影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
94 / 140
3章 〜過去 正妃と側妃〜

28

しおりを挟む
 舞踏会と聞いてから、ルイザは楽しみと不安が混じり合った複雑な気持ちで過ごしていた。

 今度こそカールとの距離を縮められるだろうか。
 晩餐会の後はもっと親密になれると思ったのに期待は裏切られた。
 だけどカールはあの時ルイザを褒めてくれた。優しい笑顔を見せてくれた。
 今日も美しく装ったルイザを見ればきっと褒めてくれるはずだ。
 
 そうよ。今日はたくさんお話をして……。そうしたらもっと百合の宮へ来てくれるかもしれないわ。

 当然のことだが、ルイザは水曜日だけの訪問に満足していなかった。
 閨だけではなく、一緒にお茶を飲んだり散歩をしたり、夕食だって一緒に食べたい。
 カールがどんなに忙しい人だと言っても、週に1度くらい時間が取れるはずだ。
 今日こそカールにお願いしようと決めていた。

 また、それとは別にルイザには期待していることもあった。
 舞踏会自体がルイザには2回目の経験だ。1度目は地方でのデビュタントである。
 それが王宮で開かれる舞踏会なのだから、どれだけ素晴らしいのだろうかとワクワクする。貴族らしい催しにずっと憧れていたのだ。

 それに今度こそ友達ができるかもしれない。
 晩餐会の後は思っていたような貴族たちの訪問がなく、親しくなれる人がいなかった。
 だけど思えば晩餐会に来ていたのはルイザよりも年上の人ばかりだ。多くの人が集まる舞踏会では同年代の人たちもいるだろう。その人たちとなら親しくなれるかもしれない。
 気軽に訪ねてくれる友達が欲しい。
 それが百合の宮で孤独に過ごしているルイザの願いだった。



 だが、結果から言うと舞踏会は最悪な経験になった。

 まず広間の入場口へ行った時からおかしかったのだ。
 カールの指示でここへ来たのに、侍女や侍従たちは怪訝な視線を向けてきた。ヒソヒソと話す声が聞こえて不快だった。
 なぜそんな目で見られるのかわからなくて、居心地の悪さに耐えているとカールとエリザベートがやってきたのだ。

「お待たせしてごめんなさいね」

 エリザベートが優しく声を掛けてくれる。
 だけど2人の姿にショックを受けていたルイザはきちんと応えられたのかわからなかった。

 エリザベートは裾や袖口が黒色のレースで縁取られ、金糸の刺繍がされた青色のドレスを着ている。
 エスコートしているカールは、黒色のパンツに青色のシャツだ。黒色のパンツは暗く見えそうだが、全体的に金糸の刺繍がされていて落ち着いた華やかさに見える。
 明らかにお互いに合わせて作られた衣装だ。

 それに社交界に疎いルイザでも聞いたことがあった。
 互いに想い合っている夫婦や婚約者は互いの瞳や髪の色を使った服を着るのだ。
 カールもエリザベートも金色の髪と青色の瞳をしている。
 2人はお互いの色を身にまとっているのだ。

 ルイザはちらりと視線を下げ、自分のドレスを見た。
 黄色いグラデーションのドレスはどう頑張ってもカールの色には見えない。それにカールはルイザの色をひとつも使っていないのだから、ルイザを想っていないことは明白だ。
 ルイザはいたたまれない気持ちになった。

 それにもうひとつ気付いたことがあった。

 エリザベートはカールにエスコートされて現れた。
 つまり薔薇の宮へカールが迎えに行ったのだろう。
 この舞踏会はエリザベートが出席するのでカールが正妃をエスコートするのは当然だが、それなら晩餐会はどうだろうか。
 確かに晩餐会の間、カールはエスコートしてくれていたが、百合の宮へ迎えに来てはくれなかった。
 あの時エリザベートはいなかったのに、ルイザは食堂の前で待たされたのだ。  
 
 私は大切にされていないのかもしれない。

 嫌な汗が頬を伝った。



 私は陛下に選ばれたのよ。

 それがルイザの誇りだった。

 こちらから頼み込んだ縁談じゃない。望まれて嫁ぐのだ。
 だからこそルイザは知り合いが1人もいない王都へ行くことも躊躇わなかった。
 降って湧いた幸運に有頂天になっていたのも間違いない。
 だからなぜルイザが選ばれたのかと訝しみ、不安そうにしながら領地へ帰っていった両親の言葉も気にならなかったのだ。


 そう。
 ルイザはカールに選ばれた。
 だから愛させているはずだ。
 あまり会えないのもカールが忙しいからで、会話がないのもまだお互いをよく知らないから。

 だけどカールも見初めたルイザともっと一緒に過ごしたいと思っているはずだ。
 ルイザがお願いしたら、カールはきっと時間を取ってくれる。
 そしてお互いを知っていけばもっと親しくなれるだろう。親しくなればもっと一緒にいたくなる。
 そうして距離を縮めていけば、愛し愛される夫婦になれる。

 今日この時までルイザはそう思い込もうとしていたのだ。
 その幻想が崩れる音が聞こえたような気がした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

処理中です...