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わたしを殺した人

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「やあ、副侍女長」

 ジョエルは、ガラス扉の前にいるわたしと目が合うと友好的な笑みを浮かべて親し気に言った。

「宰相閣下、ご挨拶申し上げます」

 制服のスカートの裾を持ち上げ挨拶をする。

「殿下とアフタヌーンティーかな?」

 こちらに近づいてきた。

 コツコツと彼の革靴が小気味よい音を立てる。

 たしか彼の年齢は、わたしが彼に殺されたときと同じはず。

 五十歳手前だったわたしのボロボロの容貌と比較すると、彼の容貌は年齢通りには見えないし感じられない。

 まだ四十代前半? それどころか四十代手前だといってもおかしくないように見えるし感じられる。

 彼は、正妻を亡くして以来再婚していない。レディとの噂は、ときどき耳にする。それでも貴族令嬢や侍女たちの憧れの的である。

 ジョエルは、アレックスとは違った意味でモテている。

 彼を狙っているレディは、カニンガム王国の内外を問わず多い。

「王子殿下のティータイムの準備でございます」

 ジョエルの先程の微妙な言葉を訂正しておく。

 実際、アレックスとふたりでお茶をしている。しかし、表向きはアレックスだけがお茶を楽しんでいる。わたしは、あくまでも給仕をしているにすぎない。

 なにせわたしは、アレックスの専属の侍女なのだから。

「これは失礼」

 わずかながら、ジョエルとわたしの間に緊張感が漂っている。

 彼の知的な美貌にさらに友好的な笑みが浮かんだ。

「ナオ。きみの侍女としての能力はいうまでもなく、多くの侍女たちを束ねる采配ぶりは見事としかいいようがない。侍女たちは、きみに使われているとは感じていない。だれもがきみの為に動いているようにうかがえる。そういうカリスマ性は、上に立つ者として、あるいは責任ある立場として、もっとも必要な能力だ。それだけでなく、きみはみんなから慕われている。きみは、いまやなくてはならない存在になっている。ナオ。きみは、生まれながらの『侍女』だ。絶対的な『副侍女長』といっても過言ではないだろう」

(ちょっ……。いくらなんでもおだてすぎじゃない?)

 前の人生においてわたしを背中から刺殺した男は、いま目の前でわたしのことをおだてまくっている。

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