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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「国王陛下、お、王妃殿下、……側妃殿下のご入場です!」
カールの指示を受けた侍従が広間の扉を開けた。
同時に国王の入場が告げられ、貴族たちが一斉に頭を下げる。
だけど入場を告げる侍従の声は困惑に満ちていて、貴族たちも戸惑っているのがわかる。
いつもの舞踏会であれば、その順番で間違いない。
だけどこれは新たに迎えた側妃を披露するための舞踏会なのだ。
慣例通りであればカールはルイザをエスコートして、その後ろにエリザベートが続く。入場を告げられるのも、国王、側妃、王妃の順だ。
それなのに国王の次に王妃が呼ばれた。
貴族たちが戸惑うのも当然だった。
「皆、顔を上げよ」
国王の声に合わせて貴族たちが顔を上げる。
壇上を見上げた貴族たちの間にざわめきが起きた。
それはそうだろう。いつもと変わらずカールがエリザベートをエスコートしているのだ。ルイザはエリザベートの隣で一歩下がって控えている。
「これはどういうことだ……?」
小さな呟きが聞こえてくる。
それは誰もが思っていることで、互いに顔を見合わせている者たちの姿も見えた。
彼らの気持ちがエリザベートにはよく分かる。
何より一番戸惑っているのはエリザベートなのだ。
「今日ここに集まってくれたことを感謝する。知っている者も多いだろうが、新たに妃を迎えた」
カールがルイザを紹介する言葉が聞こえて、エリザベートは後ろに下がろうとした。
流石にここはルイザに譲るべきだ。
そう思ったのに、カールはまた離れようとするエリザベートの手を押さえた。
「ルイザという。皆良くしてやってくれ」
「ルイザと申します。以後お見知りおきを」
エリザベートが驚いてカールの顔を見上げる内に、ルイザが一歩前に進み出てカーテシーをする。
貴族たちは戸惑いながら拍手で応えるしかなかった。
異例なことはそれからも続いた。
カールは挨拶を受ける間も隣にエリザベートを座らせている。ルイザはエリザベートの隣で半分後ろに下がった席だ。
これも普段の舞踏会なら何もおかしくはない。
だけど今日はルイザが主役として皆の挨拶を受けるはずだった。エリザベートとルイザは反対の席に座っているべきなのだ。
貴族たちは戸惑いながら、だけどカールが決めたことに異を唱えるわけにもいかず、粛々と挨拶を続けていった。
挨拶が終わるとダンスの時間だ。
ファーストダンスは当然カールとルイザである。
2人が踊るのを平然として見ていられるのか。エリザベートが一番恐れていた時間たった。
だけどカールはエリザベートに手を差し出した。
驚くエリザベートに優しく微笑んでみせる。
「行こう、リーザ。皆が待っている」
確かにカールがフロアに降りなければ、楽団も演奏を始められない。
そしてファーストダンスが終わらなければ誰も踊れないのだ。
それを思えばいつまでもグズグズしていられないだろう。だけどそれはエリザベートが踊る理由にならない。
「ルイザ様と……」
ルイザの方を振り向き、ルイザと踊るように告げるエリザベートの手をカールは強引に握った。
そして軽く引いて立つように促す。
「俺はリーザと踊りたいんだ。行こう」
それだけ言うとエリザベートの返事を待たずに歩き出した。
返事を待てば、エリザベートは受け入れないとわかっているのだ。
手を引かれたエリザベートはついていくしかない。それにここで揉めているのも見られたくなかった。
「一体どうされたのです?」
踊りながらエリザベートは小声で囁く。
カールが慣例を知らないはずがないのだ。
それなのに慣例から外れたことばかりしている。
「別に。リーザと踊りたかっただけだ」
カールは何でもないことのように言って蕩けるような顔で微笑んだ。
カールの指示を受けた侍従が広間の扉を開けた。
同時に国王の入場が告げられ、貴族たちが一斉に頭を下げる。
だけど入場を告げる侍従の声は困惑に満ちていて、貴族たちも戸惑っているのがわかる。
いつもの舞踏会であれば、その順番で間違いない。
だけどこれは新たに迎えた側妃を披露するための舞踏会なのだ。
慣例通りであればカールはルイザをエスコートして、その後ろにエリザベートが続く。入場を告げられるのも、国王、側妃、王妃の順だ。
それなのに国王の次に王妃が呼ばれた。
貴族たちが戸惑うのも当然だった。
「皆、顔を上げよ」
国王の声に合わせて貴族たちが顔を上げる。
壇上を見上げた貴族たちの間にざわめきが起きた。
それはそうだろう。いつもと変わらずカールがエリザベートをエスコートしているのだ。ルイザはエリザベートの隣で一歩下がって控えている。
「これはどういうことだ……?」
小さな呟きが聞こえてくる。
それは誰もが思っていることで、互いに顔を見合わせている者たちの姿も見えた。
彼らの気持ちがエリザベートにはよく分かる。
何より一番戸惑っているのはエリザベートなのだ。
「今日ここに集まってくれたことを感謝する。知っている者も多いだろうが、新たに妃を迎えた」
カールがルイザを紹介する言葉が聞こえて、エリザベートは後ろに下がろうとした。
流石にここはルイザに譲るべきだ。
そう思ったのに、カールはまた離れようとするエリザベートの手を押さえた。
「ルイザという。皆良くしてやってくれ」
「ルイザと申します。以後お見知りおきを」
エリザベートが驚いてカールの顔を見上げる内に、ルイザが一歩前に進み出てカーテシーをする。
貴族たちは戸惑いながら拍手で応えるしかなかった。
異例なことはそれからも続いた。
カールは挨拶を受ける間も隣にエリザベートを座らせている。ルイザはエリザベートの隣で半分後ろに下がった席だ。
これも普段の舞踏会なら何もおかしくはない。
だけど今日はルイザが主役として皆の挨拶を受けるはずだった。エリザベートとルイザは反対の席に座っているべきなのだ。
貴族たちは戸惑いながら、だけどカールが決めたことに異を唱えるわけにもいかず、粛々と挨拶を続けていった。
挨拶が終わるとダンスの時間だ。
ファーストダンスは当然カールとルイザである。
2人が踊るのを平然として見ていられるのか。エリザベートが一番恐れていた時間たった。
だけどカールはエリザベートに手を差し出した。
驚くエリザベートに優しく微笑んでみせる。
「行こう、リーザ。皆が待っている」
確かにカールがフロアに降りなければ、楽団も演奏を始められない。
そしてファーストダンスが終わらなければ誰も踊れないのだ。
それを思えばいつまでもグズグズしていられないだろう。だけどそれはエリザベートが踊る理由にならない。
「ルイザ様と……」
ルイザの方を振り向き、ルイザと踊るように告げるエリザベートの手をカールは強引に握った。
そして軽く引いて立つように促す。
「俺はリーザと踊りたいんだ。行こう」
それだけ言うとエリザベートの返事を待たずに歩き出した。
返事を待てば、エリザベートは受け入れないとわかっているのだ。
手を引かれたエリザベートはついていくしかない。それにここで揉めているのも見られたくなかった。
「一体どうされたのです?」
踊りながらエリザベートは小声で囁く。
カールが慣例を知らないはずがないのだ。
それなのに慣例から外れたことばかりしている。
「別に。リーザと踊りたかっただけだ」
カールは何でもないことのように言って蕩けるような顔で微笑んだ。
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