影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
92 / 140
3章 〜過去 正妃と側妃〜

26

しおりを挟む
「舞踏会?随分急なのね」

 舞踏会の開催について、ルイザにはイーネから伝えられた。
 開催まであまり日がないことに驚いたようだが、なぜそうなったのか気にすることなくすんなり受け入れたようだ。
 確かにヴィラント伯爵家で舞踏会が開かれていた頃のルイザはまだ幼く、準備などに関わることもなかっただろう。少しでも知っていれば、準備期間がこんなに短いなんて何かあると気付いたはずだ。

 たった2週間で舞踏会を開くなんて普通であれば有り得ない。
 大臣たちがこの日程を受け入れたのは、元々開くはずの舞踏会であったこと、王都に足止めされている貴族たちを開放しないといけないこと、そして何よりルイザの懐妊前に開かなければならないからだ。
 会場の飾り付けや招待状の準備、舞踏会で出す料理に使う食材の買付など、実際に駆けずりまわる使用人たちが文句も言わずに走り回っているのもその重要性をわかっているからである。

 だけどルイザは「そう指定されたからそうなのだ」と受け入れてしまった。
 その素直さは都合が良いけれど、後の国母としては不安である。

「ドレスはどうしたら良いかしら?」

「領地を出られる前に舞踏会で着る為のドレスを仕立てられたはずです。今回はそのドレスを着て下さい」

「ああ、そうだったわね」

 婚姻の儀式の後、舞踏会が開かれることは講師から教えられていた。伯爵夫妻も当然知っているので出立前にドレスを仕立てて持ってきているのだ。
 だけどドレスのことを思い出しても舞踏会の意味は思い出さないらしい。
 イーネはこれで良いのか密かに溜息をついた。





 舞踏会当日、ルイザは侍女たちに朝から磨き上げられた。
 鏡の中には薄い黄色のドレスを来たルイザが映っている。スカート部分は薄いレースが重ねられ、上になるほどレースが短くなっているので裾からウエストにかけてグラデーションになっている。そこに小粒のダイヤが散りばめられてキラキラと光を反射している。
 すっきりとまとめられた髪には花の形をしたピンクの髪留めをつけ、髪留めが派手な分イヤリングとネックレスは真珠を使ったシンプルなものが選ばれた。
 全体的にルイザの若々しさを際立たせるデザインだ。

「とてもお綺麗ですわ、妃殿下」

 侍女たちに指示しながら支度を見守っていたイーネが笑みを漏らす。
 イーネもルイザがエリザベートを刺激しないよう守っているだけでルイザを貶めるつもりはないのだ。だからこんな時はルイザの魅力を引き立たせるよう全力を尽くす。
 大体ルイザがおかしな格好をして悪評が立てば、いずれ生まれる王子の疵になるのだ。それでは涙をのんで側妃を迎え入れたカールやエリザベートの思いを踏みにじることになる。

「ええ、本当に……。これが私だなんて信じられないくらい」

 ルイザは鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめていた。
 百合の宮ここに来てから毎日顔も体も侍女たちの手で磨き上げられているが、普段はここまで華やかに着飾ったりしない。
 特にカールと会うのはいつも暗い寝室の中で、ドレスも装飾品も無ければ化粧もしていない時ばかりだ。
 
 定期的に閨が行われるようになってからもカールとの仲は進展していない。
 相変わら会話もなく、コトが済めばカールはすぐに帰ってしまう。

 だけどこの姿を見れば。

 ルイザは晩餐会の日を思い出す。
 カールは着飾ったルイザを見て「美しい」と言ってくれたのだ。

 今日もきっと陛下は褒めて下さるわ。

 ルイザは軽い足取りで歩き出した。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
明けましておめでとうございます。
年内の更新間に合いませんでした…。

今年はもっと更新できるように頑張ります<(_ _)>


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...