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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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百合の宮へ戻るとちょっとした騒ぎになっていた。
側妃が一言もなく姿を消したのだからそれはそうだろう。
だが伯爵家から連れてきたミザリーがいないこと、侍女たちが抜け出す時に協力する御者と侍女用の馬車が一台無くなっていることから、そういうことだろうと思われていたようだ。
部屋に戻ったルイザが一息ついているとイーネがやってきた。
いつも傍にいるイーネがこの一大事に駆けつけて来なかったのは不思議なことだが、イーネがいなかったからこそ抜け出せたとも言える。
勝手なことを仕出かしたルイザは滾々と説教を受けた。
ルイザだけではなく腹の中の子も危険な目に合わせたのだと言われれば、その通りなので謝るしかなかった。
説教が一段落すると、ルイザはイーネに訊きたいことがあった。
訊かなくてももうわかっていることだが……、それでも百合の宮で一番権力を持っている者に確認したい。
「陛下は薔薇の宮で暮らしているの?」
「はい。さようでございます」
ルイザは決死の思いで尋ねたのに、イーネはあっさり頷いた。
だがイーネがすぐに来なかったことを思えば、先に御者へ何があったのか聞いていたのだろう。
御者は抜け出すのに協力したことを口外しないようにと言っていたけれど、それは鳳凰の宮へ行くだけのこと。半日近く宮を抜け出していたのだから、隠し通せるはずがないとわかっていたのだろう。そしてすべて話したのだ。
「……授業では国王陛下は鳳凰の宮で生活されると教わったわ」
「それは間違いではありません。歴代の国王陛下は鳳凰の宮でお暮らしになっておられました。陛下の宮も正式には鳳凰の宮でございます」
国王の住まいは鳳凰の宮と決められている。現在の鳳凰の宮の主はカールだ。
ただカールはエリザベートと生活を分けるのを嫌がり、たまの着替えや内密に人と会う時くらいしか鳳凰の宮を使っていない。
「い、いつから薔薇の宮に?」
「初めからでございます。授業でお習いになったでしょうが、王太子殿下は成婚されると妃殿下と共に黎明の宮でお暮らしになります。国王に即位されると同時に鳳凰の宮と薔薇の宮に分かれて暮らすことになられますが、陛下はそれを良しとされず、妃殿下と生活を共にすることを望まれました」
「初めから………」
カールとエリザベートは政略結婚のはずだ。
だけどそれではルイザが思っていたような政略結婚ではなく、愛し合って結ばれたように聞こえる。
二人は愛し合って結ばれた。
確かに父も、二人は婚約時代から仲睦まじかったと言っていた。
「……なぜ教えてくれなかったの?」
「お教えしていたら、何か変わったのですか?」
「っ?!」
問い返されてルイザは弾かれたように顔を上げた。
初めから知っていたらーーー。
知っていたら、カールの愛情を求めることはなかっただろうか?
関心を得たいと思わなかっただろうか?
そんなはずはない。
二人は愛し合っているのだとこうして知った後も、どうすればカールの関心を引くことができるのかと考えているのだから。
「だけど少しくらい私も愛されて良いはずよ。私は陛下の子を産むのよ?!私だって妃なのにーーーっ!!」
気がついたら叫んでいた。
こんな癇癪を起こしたのは初めてだったが、イーネは何も言わずに視線を伏せていた。
側妃が一言もなく姿を消したのだからそれはそうだろう。
だが伯爵家から連れてきたミザリーがいないこと、侍女たちが抜け出す時に協力する御者と侍女用の馬車が一台無くなっていることから、そういうことだろうと思われていたようだ。
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いつも傍にいるイーネがこの一大事に駆けつけて来なかったのは不思議なことだが、イーネがいなかったからこそ抜け出せたとも言える。
勝手なことを仕出かしたルイザは滾々と説教を受けた。
ルイザだけではなく腹の中の子も危険な目に合わせたのだと言われれば、その通りなので謝るしかなかった。
説教が一段落すると、ルイザはイーネに訊きたいことがあった。
訊かなくてももうわかっていることだが……、それでも百合の宮で一番権力を持っている者に確認したい。
「陛下は薔薇の宮で暮らしているの?」
「はい。さようでございます」
ルイザは決死の思いで尋ねたのに、イーネはあっさり頷いた。
だがイーネがすぐに来なかったことを思えば、先に御者へ何があったのか聞いていたのだろう。
御者は抜け出すのに協力したことを口外しないようにと言っていたけれど、それは鳳凰の宮へ行くだけのこと。半日近く宮を抜け出していたのだから、隠し通せるはずがないとわかっていたのだろう。そしてすべて話したのだ。
「……授業では国王陛下は鳳凰の宮で生活されると教わったわ」
「それは間違いではありません。歴代の国王陛下は鳳凰の宮でお暮らしになっておられました。陛下の宮も正式には鳳凰の宮でございます」
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ただカールはエリザベートと生活を分けるのを嫌がり、たまの着替えや内密に人と会う時くらいしか鳳凰の宮を使っていない。
「い、いつから薔薇の宮に?」
「初めからでございます。授業でお習いになったでしょうが、王太子殿下は成婚されると妃殿下と共に黎明の宮でお暮らしになります。国王に即位されると同時に鳳凰の宮と薔薇の宮に分かれて暮らすことになられますが、陛下はそれを良しとされず、妃殿下と生活を共にすることを望まれました」
「初めから………」
カールとエリザベートは政略結婚のはずだ。
だけどそれではルイザが思っていたような政略結婚ではなく、愛し合って結ばれたように聞こえる。
二人は愛し合って結ばれた。
確かに父も、二人は婚約時代から仲睦まじかったと言っていた。
「……なぜ教えてくれなかったの?」
「お教えしていたら、何か変わったのですか?」
「っ?!」
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初めから知っていたらーーー。
知っていたら、カールの愛情を求めることはなかっただろうか?
関心を得たいと思わなかっただろうか?
そんなはずはない。
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「だけど少しくらい私も愛されて良いはずよ。私は陛下の子を産むのよ?!私だって妃なのにーーーっ!!」
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