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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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ルイザが苛立つ原因は他にもあった。
百合の宮にはカールやエリザベートの動向が伝わってこないのだ。
外宮や鳳凰の宮にもっと近ければ侍女たちの行き来があったかもしれない。そうすればカールの様子を聞くこともできただろう。
それを思えばこれまで何とも思っていなかった距離が恨めしく思えた。
気になっているのは、カールがどれくらいの頻度でエリザベートの元を訪れているのかだ。
さすがのルイザもカールが来ない理由が忙しいからだとはもう信じていない。
ルイザに興味がないというのもあるのだろう。だけどエリザベートが邪魔をしている可能性もあるのだ。
それに気がついた時、これまで疑いもしなかった自分の愚かさが嫌になった。
初めて会った時の、にこやかに迎えてくれたエリザベートの優しさが心の底に染み付いていたのかもしれない。
だけど舞踏会でカールに愛される姿を見せつけ、ルイザをどん底に突き落としたことを思えばあの優しさも策略だったのだろう。ルイザはそれにまんまと乗せられたのだ。
少し考えればわかることだった。
結婚して10年経っても懐妊しないことから側妃が迎えられた。
夫が側妃を迎えて面白いはずがないだろう。
それにこれまで懐妊しなかったからといって、今後もエリザベートが絶対に懐妊しないとは限らないのだ。
ルイザが懐妊したと知らないエリザベートは、先に懐妊しようと必死でカールを引き止めているのかもしれない。
もしエリザベートが懐妊したら。
浮かんだ可能性にルイザはゾッとした。
数ヶ月の違いであれば、カールは間違いなくエリザベートの子を王太子にするだろう。
カールは寵愛する王妃の子に王位を譲りたいと望むだろうし、エリザベートには強力なダシェンボード公爵家やその派閥貴族の後ろ盾があるのだ。後継者争いになれば没落寸前のヴィラント伯爵家しかいないルイザの子では敵うわけがない。
「妃殿下、爪の形が変わりますのでお止め下さい」
イーネの声にルイザはハッとして顔を上げた。
無意識に爪を噛んでいたようだ。
イーネはルイザをよく見ていて、側妃に相応しくない振る舞いをすれば即座に止められる。
決まり悪さにそっぽを向けば無言でお茶が出された。
ルイザはお茶を一口飲むと大きく息をつく。
リラックス効果のあるお茶のようで、最近はよく用意されている。実際に温かいお茶が体に染み渡っていくようで気持ちが落ち着いていくのが感じられた。
だけどイーネもルイザの為だけに働いてくれているとは思えない。
イーネはルイザの様子を報告するために定期的にカールの元を訪れているのだ。時々カールからの指示を伝えられる時もある。
だけどカールやエリザベートの様子を何度訊いても「お忙しくしておられます」と同じことしか答えてもらえなかった。
恐ろしいのはルイザの子が公表されるのが3歳になった時であるように、エリザベートの子が公表されるのも3歳になった時であることだ。
もしかしたらもうエリザベートは懐妊しているかもしれない。
そんな恐れを抱きつつ何年も耐えなければならないのだ。
百合の宮にはカールやエリザベートの動向が伝わってこないのだ。
外宮や鳳凰の宮にもっと近ければ侍女たちの行き来があったかもしれない。そうすればカールの様子を聞くこともできただろう。
それを思えばこれまで何とも思っていなかった距離が恨めしく思えた。
気になっているのは、カールがどれくらいの頻度でエリザベートの元を訪れているのかだ。
さすがのルイザもカールが来ない理由が忙しいからだとはもう信じていない。
ルイザに興味がないというのもあるのだろう。だけどエリザベートが邪魔をしている可能性もあるのだ。
それに気がついた時、これまで疑いもしなかった自分の愚かさが嫌になった。
初めて会った時の、にこやかに迎えてくれたエリザベートの優しさが心の底に染み付いていたのかもしれない。
だけど舞踏会でカールに愛される姿を見せつけ、ルイザをどん底に突き落としたことを思えばあの優しさも策略だったのだろう。ルイザはそれにまんまと乗せられたのだ。
少し考えればわかることだった。
結婚して10年経っても懐妊しないことから側妃が迎えられた。
夫が側妃を迎えて面白いはずがないだろう。
それにこれまで懐妊しなかったからといって、今後もエリザベートが絶対に懐妊しないとは限らないのだ。
ルイザが懐妊したと知らないエリザベートは、先に懐妊しようと必死でカールを引き止めているのかもしれない。
もしエリザベートが懐妊したら。
浮かんだ可能性にルイザはゾッとした。
数ヶ月の違いであれば、カールは間違いなくエリザベートの子を王太子にするだろう。
カールは寵愛する王妃の子に王位を譲りたいと望むだろうし、エリザベートには強力なダシェンボード公爵家やその派閥貴族の後ろ盾があるのだ。後継者争いになれば没落寸前のヴィラント伯爵家しかいないルイザの子では敵うわけがない。
「妃殿下、爪の形が変わりますのでお止め下さい」
イーネの声にルイザはハッとして顔を上げた。
無意識に爪を噛んでいたようだ。
イーネはルイザをよく見ていて、側妃に相応しくない振る舞いをすれば即座に止められる。
決まり悪さにそっぽを向けば無言でお茶が出された。
ルイザはお茶を一口飲むと大きく息をつく。
リラックス効果のあるお茶のようで、最近はよく用意されている。実際に温かいお茶が体に染み渡っていくようで気持ちが落ち着いていくのが感じられた。
だけどイーネもルイザの為だけに働いてくれているとは思えない。
イーネはルイザの様子を報告するために定期的にカールの元を訪れているのだ。時々カールからの指示を伝えられる時もある。
だけどカールやエリザベートの様子を何度訊いても「お忙しくしておられます」と同じことしか答えてもらえなかった。
恐ろしいのはルイザの子が公表されるのが3歳になった時であるように、エリザベートの子が公表されるのも3歳になった時であることだ。
もしかしたらもうエリザベートは懐妊しているかもしれない。
そんな恐れを抱きつつ何年も耐えなければならないのだ。
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