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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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カールが王領から戻って数ヶ月。
王宮はここのところ重苦しい空気に包まれていた。
ルイザの出産予定日が近づいているのだ。
「カール様はまだお戻りにならないの?」
一人で夕食を終えた後、自室でお茶を飲んでいたエリザベートは傍に控える侍女に問い掛けた。
問われた侍女が時計に目をやり、応える。
「そうですね……。遣いを出してみましょうか」
普段であれば湯浴みをして寝る準備を始める時間だ。
エリザベートの前に置かれたお茶も既に三杯目であり、手を付けられずに冷めてしまっている。
カールは毎日薔薇の宮で休むと決まっているので、何時頃戻るつもりなのかこちらから問い合わせてもおかしくない。
だけどエリザベートは緩く首を振った。
「いいえ、いいわ。もう少し待ってみましょう」
実のところカールからは執務が立て込んでいるので戻るのが遅くなると言付けを受け取っているのだ。それも手紙ではなく、腹心とも言える侍従が直接伝えてに来ている。
あの侍従はカールがまだ子どもの頃から仕えているので、エリザベートもよく知っていた。
カールが忙しいのも間違いない。
国王としての執務の他にカールはエリザベートが寝込んだ時は王妃の執務も代行しているのだ。つい先週寝込んだばかりのエリザベートが、帰りが遅いからとカールを責めることなどできない。
あの侍従を言付けに寄越したのも、エリザベートを安心させると同時にエリザベートの様子を確認させる為なのだろう。
それがわかっていながら落ち着かないのは、ルイザの出産予定日が近づいているからだ。
他の者から聞くよりはと、侍医の診断はそのままカールから伝えられている。正確な予定日はまだ二週間程先だが、もういつ産気づいてもおかしくない時期なのだ。
カールは普段ルイザや子どものことをほとんど口にしない。
だけどエリザベートはカールがどれほど子ども好きか知っている。
ルイの時も予定日の何日も前からそわそわしていて、日に何度もエリザベートの様子を見に来た。エリザベートが産屋に移ってからは執務が手につかずに薔薇の宮でやきもきしながら知らせを待っていたという。
それを思えば、今もそわそわしながら子の誕生を待っているだろう。
執務が終わらないのは、同じ王宮にいたエリザベートと違って遠い百合の宮までルイザの様子を何度も見に行っているからではないのか。いや、もしかしたら既にルイザの出産は始まっていて、カールは百合の宮で生まれるのを待っているのかもしれない。
侍女が遣いを出そうと言うのを止めたのは、もし遣いを出して、カールが執務室にいないことがわかればこの不安が現実になってしまうからだ。
そうなったとしても、ルイザを迎えたのは子を産んでもらう為なのだからエリザベートに何かを言う資格はない。
いや、子の誕生を誰よりも喜ばなければならない。
側妃を迎えると決めた時は、それがこんなに辛いとは思わなかった。
正妃が子を産めない時は側妃を迎えると妃教育で教わっていた。
病を得て子は産めないだろうと言われながらカールの妃になると決めた時は、いずれ側妃を迎えるものだと覚悟していた。
側妃を迎えたら丁重に迎え入れて仲良くなろうと決めていたのに、エリザベートは結局あの披露目の舞踏会からルイザと顔を合わせていない。
「カール様は遅くなりそうだから寝る準備をしましょうか」
エリザベートが明るく声を上げると侍女は静かに頭を下げた。
エリザベートが湯浴みを終え、寝室で横になってもカールは帰ってこなかった。
朝起きたら子の誕生を知らされるのかもしれない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
生みの苦しみ!
ルイザではなく、私がこの話を、ですが。
何回も何回も何回も書き直して、こんなに時間が経っちゃいました。ごめんなさい。
だけど何回書き直しても最初の三行だけは変わらなかった(ノ∀`)
王宮はここのところ重苦しい空気に包まれていた。
ルイザの出産予定日が近づいているのだ。
「カール様はまだお戻りにならないの?」
一人で夕食を終えた後、自室でお茶を飲んでいたエリザベートは傍に控える侍女に問い掛けた。
問われた侍女が時計に目をやり、応える。
「そうですね……。遣いを出してみましょうか」
普段であれば湯浴みをして寝る準備を始める時間だ。
エリザベートの前に置かれたお茶も既に三杯目であり、手を付けられずに冷めてしまっている。
カールは毎日薔薇の宮で休むと決まっているので、何時頃戻るつもりなのかこちらから問い合わせてもおかしくない。
だけどエリザベートは緩く首を振った。
「いいえ、いいわ。もう少し待ってみましょう」
実のところカールからは執務が立て込んでいるので戻るのが遅くなると言付けを受け取っているのだ。それも手紙ではなく、腹心とも言える侍従が直接伝えてに来ている。
あの侍従はカールがまだ子どもの頃から仕えているので、エリザベートもよく知っていた。
カールが忙しいのも間違いない。
国王としての執務の他にカールはエリザベートが寝込んだ時は王妃の執務も代行しているのだ。つい先週寝込んだばかりのエリザベートが、帰りが遅いからとカールを責めることなどできない。
あの侍従を言付けに寄越したのも、エリザベートを安心させると同時にエリザベートの様子を確認させる為なのだろう。
それがわかっていながら落ち着かないのは、ルイザの出産予定日が近づいているからだ。
他の者から聞くよりはと、侍医の診断はそのままカールから伝えられている。正確な予定日はまだ二週間程先だが、もういつ産気づいてもおかしくない時期なのだ。
カールは普段ルイザや子どものことをほとんど口にしない。
だけどエリザベートはカールがどれほど子ども好きか知っている。
ルイの時も予定日の何日も前からそわそわしていて、日に何度もエリザベートの様子を見に来た。エリザベートが産屋に移ってからは執務が手につかずに薔薇の宮でやきもきしながら知らせを待っていたという。
それを思えば、今もそわそわしながら子の誕生を待っているだろう。
執務が終わらないのは、同じ王宮にいたエリザベートと違って遠い百合の宮までルイザの様子を何度も見に行っているからではないのか。いや、もしかしたら既にルイザの出産は始まっていて、カールは百合の宮で生まれるのを待っているのかもしれない。
侍女が遣いを出そうと言うのを止めたのは、もし遣いを出して、カールが執務室にいないことがわかればこの不安が現実になってしまうからだ。
そうなったとしても、ルイザを迎えたのは子を産んでもらう為なのだからエリザベートに何かを言う資格はない。
いや、子の誕生を誰よりも喜ばなければならない。
側妃を迎えると決めた時は、それがこんなに辛いとは思わなかった。
正妃が子を産めない時は側妃を迎えると妃教育で教わっていた。
病を得て子は産めないだろうと言われながらカールの妃になると決めた時は、いずれ側妃を迎えるものだと覚悟していた。
側妃を迎えたら丁重に迎え入れて仲良くなろうと決めていたのに、エリザベートは結局あの披露目の舞踏会からルイザと顔を合わせていない。
「カール様は遅くなりそうだから寝る準備をしましょうか」
エリザベートが明るく声を上げると侍女は静かに頭を下げた。
エリザベートが湯浴みを終え、寝室で横になってもカールは帰ってこなかった。
朝起きたら子の誕生を知らされるのかもしれない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
生みの苦しみ!
ルイザではなく、私がこの話を、ですが。
何回も何回も何回も書き直して、こんなに時間が経っちゃいました。ごめんなさい。
だけど何回書き直しても最初の三行だけは変わらなかった(ノ∀`)
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