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アレックスも知らなかった!
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「即位について公表された以上、覚悟をきめなければならない」
「あの、殿下。即位の公表についてはご存知だったのですか?」
無礼を承知で尋ねてみた。
「いいや、知らされていなかった。まず、国王陛下と妃殿下の登場に驚いた。驚いている中、あの公表でさらに一撃を食らったという感じだね」
「殿下、即位そのものの話は?」
無礼を承知で、さらに踏み込んで尋ねてみた。
こんなこと、侍女ごときが踏み込んでいい内容ではない。
アレックスは、しばしだまっている。
さすがに踏み込みすぎたかと謝罪しようと口を開きかけた。
「じつは……」
すると、彼が左右を見まわした。
いまは、確実にふたりきりである。神経を集中しても、この周囲に人の気配はしない。立ち聞きや盗み聞きされている可能性は、かなり低い。
それは、アレックスもわかっているはず。
それでも、彼は左右を見まわした。
人間というものは面白い。わかっているはずなのに、秘密の話をするときやうしろめたいときについつい確認してしまう。
「その話もなかったんだ。昨夜、ほんとうにはじめてきかされた。だからこそ、余計に驚いている」
「……」
自分で尋ねておきながら、アレックスの返答に言葉を返すことが出来なかった。
(打診や事前通告もないなんて……。国王は、よほどアレックスのことを認めているのね。それだけではない。もしかすると、一刻もはやく退位する理由があるのかもしれない)
「おれの国王即位のことを、第一王子から第六王子までがどのように受け止めているのか……。そちらの方が心配でね。さきほども言った通り、そうと決まった以上は全身全霊をもって務めに励むつもりだ。いいや、『つもり』ではない。ぜったいに励む。しかし、国王になることがうれしいとか栄誉だとかいう気はしない。むしろ……」
アレックスは、さらに声のトーンを落とした。これもまた、人間の自然な動作である。
「ナオ。きみだからこそ言えるが、正直迷惑だ。出来るならば、国王になどなりたくない。それよりも、国王を補佐したい。補佐し、盛り立てたい。国王陛下を見ていて、つくづく思うよ。地位に合うだけの苦労や困難がある、とね。けっしていいことばかりではない。それどころか、よくないことばかりだ」
「第一王子は、『他の王子たちとともにサポートする』とおっしゃっていましたが……」
「それもどうだろうか。きみはもちろんのこと宮殿内の多くの人が知っている通り、彼らは国王という地位に興味はない。それよりも、責務を背負わない程度で贅を尽くしたいだけだ。しかし、それもいつどうかわるかわからない。それぞれの後ろ盾しだいでね。ほら、宰相がいい例だろう? 彼も知らなかったようだし、このさき彼がどう出てくるかという問題もある」
アレックスの懸念は当然である。
王子たちには、それぞれ有力な政治家たちがついている。そして、ジョエルもである。
しかしジョエルにいたっては、娘のキャロラインを嫁がせるのである。ということは、ジョエルは国王の義父になる。
が、将来アレックスとキャロラインとの間に王子が産まれれば……。
やはり、わたしのいまの人生でのアレックスもまた、いろいろヤバいことにかわりはなさそう。
「あの、殿下。即位の公表についてはご存知だったのですか?」
無礼を承知で尋ねてみた。
「いいや、知らされていなかった。まず、国王陛下と妃殿下の登場に驚いた。驚いている中、あの公表でさらに一撃を食らったという感じだね」
「殿下、即位そのものの話は?」
無礼を承知で、さらに踏み込んで尋ねてみた。
こんなこと、侍女ごときが踏み込んでいい内容ではない。
アレックスは、しばしだまっている。
さすがに踏み込みすぎたかと謝罪しようと口を開きかけた。
「じつは……」
すると、彼が左右を見まわした。
いまは、確実にふたりきりである。神経を集中しても、この周囲に人の気配はしない。立ち聞きや盗み聞きされている可能性は、かなり低い。
それは、アレックスもわかっているはず。
それでも、彼は左右を見まわした。
人間というものは面白い。わかっているはずなのに、秘密の話をするときやうしろめたいときについつい確認してしまう。
「その話もなかったんだ。昨夜、ほんとうにはじめてきかされた。だからこそ、余計に驚いている」
「……」
自分で尋ねておきながら、アレックスの返答に言葉を返すことが出来なかった。
(打診や事前通告もないなんて……。国王は、よほどアレックスのことを認めているのね。それだけではない。もしかすると、一刻もはやく退位する理由があるのかもしれない)
「おれの国王即位のことを、第一王子から第六王子までがどのように受け止めているのか……。そちらの方が心配でね。さきほども言った通り、そうと決まった以上は全身全霊をもって務めに励むつもりだ。いいや、『つもり』ではない。ぜったいに励む。しかし、国王になることがうれしいとか栄誉だとかいう気はしない。むしろ……」
アレックスは、さらに声のトーンを落とした。これもまた、人間の自然な動作である。
「ナオ。きみだからこそ言えるが、正直迷惑だ。出来るならば、国王になどなりたくない。それよりも、国王を補佐したい。補佐し、盛り立てたい。国王陛下を見ていて、つくづく思うよ。地位に合うだけの苦労や困難がある、とね。けっしていいことばかりではない。それどころか、よくないことばかりだ」
「第一王子は、『他の王子たちとともにサポートする』とおっしゃっていましたが……」
「それもどうだろうか。きみはもちろんのこと宮殿内の多くの人が知っている通り、彼らは国王という地位に興味はない。それよりも、責務を背負わない程度で贅を尽くしたいだけだ。しかし、それもいつどうかわるかわからない。それぞれの後ろ盾しだいでね。ほら、宰相がいい例だろう? 彼も知らなかったようだし、このさき彼がどう出てくるかという問題もある」
アレックスの懸念は当然である。
王子たちには、それぞれ有力な政治家たちがついている。そして、ジョエルもである。
しかしジョエルにいたっては、娘のキャロラインを嫁がせるのである。ということは、ジョエルは国王の義父になる。
が、将来アレックスとキャロラインとの間に王子が産まれれば……。
やはり、わたしのいまの人生でのアレックスもまた、いろいろヤバいことにかわりはなさそう。
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