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未明

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 何時間くらい、戦っただろう。
 お互い、ガラスであちこちを切っていたし、何時間も続く戦闘に息も荒げていた。
 彼は彼自身で、足元のガラスを払った。


「俺様相手に、こんなにやるとはな。お前、一体何者なんだ?」

「……政府の家畜です」

「家畜にも称号っつーもんがあるだろ」


 彼は挑発的な目を、僕に向けてきた。僕はそれを無視して、ゆっくりと口を開いた。


「……『政府の傀儡』。建前上、日本最強、と言われています」

「あぁ。あの最低品質なのにって噂の奴か」


 彼は僕を知っていた様だった。
 そう、僕の武器種は衣類系であり、それは武器の中でも最低品質の部類に属する。所謂『ジャンク』と呼ばれるものだった。衣類系の武器に人権などほぼ無いに等しく、まさに家畜同等の扱いだった。
 それでも僕は、軍に志願した。
 家畜になる事を、自ら決めたのだった。
 彼は少し満足げに、目を細めた。


「成る程な。まさに叩き上げってやつか。通りで強いわけだ」

「……鍛えれば、誰でも強くなれます」

「鍛えても、人間は途中で妥協するもんだ。お前は一体何の為に、そこまで強くなったんだ?」


 変な質問だと思った。何の為に……??


「……僕を理解してくれる人と出会う為……でしょうか。はっきりした事は分かりません」

「そうか。お前の本心はきっとそれだぜ」


 彼は包丁を掲げた。僕もそれに合わせて、身構えた。何故か、次の一手が、最後になる気がした。


「勿体ねぇなぁ。お前の魂はそんなに熱いのに、それを表現する心は冷めてるなんて。行動は魂に素直に従っているのに、心はそれを否定している……。まだお前は、本当の意味で家畜になっていない」

 
 僕は彼の言葉を否定しようとした。けれど、彼は手で僕を止めた。
 そして、僕を指差して、会心の笑みを称えた。


「お前は、人間になりたがっているんだ」


 僕はその言葉に、許せないものを感じた。
 そんな筈は無い、そんな事無いっ!!そんな感情、とうの昔に消し去った筈だ!!そんな事を言う為に僕を止めたのか。今の僕を否定する為に!!


「僕を否定しないでください!!僕は、僕は間違っていない!!今のこの在り方が、僕にとっての正解なんです!!」

「頑なになるっー事は、図星か?」

「違うっ!!!」


 僕は無策で、彼目掛けて駆け出した。早く、早く彼の喉を掻き切らなければ!
 僕の全てを否定されてしまう前に!!


「それを待っていたぜ」


 彼は僕に向かって、包丁を振り下ろした。僕は体を捻って、それを紙一重で避けた。その次の瞬間、僕の手首を彼は力強く掴んだ。僕はハッとなった。
 いつもなら、伸びてきた瞬間分かるのに。僕は、冷静さを失う様に誘導されていた!


「!!」
 

 いつの間に上に戻っていたのか。彼の刃が、真っ直ぐ淀みなく僕に降りてくる。その美しい筈の白と赤の融合体に、僕は恐怖した。
 
(これから僕は、両断される……!)

 そう思うと、急に心に色々なものが溢れ出した。どれも経験した事のないもので、名前は分からなかったけれど、これだけは分かる。

(もっと、人形のままでも、生きていたかった!)


「任務失敗……!」
 
 
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