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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「最近は少し皆も落ち着いてきたかしら?」
「ええそうね。舞踏会の直後は大変な騒ぎだったものね」
この日、薔薇の宮をアンヌとゾフィーが訪れていた。
仲の良い3人が集まるのは珍しくない。リチャードが公爵位を継ぎ、公爵婦人になったアンヌは格段と忙しくなったが、今でも月に数回は集まってお茶を飲んでいる。
舞踏会が終わってから一月ほど経っているが、その間も何度か一緒にお茶を飲んでいた。
そこで必ず話題になるのが舞踏会のことだ。あれから社交界は大騒ぎになっている。
カールの言う通り、舞踏会は側妃を寵愛していた国王がその寵愛を見せつける為に始めたものだが、代を重ねるごとにその重みを増していた。
ルイザの産む子は世継ぎとして認められるのか、早々に新たな側妃を迎えるべきだと言う者もいる。
だが「今度こそ我が娘を側妃に!」と名乗り出る者はいない。ルイザが選ばれた経緯を知っている者は、今嫁いでも同じことになると知っているのだ。
「だけど若いご令嬢の間では称賛されているというのが不思議ね」
カールのあの振る舞いは国王として最悪だったとアンヌは思っている。
カールには世継ぎが必要で、世継ぎを産ませるためにルイザを娶ったのだ。その世継ぎの正統性を疵付けるようなことを国王自ら行ったのだから愚かとしか言いようがない。
カールのエリザベートを想う気持ちを知っていても、あの振る舞いを称賛しようとは思えなかった。アンヌはもう個人的な感情だけで物事を捉えられる立場ではないのだ。
だが大きな声では言えなくても、あの振る舞いに好意的な声も少なくないのだ。
「若い方は結婚に夢を抱いていますから。困難にあっても愛を貫き通すというのは堪らないのでしょう」
ゾフィーが苦笑を漏らす。
ゾフィー自身はアンヌと同じ考えだ。エリザベートへの愛を示す方法は他にもある。週に1度、決まった曜日にしか百合の宮へ行かないというのもそれだろう。まだ生まれてもいない後継者の正統性に疵をつける必要はない。
だが若い令嬢方を中心に国王を称賛する声が上がっていた。
元々政略結婚でありながら愛し合う国王夫妻に憧れる者は多くいるのだ。その者たちにとって、側妃は必要でありながら2人の仲を邪魔する障害だった。そんな障害に負けず愛を貫き通す姿は憧れを掻き立てるのだろう。エリザベートと同年代の女性たちでさえ、国の未来を案じながらも変わらない2人の関係に安堵している。
「………ルイザ様には恨まれているでしょうね」
エリザベートが暗い声で呟く。
ルイザの為の舞踏会だったのに、すっかり駄目にしてしまった。あれはエリザベートにとっても思いがけない出来事だったが、ルイザはそうは取らないだろう。エリザベートがカールを唆したと思ったのではないだろうか。
アンヌもゾフィーもそれについては何も言うことができなかった。
2人もその可能性を感じているからだ。
何かルイザ側の動向を伝え聞くことができれば対処することもできるのに、社交界でルイザの話を聞くこともなかった。噂話が人の口に上るほどルイザと親交を持つ者もいないのだ。
「ルイザ様のご機嫌伺いをするとしても、私たちでは駄目でしょうね」
アンヌが困ったように目を伏せる。
エリザベートの身内では警戒されるだけだろう。3人は揃って溜息をついた。
この時誰かがルイザを訪ねていたら、何かが変わったかもしれない。
溜め込んだ不満を発散できていたら、これほど拗れることもなかっただろうか。
「ええそうね。舞踏会の直後は大変な騒ぎだったものね」
この日、薔薇の宮をアンヌとゾフィーが訪れていた。
仲の良い3人が集まるのは珍しくない。リチャードが公爵位を継ぎ、公爵婦人になったアンヌは格段と忙しくなったが、今でも月に数回は集まってお茶を飲んでいる。
舞踏会が終わってから一月ほど経っているが、その間も何度か一緒にお茶を飲んでいた。
そこで必ず話題になるのが舞踏会のことだ。あれから社交界は大騒ぎになっている。
カールの言う通り、舞踏会は側妃を寵愛していた国王がその寵愛を見せつける為に始めたものだが、代を重ねるごとにその重みを増していた。
ルイザの産む子は世継ぎとして認められるのか、早々に新たな側妃を迎えるべきだと言う者もいる。
だが「今度こそ我が娘を側妃に!」と名乗り出る者はいない。ルイザが選ばれた経緯を知っている者は、今嫁いでも同じことになると知っているのだ。
「だけど若いご令嬢の間では称賛されているというのが不思議ね」
カールのあの振る舞いは国王として最悪だったとアンヌは思っている。
カールには世継ぎが必要で、世継ぎを産ませるためにルイザを娶ったのだ。その世継ぎの正統性を疵付けるようなことを国王自ら行ったのだから愚かとしか言いようがない。
カールのエリザベートを想う気持ちを知っていても、あの振る舞いを称賛しようとは思えなかった。アンヌはもう個人的な感情だけで物事を捉えられる立場ではないのだ。
だが大きな声では言えなくても、あの振る舞いに好意的な声も少なくないのだ。
「若い方は結婚に夢を抱いていますから。困難にあっても愛を貫き通すというのは堪らないのでしょう」
ゾフィーが苦笑を漏らす。
ゾフィー自身はアンヌと同じ考えだ。エリザベートへの愛を示す方法は他にもある。週に1度、決まった曜日にしか百合の宮へ行かないというのもそれだろう。まだ生まれてもいない後継者の正統性に疵をつける必要はない。
だが若い令嬢方を中心に国王を称賛する声が上がっていた。
元々政略結婚でありながら愛し合う国王夫妻に憧れる者は多くいるのだ。その者たちにとって、側妃は必要でありながら2人の仲を邪魔する障害だった。そんな障害に負けず愛を貫き通す姿は憧れを掻き立てるのだろう。エリザベートと同年代の女性たちでさえ、国の未来を案じながらも変わらない2人の関係に安堵している。
「………ルイザ様には恨まれているでしょうね」
エリザベートが暗い声で呟く。
ルイザの為の舞踏会だったのに、すっかり駄目にしてしまった。あれはエリザベートにとっても思いがけない出来事だったが、ルイザはそうは取らないだろう。エリザベートがカールを唆したと思ったのではないだろうか。
アンヌもゾフィーもそれについては何も言うことができなかった。
2人もその可能性を感じているからだ。
何かルイザ側の動向を伝え聞くことができれば対処することもできるのに、社交界でルイザの話を聞くこともなかった。噂話が人の口に上るほどルイザと親交を持つ者もいないのだ。
「ルイザ様のご機嫌伺いをするとしても、私たちでは駄目でしょうね」
アンヌが困ったように目を伏せる。
エリザベートの身内では警戒されるだけだろう。3人は揃って溜息をついた。
この時誰かがルイザを訪ねていたら、何かが変わったかもしれない。
溜め込んだ不満を発散できていたら、これほど拗れることもなかっただろうか。
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