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 この村は夜になると、昼の暑さとは打って変わって、清涼な空気を辺りに漂わせた。そんな涼やかな夜の時間が流れる中、僕は奥の部屋で、天窓からみえる夜空を眺めていた。


「お前も、この部屋が気に入ったか」


 彼が、ビールを2本程持って部屋に入ってきた。どうやらお風呂上がりのようで、綺麗な髪がさらに艶がかっていた。彼は僕の隣に座った。彼の髪が床に広がって、白銀の絨毯を引いた。
 カシュっと、いい音が鳴る。


「確かに、何も無いのが、かえって心地いいです」

「お前には分かるか」


 そう、この部屋には本当に何も無かった。あるのは、白い壁と床、窓だけ。空を眺める為だけに作られたとしか思えない天窓が、上に存在している以外は、埃ひとつない、ただの殺風景な部屋だった。
 彼はビールをグイッと飲んだ。


「俺様の知ってる奴は、皆んなが口揃えて『何か他に物を置いたらどうだ』って言うんだ。アイツらは分かってねぇ。俺様の事を分かってねぇよ」


 彼の不敵な深紅の瞳が、少し寂しげに揺れた気がした。僕は彼から目を逸らした。


「そう…ですか」

「あぁ」


 彼はまた酒を飲んだ。僕にはその様子が、喉に引っかかっている辛い事を、無理矢理胃に押し込んでしまおうという風に見えてならなかった。
 彼はフーッと一息ついて、僕にビールを手渡してきた。


「飲め。付き合いってやつだ」

「分かりました」


 彼が手渡してくれた、ごく一般的な市販のビールを、チビッと飲む。僕は昔から、酒があまり飲めなかった。
 彼はそんな僕の様子を眺めて、苦笑した。


「全然飲めねぇなぁ」

「すみません」

「いや、それでいい。人間、どこか抜けてた方が良いもんだぜ」


 彼は夜空を見上げた。昼は太陽の光だけを燦々と浴びていた彼が、今は星の光に照らされていた。彼は太陽と同じく、星を崇高な物のように見ていた。


 『今なら殺せる』


 僕はスッと立って、部屋を出ていくふりをした。

 彼を通り過ぎた瞬間、心臓を『武器』に変えて、彼の首を切り落とすように、自分が出せる最速の手刀を繰り出した。

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