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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「陛下!あれはどういうことですか!!」
舞踏会の翌日、カールの執務室にアンダーソン公爵が乗り込んできた。
だがカールも予測していたので動じることはない。
「どうもこうもない。そなたの要求通り舞踏会を開いただけだ」
「ただの舞踏会ではないのですよ?!側妃を披露する為の舞踏会です!!」
声を荒げたアンダーソン公爵に、部屋の中にいたマクロイド公爵も頷いていた。
マクロイド公爵は入室した時からもの言いたげな顔をしながら何も言わなかった。だけど心の中では同じように声を上げたかったのだろう。
2人が何を怒っているのかカールもわかっている。
舞踏会でエリザベートをエスコートしたことも、貴族たちの挨拶を受ける時に隣に座らせたことも、ファーストダンスを踊ったことも、舞踏会の間中エリザベートを離さなかったことも、慣例から外れていた。エリザベートがいた場所は、本来ルイザの場所なのだ。
だが、それがなんだというのだろう。
慣例だって最初はただ側妃を溺愛する国王が、舞踏会の決まりを破って側妃をエスコートしただけなのだ。それを次の国王が真似て続いただけである。
「確かに側妃のエスコートはしなかったが、側妃を迎えたことは皆に告げたし、彼女に良くするよう伝えただろう。どこに問題がある?」
カールは側妃を迎えたことを皆の前で公表したし、ルイザも側妃として挨拶をした。
ルイザを側妃と認めて尊重するよう伝えたのだ。
舞踏会の趣旨として重要なことは押さえている。
「………お世継ぎの正当性を唱える者が出てくるでしょう」
「舞踏会を開こうと開かなかろうとあれが産むのは俺の子だ。少なくとも王子を産むまではな。疑わしきことがあればその時対処すれば良い」
少なくとも世継ぎとなる王子が産まれるまで百合の宮の警備は徹底する。
カールに他の側妃を娶るつもりがまったくないので、ルイザには必ず世継ぎを産んでもらわなければならない。その為にもおかしな疑惑を持たれないよう侍従や護衛の騎士まで含めて徹底的に管理するようイーネに指示を出している。
正直に言えばその後のことに関知するつもりはない。
そもそも慣例通り舞踏会を行ったからといって、側妃の産む子が必ず王の子として認められるわけではないのだ。
これまでにも姦通がバレて廃位された側妃はいる。幸い彼女たちに出自を疑われるような子はいなかったが、もしその頃生まれた子がいれば不義の子として始末されていただろう。
ルイザが務めを果たした後、思いを通わせる男ができるかどうかわからないが、王太子の地位を盤石にした後であれば手放してやっても良いと思っていた。
カールの意思が伝わったのだろう。アンダーソン公爵はやれやれと頭を振った。
元より側妃を拒否していたカールを頷かせた結婚。
無理があることはわかっていたのだろう。
「………妃殿下は恨んでおられるでしょうな」
アンダーソン公爵の言う妃殿下がエリザベートのことなのかルイザのことなのか、カールは一瞬わからなかった。
エリザベートは大事にしようとしていたのに、ルイザの晴れ舞台を奪ってしまったことを気にしている。また、周りに側妃を受け入れない不寛容な王妃と思われたことを嘆いていた。
だがアンダーソン公爵はそれを知らないので、これはルイザのことだろう。
「気にすることはない。あれは舞踏会の意味を知らないのだ」
「………は?」
「なんですと?」
カールの言葉にアンダーソン公爵だけではなく聞き役に徹していたはずのマクロイド公爵も間抜けな声を出した。
舞踏会の翌日、カールの執務室にアンダーソン公爵が乗り込んできた。
だがカールも予測していたので動じることはない。
「どうもこうもない。そなたの要求通り舞踏会を開いただけだ」
「ただの舞踏会ではないのですよ?!側妃を披露する為の舞踏会です!!」
声を荒げたアンダーソン公爵に、部屋の中にいたマクロイド公爵も頷いていた。
マクロイド公爵は入室した時からもの言いたげな顔をしながら何も言わなかった。だけど心の中では同じように声を上げたかったのだろう。
2人が何を怒っているのかカールもわかっている。
舞踏会でエリザベートをエスコートしたことも、貴族たちの挨拶を受ける時に隣に座らせたことも、ファーストダンスを踊ったことも、舞踏会の間中エリザベートを離さなかったことも、慣例から外れていた。エリザベートがいた場所は、本来ルイザの場所なのだ。
だが、それがなんだというのだろう。
慣例だって最初はただ側妃を溺愛する国王が、舞踏会の決まりを破って側妃をエスコートしただけなのだ。それを次の国王が真似て続いただけである。
「確かに側妃のエスコートはしなかったが、側妃を迎えたことは皆に告げたし、彼女に良くするよう伝えただろう。どこに問題がある?」
カールは側妃を迎えたことを皆の前で公表したし、ルイザも側妃として挨拶をした。
ルイザを側妃と認めて尊重するよう伝えたのだ。
舞踏会の趣旨として重要なことは押さえている。
「………お世継ぎの正当性を唱える者が出てくるでしょう」
「舞踏会を開こうと開かなかろうとあれが産むのは俺の子だ。少なくとも王子を産むまではな。疑わしきことがあればその時対処すれば良い」
少なくとも世継ぎとなる王子が産まれるまで百合の宮の警備は徹底する。
カールに他の側妃を娶るつもりがまったくないので、ルイザには必ず世継ぎを産んでもらわなければならない。その為にもおかしな疑惑を持たれないよう侍従や護衛の騎士まで含めて徹底的に管理するようイーネに指示を出している。
正直に言えばその後のことに関知するつもりはない。
そもそも慣例通り舞踏会を行ったからといって、側妃の産む子が必ず王の子として認められるわけではないのだ。
これまでにも姦通がバレて廃位された側妃はいる。幸い彼女たちに出自を疑われるような子はいなかったが、もしその頃生まれた子がいれば不義の子として始末されていただろう。
ルイザが務めを果たした後、思いを通わせる男ができるかどうかわからないが、王太子の地位を盤石にした後であれば手放してやっても良いと思っていた。
カールの意思が伝わったのだろう。アンダーソン公爵はやれやれと頭を振った。
元より側妃を拒否していたカールを頷かせた結婚。
無理があることはわかっていたのだろう。
「………妃殿下は恨んでおられるでしょうな」
アンダーソン公爵の言う妃殿下がエリザベートのことなのかルイザのことなのか、カールは一瞬わからなかった。
エリザベートは大事にしようとしていたのに、ルイザの晴れ舞台を奪ってしまったことを気にしている。また、周りに側妃を受け入れない不寛容な王妃と思われたことを嘆いていた。
だがアンダーソン公爵はそれを知らないので、これはルイザのことだろう。
「気にすることはない。あれは舞踏会の意味を知らないのだ」
「………は?」
「なんですと?」
カールの言葉にアンダーソン公爵だけではなく聞き役に徹していたはずのマクロイド公爵も間抜けな声を出した。
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