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アレックスと午後のお茶を

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 本来なら、アレックスと同じテーブルでお茶を飲んだりスイーツを食べたりということは許されない。それどころか、親し気に会話を交わしたり同席することも出来ない。わたしは、あくまでも侍女。侍女は、給仕をする存在である。王子であるアレックスといっしょに食べたり飲んだりすることじたい、けっしてあってはならない。

 が、わたしはそれをしている。もちろん、わたしの意思でない。さらにいうと、なにも好き好んで彼と食べたり飲んだりしているのではない。もっとも、ランチ抜きのお腹を満たすという点では助かってはいるのだけれど。

 お腹を満たすということは省いて、本来なら給仕をするべき相手、つまり王子の命令なので仕方なく食べたり飲んだりしていることはたしかである。

 もっとも、してはならないことを毎日のようにしていることもたしか。二度目の人生に突入し、アレックスになかば強要されていっしょにすごし始めた当初こそ、緊張感や背徳感でいっぱいだった。が、それもしだいに薄れてきた。そして、いつの間にかわたしにとってこの午後のティータイムは、いい息抜きであるとともに楽しみのひとつになっていた。

 午後のティータイムだけではない。朝のバラ園でのほんのわずかな時間の散歩もである。

 死に戻った翌朝、アレックスとバラ園で出会った。そのときに彼からもらったバラの花束は、ドライフラワーにした。それは、いまでもわたしの部屋に飾ってある。アレックス自身の執務室に飾ってあったバラに関しては、花びらを乾燥させてローズティーにした。

 いま飲んでいるローズティーは、わたしが図書館で借りた本を参考にしてつくったものである。

「このローズティーはほんとうに美味いよ」
「殿下、お代わりはいかがですか?」

 ササッと食べて飲み終わると、それからは侍女になる。席を立ち、きっちり給仕をする。アレックスは「落ち着かないからしばらく座っていて欲しい」と毎日のように言うけれど、このテラスは丸見えである。そういうわけにはいかない。

 つい先程の宰相ジョエルに嫌味を言われたこともある。いつなんどき、だれになにを言われるかわからない。

「いただこう。ナオ、もう少しの間座って話をしよう。きみもお茶のお代わりをすればいい」
「充分いただきました」

 彼のカップにお茶を注ぎつつ、彼の申し出をやんわり拒否した。

「まったく、きみは真面目だな。だが、そのお蔭で王宮中のみんなが助かっているのだがね。とくにおれは……」
「殿下。おだてていただいても、わたしは塵や埃くらいしか出せません」
「ハハッ! きみは真面目なだけでなく、ユニークでもあるな。それにおっちょこちょいだし」

 陽光に彼の笑顔が輝きを放っている。

 それに一瞬見惚れてしまい、ティーポットをテーブル上に置いたつもりが空を切ってしまった。

「キャッ」

 ポットが落下するのを、両手を伸ばす。が、アレックスの両手の方が速かった。

 彼の両手がティーポットを華麗にキャッチした。



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