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第一王子と第七王子

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「もしかして、マシューなのかい?」
「やあ、アレックス」

 アレックスもまた、マシューと認識した瞬間に足を止めた。

 その美貌に困惑の表情を浮かべて。

 マシューを見つめ、それから澄み渡った空と同じ色の瞳をわたしに向けた。

『ナオ、どういうことだい?』

 アレックスにそう尋ねられた。

 心の中で、である。言葉には出さなかったのに、なぜかそれがわかった。

「殿下、おはようございます」

 お間抜けだけど、まずは朝の挨拶をしていた。それが侍女としての、というよりか人間としての基本的なマナーのひとつだから。

「ナオ、おはよう」

 アレックスも同じ考えだったみたい。即座に挨拶を返してくれた。

「アレックス。国王即位、おめでとう」

 マシューは、マイペースなところがある。

 悪いように表現すると、自分勝手とか「空気を読まない」というのかもしれないけれど。

「ありがとう、マシュー。その、第一王子のきみを差し置いて……」

 アレックスは、バツが悪いはずである。

 なにせアレックスは、王位継承権から一番遠い存在だったのだから。というよりか、国王の座を継承される可能性は、なきに等しかったのだから。

 それなのに、いきなり即位することになった。バツが悪いどころの騒ぎではない。

「アレックス、気にするなよ。国王は、きみがなって然るべきだ。心配するな。きみのことは、おれはもちろんのこと他の王子たちがしっかりサポートしてくれる。だから、きみはしっかり国王としての責務を果たせばいい」

 マシューに酒焼けしたような、というよりか酒焼けした耳障りな声で励まされても、アレックスはうれしくないかもしれない。

 すくなくとも、わたしはうれしくない。
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