97 / 140
3章 〜過去 正妃と側妃〜
31
しおりを挟む
「陛下!あれはどういうことですか!!」
舞踏会の翌日、カールの執務室にアンダーソン公爵が乗り込んできた。
だがカールも予測していたので動じることはない。
「どうもこうもない。そなたの要求通り舞踏会を開いただけだ」
「ただの舞踏会ではないのですよ?!側妃を披露する為の舞踏会です!!」
声を荒げたアンダーソン公爵に、部屋の中にいたマクロイド公爵も頷いていた。
マクロイド公爵は入室した時からもの言いたげな顔をしながら何も言わなかった。だけど心の中では同じように声を上げたかったのだろう。
2人が何を怒っているのかカールもわかっている。
舞踏会でエリザベートをエスコートしたことも、貴族たちの挨拶を受ける時に隣に座らせたことも、ファーストダンスを踊ったことも、舞踏会の間中エリザベートを離さなかったことも、慣例から外れていた。エリザベートがいた場所は、本来ルイザの場所なのだ。
だが、それがなんだというのだろう。
慣例だって最初はただ側妃を溺愛する国王が、舞踏会の決まりを破って側妃をエスコートしただけなのだ。それを次の国王が真似て続いただけである。
「確かに側妃のエスコートはしなかったが、側妃を迎えたことは皆に告げたし、彼女に良くするよう伝えただろう。どこに問題がある?」
カールは側妃を迎えたことを皆の前で公表したし、ルイザも側妃として挨拶をした。
ルイザを側妃と認めて尊重するよう伝えたのだ。
舞踏会の趣旨として重要なことは押さえている。
「………お世継ぎの正当性を唱える者が出てくるでしょう」
「舞踏会を開こうと開かなかろうとあれが産むのは俺の子だ。少なくとも王子を産むまではな。疑わしきことがあればその時対処すれば良い」
少なくとも世継ぎとなる王子が産まれるまで百合の宮の警備は徹底する。
カールに他の側妃を娶るつもりがまったくないので、ルイザには必ず世継ぎを産んでもらわなければならない。その為にもおかしな疑惑を持たれないよう侍従や護衛の騎士まで含めて徹底的に管理するようイーネに指示を出している。
正直に言えばその後のことに関知するつもりはない。
そもそも慣例通り舞踏会を行ったからといって、側妃の産む子が必ず王の子として認められるわけではないのだ。
これまでにも姦通がバレて廃位された側妃はいる。幸い彼女たちに出自を疑われるような子はいなかったが、もしその頃生まれた子がいれば不義の子として始末されていただろう。
ルイザが務めを果たした後、思いを通わせる男ができるかどうかわからないが、王太子の地位を盤石にした後であれば手放してやっても良いと思っていた。
カールの意思が伝わったのだろう。アンダーソン公爵はやれやれと頭を振った。
元より側妃を拒否していたカールを頷かせた結婚。
無理があることはわかっていたのだろう。
「………妃殿下は恨んでおられるでしょうな」
アンダーソン公爵の言う妃殿下がエリザベートのことなのかルイザのことなのか、カールは一瞬わからなかった。
エリザベートは大事にしようとしていたのに、ルイザの晴れ舞台を奪ってしまったことを気にしている。また、周りに側妃を受け入れない不寛容な王妃と思われたことを嘆いていた。
だがアンダーソン公爵はそれを知らないので、これはルイザのことだろう。
「気にすることはない。あれは舞踏会の意味を知らないのだ」
「………は?」
「なんですと?」
カールの言葉にアンダーソン公爵だけではなく聞き役に徹していたはずのマクロイド公爵も間抜けな声を出した。
舞踏会の翌日、カールの執務室にアンダーソン公爵が乗り込んできた。
だがカールも予測していたので動じることはない。
「どうもこうもない。そなたの要求通り舞踏会を開いただけだ」
「ただの舞踏会ではないのですよ?!側妃を披露する為の舞踏会です!!」
声を荒げたアンダーソン公爵に、部屋の中にいたマクロイド公爵も頷いていた。
マクロイド公爵は入室した時からもの言いたげな顔をしながら何も言わなかった。だけど心の中では同じように声を上げたかったのだろう。
2人が何を怒っているのかカールもわかっている。
舞踏会でエリザベートをエスコートしたことも、貴族たちの挨拶を受ける時に隣に座らせたことも、ファーストダンスを踊ったことも、舞踏会の間中エリザベートを離さなかったことも、慣例から外れていた。エリザベートがいた場所は、本来ルイザの場所なのだ。
だが、それがなんだというのだろう。
慣例だって最初はただ側妃を溺愛する国王が、舞踏会の決まりを破って側妃をエスコートしただけなのだ。それを次の国王が真似て続いただけである。
「確かに側妃のエスコートはしなかったが、側妃を迎えたことは皆に告げたし、彼女に良くするよう伝えただろう。どこに問題がある?」
カールは側妃を迎えたことを皆の前で公表したし、ルイザも側妃として挨拶をした。
ルイザを側妃と認めて尊重するよう伝えたのだ。
舞踏会の趣旨として重要なことは押さえている。
「………お世継ぎの正当性を唱える者が出てくるでしょう」
「舞踏会を開こうと開かなかろうとあれが産むのは俺の子だ。少なくとも王子を産むまではな。疑わしきことがあればその時対処すれば良い」
少なくとも世継ぎとなる王子が産まれるまで百合の宮の警備は徹底する。
カールに他の側妃を娶るつもりがまったくないので、ルイザには必ず世継ぎを産んでもらわなければならない。その為にもおかしな疑惑を持たれないよう侍従や護衛の騎士まで含めて徹底的に管理するようイーネに指示を出している。
正直に言えばその後のことに関知するつもりはない。
そもそも慣例通り舞踏会を行ったからといって、側妃の産む子が必ず王の子として認められるわけではないのだ。
これまでにも姦通がバレて廃位された側妃はいる。幸い彼女たちに出自を疑われるような子はいなかったが、もしその頃生まれた子がいれば不義の子として始末されていただろう。
ルイザが務めを果たした後、思いを通わせる男ができるかどうかわからないが、王太子の地位を盤石にした後であれば手放してやっても良いと思っていた。
カールの意思が伝わったのだろう。アンダーソン公爵はやれやれと頭を振った。
元より側妃を拒否していたカールを頷かせた結婚。
無理があることはわかっていたのだろう。
「………妃殿下は恨んでおられるでしょうな」
アンダーソン公爵の言う妃殿下がエリザベートのことなのかルイザのことなのか、カールは一瞬わからなかった。
エリザベートは大事にしようとしていたのに、ルイザの晴れ舞台を奪ってしまったことを気にしている。また、周りに側妃を受け入れない不寛容な王妃と思われたことを嘆いていた。
だがアンダーソン公爵はそれを知らないので、これはルイザのことだろう。
「気にすることはない。あれは舞踏会の意味を知らないのだ」
「………は?」
「なんですと?」
カールの言葉にアンダーソン公爵だけではなく聞き役に徹していたはずのマクロイド公爵も間抜けな声を出した。
13
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる