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いったいどういう声なの?

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 目的地に行くには、イヤでも灯りの漏れている部屋の前を通過しなければならない。

 この『踏み込まずの回廊』には窓がない。しかも使用されていない為に灯りの設置もない。その為、いまのような日中でも薄暗い。

 そういえば、うめき声のようなものは、日中や夜もまだ早い時間になど時間を問わずきこえるらしい。こういう怖い話にあるように、真夜中だけにきこえるわけではない。

 もっとも、夜も遅い時間に侍女や執事、ましてや王族のだれかがこの『踏み込まずの回廊』をうろつくということはない。だから、真夜中でもきこえるのかどうかはわからないのだけれど。

 とにかく、いまはこのまま進むしかない。

 というわけで、気配と足音を消してそのまま進んだ。

 近づくにつれ、それがただのうめき声ではないことに気がついた。

 めったにきくことのないその声がどういうときに発する声なのか、本能的に悟った。

 足を止めた。

 これ以上近づくことに躊躇した。というのも、声の正体がよからぬモノの方がよかったかもしれないと思ったからである。

(仕方がない。時間もないことだし、部屋の中は見ないでおこう)

 そう決意し、また足を動かし始めた。

 うめき声というよりか、喘ぎ声はますます大きく激しくなっていく。喘ぎ声は、男女ふたつのものである。確実にクライマックスを迎えつつあるらしい。喘ぎ声だけでなく、「パンパン」という肌と肌がぶつかりあう音も混じっている。

(わたし、部屋の中を見てはダメ。ぜったいに見てはダメよ)

 そう言いきかせつつも、頭の中で空想が止まらない。

(侍女と執事、よね?)

 空想だけではない。詮索も止まらない。

 そこまで詮索をするものの、「はたしてだれとだれなのか?」という具体的な人物は思い浮かびそうにない。

 わたしは、どちらかといえば色恋沙汰には疎い。疎いというよりか、まったくわからない。とてつもなく鈍感である。そうハッキリくっきりスッキリ断言出来る。自信がある。それは、前の人生でも今の人生でも同じことである。

 だれかから「結婚するんです」とか「いっしょに住むことになりました」とか、報告を受けたり噂をきいて初めて驚愕してしまう。

 侍女と執事がそういう関係になっていて、目の前の部屋でそういうことをいたしているとしても、見てみぬふりが出来るはず。気がつかなかった的に通りすぎることが出来るはず。

(わたし、出来るわよね? いいえ。出来るはずよ。違うわね。出来るようにするのよ)

 いろいろ考えたり言いきかせている間に、いよいよその部屋の前に達した。
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