92 / 140
3章 〜過去 正妃と側妃〜
26
しおりを挟む
「舞踏会?随分急なのね」
舞踏会の開催について、ルイザにはイーネから伝えられた。
開催まであまり日がないことに驚いたようだが、なぜそうなったのか気にすることなくすんなり受け入れたようだ。
確かにヴィラント伯爵家で舞踏会が開かれていた頃のルイザはまだ幼く、準備などに関わることもなかっただろう。少しでも知っていれば、準備期間がこんなに短いなんて何かあると気付いたはずだ。
たった2週間で舞踏会を開くなんて普通であれば有り得ない。
大臣たちがこの日程を受け入れたのは、元々開くはずの舞踏会であったこと、王都に足止めされている貴族たちを開放しないといけないこと、そして何よりルイザの懐妊前に開かなければならないからだ。
会場の飾り付けや招待状の準備、舞踏会で出す料理に使う食材の買付など、実際に駆けずりまわる使用人たちが文句も言わずに走り回っているのもその重要性をわかっているからである。
だけどルイザは「そう指定されたからそうなのだ」と受け入れてしまった。
その素直さは都合が良いけれど、後の国母としては不安である。
「ドレスはどうしたら良いかしら?」
「領地を出られる前に舞踏会で着る為のドレスを仕立てられたはずです。今回はそのドレスを着て下さい」
「ああ、そうだったわね」
婚姻の儀式の後、舞踏会が開かれることは講師から教えられていた。伯爵夫妻も当然知っているので出立前にドレスを仕立てて持ってきているのだ。
だけどドレスのことを思い出しても舞踏会の意味は思い出さないらしい。
イーネはこれで良いのか密かに溜息をついた。
舞踏会当日、ルイザは侍女たちに朝から磨き上げられた。
鏡の中には薄い黄色のドレスを来たルイザが映っている。スカート部分は薄いレースが重ねられ、上になるほどレースが短くなっているので裾からウエストにかけてグラデーションになっている。そこに小粒のダイヤが散りばめられてキラキラと光を反射している。
すっきりとまとめられた髪には花の形をしたピンクの髪留めをつけ、髪留めが派手な分イヤリングとネックレスは真珠を使ったシンプルなものが選ばれた。
全体的にルイザの若々しさを際立たせるデザインだ。
「とてもお綺麗ですわ、妃殿下」
侍女たちに指示しながら支度を見守っていたイーネが笑みを漏らす。
イーネもルイザがエリザベートを刺激しないよう守っているだけでルイザを貶めるつもりはないのだ。だからこんな時はルイザの魅力を引き立たせるよう全力を尽くす。
大体ルイザがおかしな格好をして悪評が立てば、いずれ生まれる王子の疵になるのだ。それでは涙をのんで側妃を迎え入れたカールやエリザベートの思いを踏みにじることになる。
「ええ、本当に……。これが私だなんて信じられないくらい」
ルイザは鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめていた。
百合の宮に来てから毎日顔も体も侍女たちの手で磨き上げられているが、普段はここまで華やかに着飾ったりしない。
特にカールと会うのはいつも暗い寝室の中で、ドレスも装飾品も無ければ化粧もしていない時ばかりだ。
定期的に閨が行われるようになってからもカールとの仲は進展していない。
相変わら会話もなく、コトが済めばカールはすぐに帰ってしまう。
だけどこの姿を見れば。
ルイザは晩餐会の日を思い出す。
カールは着飾ったルイザを見て「美しい」と言ってくれたのだ。
今日もきっと陛下は褒めて下さるわ。
ルイザは軽い足取りで歩き出した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
明けましておめでとうございます。
年内の更新間に合いませんでした…。
今年はもっと更新できるように頑張ります<(_ _)>
舞踏会の開催について、ルイザにはイーネから伝えられた。
開催まであまり日がないことに驚いたようだが、なぜそうなったのか気にすることなくすんなり受け入れたようだ。
確かにヴィラント伯爵家で舞踏会が開かれていた頃のルイザはまだ幼く、準備などに関わることもなかっただろう。少しでも知っていれば、準備期間がこんなに短いなんて何かあると気付いたはずだ。
たった2週間で舞踏会を開くなんて普通であれば有り得ない。
大臣たちがこの日程を受け入れたのは、元々開くはずの舞踏会であったこと、王都に足止めされている貴族たちを開放しないといけないこと、そして何よりルイザの懐妊前に開かなければならないからだ。
会場の飾り付けや招待状の準備、舞踏会で出す料理に使う食材の買付など、実際に駆けずりまわる使用人たちが文句も言わずに走り回っているのもその重要性をわかっているからである。
だけどルイザは「そう指定されたからそうなのだ」と受け入れてしまった。
その素直さは都合が良いけれど、後の国母としては不安である。
「ドレスはどうしたら良いかしら?」
「領地を出られる前に舞踏会で着る為のドレスを仕立てられたはずです。今回はそのドレスを着て下さい」
「ああ、そうだったわね」
婚姻の儀式の後、舞踏会が開かれることは講師から教えられていた。伯爵夫妻も当然知っているので出立前にドレスを仕立てて持ってきているのだ。
だけどドレスのことを思い出しても舞踏会の意味は思い出さないらしい。
イーネはこれで良いのか密かに溜息をついた。
舞踏会当日、ルイザは侍女たちに朝から磨き上げられた。
鏡の中には薄い黄色のドレスを来たルイザが映っている。スカート部分は薄いレースが重ねられ、上になるほどレースが短くなっているので裾からウエストにかけてグラデーションになっている。そこに小粒のダイヤが散りばめられてキラキラと光を反射している。
すっきりとまとめられた髪には花の形をしたピンクの髪留めをつけ、髪留めが派手な分イヤリングとネックレスは真珠を使ったシンプルなものが選ばれた。
全体的にルイザの若々しさを際立たせるデザインだ。
「とてもお綺麗ですわ、妃殿下」
侍女たちに指示しながら支度を見守っていたイーネが笑みを漏らす。
イーネもルイザがエリザベートを刺激しないよう守っているだけでルイザを貶めるつもりはないのだ。だからこんな時はルイザの魅力を引き立たせるよう全力を尽くす。
大体ルイザがおかしな格好をして悪評が立てば、いずれ生まれる王子の疵になるのだ。それでは涙をのんで側妃を迎え入れたカールやエリザベートの思いを踏みにじることになる。
「ええ、本当に……。これが私だなんて信じられないくらい」
ルイザは鏡に映った自身の姿を食い入るように見つめていた。
百合の宮に来てから毎日顔も体も侍女たちの手で磨き上げられているが、普段はここまで華やかに着飾ったりしない。
特にカールと会うのはいつも暗い寝室の中で、ドレスも装飾品も無ければ化粧もしていない時ばかりだ。
定期的に閨が行われるようになってからもカールとの仲は進展していない。
相変わら会話もなく、コトが済めばカールはすぐに帰ってしまう。
だけどこの姿を見れば。
ルイザは晩餐会の日を思い出す。
カールは着飾ったルイザを見て「美しい」と言ってくれたのだ。
今日もきっと陛下は褒めて下さるわ。
ルイザは軽い足取りで歩き出した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
明けましておめでとうございます。
年内の更新間に合いませんでした…。
今年はもっと更新できるように頑張ります<(_ _)>
14
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
その日がくるまでは
キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。
私は彼の事が好き。
今だけでいい。
彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。
この想いを余す事なく伝えたい。
いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。
わたしは、彼に想いを伝え続ける。
故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。
ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。
確実に訪れる、別れのその日がくるまで。
完全ご都合、ノーリアリティです。
誤字脱字、お許しくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる