影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
97 / 140
3章 〜過去 正妃と側妃〜

31

しおりを挟む
「陛下!あれはどういうことですか!!」

 舞踏会の翌日、カールの執務室にアンダーソン公爵が乗り込んできた。
 だがカールも予測していたので動じることはない。

「どうもこうもない。そなたの要求通り舞踏会を開いただけだ」

「ただの舞踏会ではないのですよ?!側妃を披露する為の舞踏会です!!」

 声を荒げたアンダーソン公爵に、部屋の中にいたマクロイド公爵も頷いていた。
 マクロイド公爵は入室した時からもの言いたげな顔をしながら何も言わなかった。だけど心の中では同じように声を上げたかったのだろう。

 2人が何を怒っているのかカールもわかっている。
 舞踏会でエリザベートをエスコートしたことも、貴族たちの挨拶を受ける時に隣に座らせたことも、ファーストダンスを踊ったことも、舞踏会の間中エリザベートを離さなかったことも、慣例から外れていた。エリザベートがいた場所は、本来ルイザの場所なのだ。

 だが、それがなんだというのだろう。
 慣例だって最初はただ側妃を溺愛する国王が、舞踏会の決まりを破って側妃をエスコートしただけなのだ。それを次の国王が真似て続いただけである。

「確かに側妃のエスコートはしなかったが、側妃を迎えたことは皆に告げたし、彼女に良くするよう伝えただろう。どこに問題がある?」

 カールは側妃を迎えたことを皆の前で公表したし、ルイザも側妃として挨拶をした。
 ルイザを側妃と認めて尊重するよう伝えたのだ。
 舞踏会の趣旨として重要なことは押さえている。

「………お世継ぎの正当性を唱える者が出てくるでしょう」

「舞踏会を開こうと開かなかろうとが産むのは俺の子だ。少なくとも王子を産むまではな。疑わしきことがあればその時対処すれば良い」

 少なくとも世継ぎとなる王子が産まれるまで百合の宮の警備は徹底する。
 カールに他の側妃を娶るつもりがまったくないので、ルイザには必ず世継ぎを産んでもらわなければならない。その為にもおかしな疑惑を持たれないよう侍従や護衛の騎士まで含めて徹底的に管理するようイーネに指示を出している。
 
 正直に言えばその後のことに関知するつもりはない。
 そもそも慣例通り舞踏会を行ったからといって、側妃の産む子が必ず王の子として認められるわけではないのだ。
 これまでにも姦通がバレて廃位された側妃はいる。幸い彼女たちに出自を疑われるような子はいなかったが、もしその頃生まれた子がいれば不義の子として始末されていただろう。

 ルイザが務めを果たした後、思いを通わせる男ができるかどうかわからないが、王太子の地位を盤石にした後であれば手放してやっても良いと思っていた。 

 カールの意思が伝わったのだろう。アンダーソン公爵はやれやれと頭を振った。
 元より側妃を拒否していたカールを頷かせた結婚。
 無理があることはわかっていたのだろう。

「………妃殿下は恨んでおられるでしょうな」

 アンダーソン公爵の言う妃殿下がエリザベートのことなのかルイザのことなのか、カールは一瞬わからなかった。
 エリザベートは大事にしようとしていたのに、ルイザの晴れ舞台を奪ってしまったことを気にしている。また、周りに側妃を受け入れない不寛容な王妃と思われたことを嘆いていた。

 だがアンダーソン公爵はそれを知らないので、これはルイザのことだろう。

「気にすることはない。は舞踏会の意味を知らないのだ」

「………は?」

「なんですと?」

 カールの言葉にアンダーソン公爵だけではなく聞き役に徹していたはずのマクロイド公爵も間抜けな声を出した。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

処理中です...