間、立ち眩みを起こしふらついてしまった。
が、アレックスがいつものように抱きとめ助けてくれた。
「ナオ、しばらくこのままでいてほしい。というか、このままいろと命じる」
アレックスの胸に抱かれたまま、命じられた通りしばらく動かなかった。
度が合わず、しかも似合っていないメガネが、アレックスの胸に食い込んで彼が痛い思いをしていないかと心配になった。
が、そのアレックスは、そんなわたしの心配をよそにずっとわたしを抱きしめている。
(結局、ハグよりひどくないかしら?)
ハグは挨拶みたいなものだから軽いけれど、これは親密度が違う。わたしにすれば、濃厚すぎる。
だけど、アレックスにされるのはけっしてイヤではない。それどころか、落ち着ける。というか、気持ちがいい。それから、心から安心出来るし守られている気がする。
そんなふうに思えるほど、彼の胸の中はあたたかくてやさしい。
そして、生きる気力が満ち溢れている。夢や希望がひろがっている。
(これからもずっと、出来れば一生彼の側にいたい。そして、彼を守りたい)
一度目の人生のときのように無念の死を遂げることなく、いついつまでも生き続ける。
だれよりもしあわせになる。
アレックスとわたし、ふたりとも。
いまのわたしたちには、夢や希望や前途や将来がある。
わたしたちは、ぜったいに死なない。
(了)
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