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パトリック暴走す

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「わが国にどれだけいてくれていい。というよりか、ずっといればいい。そうだ、ナオ。ぜひそうすればいい。そうすれば、全力で礼が出来る」

 パトリックは、なぜか興奮している。その野性的な美貌は、髪や瞳と同じ赤色に染まっている。

「皇太子殿下、どうか落ち着いてください。皇太子殿下のお申し出、光栄です。ですが、わたしはいまの仕事を気に入っています。とくにいまは、専属侍女として第七王子に仕えさせていただいています。たしかにそれ以外の仕事もたくさんあって忙しくはあります。が、その分充実しております。やり甲斐を感じております。殿下もまた、このようなわたしを認めて下さっています。そのお蔭で、皇太子殿下ともこうしてお近づきになれました。そのようなわけで、この仕事を辞めるつもりはないのです。皇太子殿下のせっかくのお申し出ですが、やはりわたしは……」
「きみは、アレックスのことが好きなのか?」
「はぁぁぁぁぁぁ?」

 今日のパトリックはどうかしている。

 なにもかもが唐突すぎるし、想定外すぎる。

 暴走しまくっている

(というか、どうしてそんな質問をするわけ?)

 先程、彼に「いっしょに来ないか?」と尋ねられたときより、どうしていいのかわからないでいることに気がついた。

 というより、かなり動揺している。

 なぜかはわからないけれど。

「ナオ、わかった。では、そのアレックスに尋ねてみよう。もしも彼がいいと言えば、いっしょに来てくれるだろう?」
「いえ、それは……」

 パトリックは、なぜか執拗に迫ってくる。しかも強引である。

「さっそく会ってもらうよう、アレックスの執事に頼もう」
「ちょちょ、こ、皇太子殿下っ、お、お待ちくださいっ」

 パトリックは、蹴るようにして席を立った。その勢いで椅子が倒れた。そして、彼は走りだした。図書室の扉へ向かって。

 彼はわたしの制止をものともせず、図書室から飛び出してしまった。


「いまのはいったい、なんだったの?」

 ひとり取り残され、椅子の背にもたれて溜息をついた。

「バンッ!」

 その瞬間、いま閉じたばかりの図書室の扉が音高く開いた。

「きいたぞ。あんな女好きのスケベ野郎と行く必要などない。ったく、よその国まで来てなにをしでかすやら。油断も隙もない奴だ。いいな? おまえは、ここにいればいい。なんなら、おれ専属の侍女にしてやる。そうすれば、おれ以外の連中にこき使われずにすむからな。おまえは、おれの為だけに働けばいい」

 酒焼けした怒鳴り声にハッとした。

 先程のパトリックとのやり取りを、扉にはりついて盗み聞きしていたらしい。

 盗み聞きなどという人間として最低なことを平気でやってのけたのは、第一王子マシューだった。
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