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ホッと一息

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 厨房での準備も滞りなかった。

 ハプニングはあったけれど、順調に進んでいる。

 わずかながら、なんとか食事をする時間ができた。

 料理長のケヴィンが。わたしの為にサンドイッチを作ってくれていた。

『ナオ、どうせなにも食っていないのだろう? サンドイッチならつまめるはずだ』

 ケヴィンは、わたしがつねにバタバタしていることを知っている。彼は、わたしの前の人生では「役立たず侍女」だからと食べさせてもらえなかったのを心配し、こっそり食べ物を融通してくれた。そして、わたしのいまの人生ではその逆で「できる侍女」だから忙しすぎて食べる暇がないのを心配し、食べ物を融通してくれる。

 いずれにしても、ケヴィンには感謝しかない。

 彼はサンドイッチだけでなく、保温製のティーカップにお茶まで準備してくれていた。

 ありがたくて涙が出そうになった。もちろん、ありがたく頂戴した。

 迷ったけれど、例のバラ園でサンドイッチを食べることにした。

 バラ園は、立ち入り禁止である。その為、だれも近づかないからこっそり食べることができる。

 訂正。アレックスだけは平気でバラ園に入るのだった。それから、わたしもである。

(バラ園にサッと行き、パパッと食べてしまおう)

 というわけで、バラ園のいつものベンチに座り、膝の上でサンドイッチの包みを広げた。それから、保温製のティーカップの蓋を開けてお茶を飲んだ。

「はあーっ」

 おもわず、安堵と満足の溜息が漏れてしまった。

「まるでおじさんよね」

 おもわず、声に出して笑ってしまった。

 そのとき、なぜか先程のキャロラインとアンドレア妃のトラブルが思い起こされた。

 結局、キャロラインがアンドレア妃を平手打ちしたことで、いったんふたりを引き離すことが出来た。さすがのキャロラインも、アンドレア妃を平手打ちしたことは「マズい」と悟ったらしい。直後にわたしがふたりの間に割って入ったら、素直に従ってくれた。アンドレア妃もまた、キャロラインに平手打ちされたことで冷静になった。

 解決したわけではない。それどころか、なんの解決策も見つかっていないし、解決にいたる道筋さえ見出せていない。

 ただ物理的に引き剥がしただけにすぎなかった。

 もしかすると、このあとのパーティーで再燃するかもしれない。たとえば、宰相がキャロラインとアレックスの婚儀を発表したときに、アンドレア妃が夫のマシューとキャロラインの情事を告発するかもしれない。あるいは、マシューが自分の浮気相手であるキャロラインとアレックスの婚儀に異を唱えるかもしれない。

 とはいえ、逆になにもないかもしれない。

 アンドレア妃もマシュー、それからキャロライン自身、スキャンダルを回避する為にパーティーの場ではおとなしくしているかもしれない。

 この先のことは、残念ながらわたしにはわからない。そして、たかだか侍女のわたしに出来ることはなにもない。

 防いだり止めたりすることも含め、わたしごときになにかができるわけはない。また、なにかができると思うほど、わたしは自惚れてはいない。

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