影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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3章 〜過去 正妃と側妃〜

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 それからの日々は瞬く間に過ぎた。
 カールは万が一の事を考え、侍医たちに毎日ルイザの診察をするよう命じた。それとは別に何か異変を感じた時はすぐに侍医を呼ぶようイーネに伝えてある。
 イーネもこれまでの経緯を知っているので厳粛に受け止め、これまで以上に細やかにルイザの様子を見るようになった。
 ルイザの望んだ方向とは違ったが、懐妊したことで確かにカールの注意を引くことができているのだ。

 一方でカールはエリザベートの様子に不安を感じていた。
 エリザベートが悲しんだり落ち込んだり、苛立ってカールにキツく当たったりしていたらもっと安心していられたかもしれない。
 だけどエリザベートは時々哀しそうな顔をするものの基本的に変わりがなく、そればかりか付きっきりになったカールにルイザの元へ行くよう促したりしている。
 
 そう、エリザベートの様子はルイザを迎えたばかりの頃に戻ったようなのだ。
 傷ついていないわけではなく、それを見せないように抑えつけている。
 だけどそれを続けていけば酷いことになるとカールは既に知っていた。クローゼットで倒れていたエリザベートの姿が頭の中から離れないのだ。

 カールは密かにアンヌとゾフィーを呼び出し、協力を求めた。
 ここでも側妃の懐妊を伝えることになったが、彼女たちもまた子に危害を加えるはずがないのだ。そもそも今代ダシェンボード公爵家の血を引く王子が生まれることはないと彼女たちは知っている。

 カールの話しを聞いた2人は、顔を見合わせた後「おめでとうございます」と頭を下げた。
 どんな感情が心の中で渦巻いていたとしても、高位貴族としてそれを顔に出すことはない。
 だけど2人がその一瞬でエリザベートのことを考え、心配しているのが伝わってきた。同時にカールが不安に思っていることも理解したようだ。
 2人はできる限りエリザベートの元を訪れ、様子を見ると約束してくれた。

 実はこの頃アンヌは懐妊していて、あまり薔薇の宮に顔を出さなくなっていたのだ。
 悪阻があり、その中で調整しながら公爵夫人としての仕事をしなければいけないから……というのが表向きの理由だったが、妊娠姿をあまりエリザベートに見せない方が良いだろうという気遣いが大きかった。
 だけどエリザベートはアンヌもゾフィーも大好きなのだ。
 2人が傍で話し相手になってくれたらきっと良い気晴らしになり、おかしなことを考えることもないだろう。
 それいうのも、侍女たちから時々エリザベートの様子がおかしいと報告を受けているのだ。
 
 できる限りエリザベートの傍にいるよう努めているカールだったが、100%必ず傍に付いていることはできない。カールにも公務があり、仕事が終わらず戻るのが遅くなる日もある。
 そんな時エリザベートは窓辺に座ってルイに話しかけているが、時々部屋の中を見渡してルイを探すことがあるというのだ。

 その話を聞いた時、カールはゾッとした。
 これまでも夢から醒めた後、現実との区別がつかずにルイを探していた時はある。
 だけどエリザベートは寝ていたわけではないのだ。

 現実の中に夢が入り込んでくる。
 そんなことがあるだろうか?

 奇行が続けば人の口に上ることになる。
 幸い外宮の執務室でおかしな行動をとったという話はまだ聞いていない。
 だけどそれは幼いルイが外宮を訪れたことがないからかもしれない。

 カールだってルイは恋しい。
 それでも得体のしれない不気味さを感じていた。







 
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