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相談

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「やあ、ナオ」
「こんにちは、料理長」

 料理長のケヴィンに近づくと、彼は鍋を洗う手を止めこちらへ体ごと向き直った。そのやさしい顔には、やわらかい笑みを浮かんでいる。

「料理長、明日のパーティーのことをききましたか?」
「ああ、つい先程な。宰相から使いが来た。たしかディーマー帝国の宗教は、獣肉が禁止されているのではないだろうか?」
「さすがは料理長。おっしゃる通りです」
「宰相は、そのことを知っているのかな?」
「彼は、知識が豊富です。国の内外の政治経済文化宗教などなど、なんでもよく把握されています。さらには、つねに最新の情報を収集するのに余念がありません。ディーマー帝国の教義では獣肉が禁止されているということだけでなく、かの国の皇族の食べ物の趣向も把握されているでしょう」
「そうかもしれないな。ナオ。きみも知っての通り、明日のパーティーそのものは王族主催だ。しかし、ディーマー帝国の皇族を招いて接待するのは第七王子が務めることになっている」
「そうなのですか? それは知りませんでした」

 第七王子とは、アレックスのことである。

「そのことはきいていませんでした」
「明日のパーティーでは、第七王子のことで発表もあるらしいが……」
「それでしたら、なにがなんでも明日のパーティーと皇族の招待を成功させねばなりませんね」
「そうなのだが、メニューについて悩みどころだな」
「そのメニューのことなのですが、もしよろしければ相談にのっていただきたくて。これは、あくまでもレシピ本からの受け売りというか、インスピレーションがわいたというかなんですが……」

 そう前置きをし、考えているレシピについて話をした。

 そうして、彼としばらく打ち合わせをした。

 ケヴィンは、ランチや休憩を取ることをすっかり忘れていた。それほど打ち合わせに没頭してしまった。

 もちろん、わたしもである。

 もっとも、わたしはいつもだけれど。

 アレックスのお茶の時間が近くなり、やっと終わった。

 慌ててクッキーとお茶を、アレックスの執務室へ運ばなければならなかった。

 結局、その日はパーティーと食事会の準備に夜遅くまでかかった。

 ケヴィンとわたしはもちろんのこと、料理人たち総出で備えなければならなかった。
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