影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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3章 〜過去 正妃と側妃〜

15 ※閲覧注意

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自傷行為を表すような表現があります(本人にそのつもりはありません)。
今後タイトルに※印が付いているものは同様の表現が出てきますので苦手の方は読まない等ご自衛ください。

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 薔薇の宮に残されたエリザベートは鬱々とした時間を過ごしていた。
 休養を取ると為に晩餐会を欠席したのだから普段通りの生活を送るわけにもいかず、早々に夕食を摂ると湯浴みをして寝室に引き上げた。侍女たちも下がらせているのでここにいるのはエリザベート1人だけだ。

 いつものようにルイに話しかけていたが、何故かいつものような明るい言葉は出てこない。
 ルイの墓がある丘の向こうに見える明かりを見ていると、ルイザと並んで座るカールの姿が浮かんでくる。あの明かりが晩餐会が行われている食堂のものだなんてわかるはずがないのに、祝福を受ける2人の姿が見える気がしてエリザベートはぎゅっと目を閉じた。
 認めたくないが、エリザベートは2人が夫婦として過ごす場面を見たくないのだ。

 そう思えば無理にでも休ませようとしたカールに感謝し、すぐにでも横になるべきだろう。
 だけどエリザベートは眠りたくないのだ。
 寝てしまうと夢の中にルイが出てくる。
 それは幸せな夢でありながら、エリザベートを絶望に叩き落とす残酷な夢でもあった。
 
 ああだけど、疲れているのは事実だ。もう何日もまともに寝ていない。
 疲れているから、こんなにも心が弱っているのだろうか。



 カールがルイザのところへ行くといっても、昨日までは夕食はエリザベートと食べていた。
 その後もエリザベートと一緒にお茶を飲み、談笑して、エリザベートに促されて嫌々鳳凰の宮へ準備をしに行く。
 カールと離れているのはカールが百合の宮へ行っている僅かな時間だけだった。

 だけど今日は違う。
 カールはルイザと晩餐会に出て、その後も貴族たちをもてなしながらルイザと過ごす。そして鳳凰の宮で準備をして百合の宮へ向かい、ルイザを抱く。

 今夜カールは戻ってくるのだろうか。
 そんな不安を抱えながら長い夜を1人で過ごしたくない。
 
 ルイに会いたい。
 もしくは夢も見ずに深く眠ってしまいたい。

 エリザベートはふらふらと寝室から続くドレッシングルームへ足を踏み入れた。
 ドレスが並ぶクローゼットの奥、並べられた宝石箱の1つに睡眠薬が隠されている。

 侍女たちの誰かが、エリザベートが眠れていないことを侍医長に話したのだろう。定期的に受けている診察で侍医長は睡眠薬を出してくれた。
 だけど眠りたくないエリザベートは薬を飲まずに隠すことにした。

 診察の度に侍医長には薬を飲んだか確認された。
 その度にエリザベートは「飲んだ」と嘘をついた。 
 何故薬を飲まないのかと訊かれたくなかったからだ。
 夢の中に現れるルイのことも、目覚めた時の絶望感も口にしたくなかった。
 
 初めに処方されたのは軽い睡眠導入剤のようなものだった。
 だけど薬を飲んだと言うエリザベートに眠れた様子はない。
 エリザベートが薬を隠したと知らない侍医長は、どんどん強い薬を出すようになった。
 その薬がすべてここに収められている。

 エリザベートは宝石箱を開くと次々に薬を飲んでいった。
 今はただ、何も考えずに深く眠ってしまいたい。
 ルイと一緒に過ごせるのなら、そのまま目覚めなくても良いと心の何処かで思っていた。







 晩餐会を終え、貴族たちがそれぞれに談笑して過ごす応接間を抜け出したカールは、鳳凰の宮で湯浴みをして百合の宮へ向かった。
 今日で婚姻を結んで3日目になる。側妃を迎え入れる儀式として決められているのは、初夜から3日続けて側妃の元へ通うことだけだ。
 だからといって明日から通わなくて良いということにはならない。
 世継ぎを儲ける為に側妃を迎えた以上、ルイザが身籠るまでは最低限週に1度は通わなくてはならないだろう。 
 ああ、早く身籠って欲しい。

 それだけを考えていたカールは、いつものようにルイザを抱いた。
 晩餐会で掛けられた優しい言葉に、ルイザが今度こそ普通の夫婦関係を築けると期待していたことには気づかなかった。
 


 コトを終えたカールはいつものように鳳凰の宮で念入りに体を洗い、ルイザを抱いた痕跡を落とすと薔薇の宮へ向かった。明かりを落とした薔薇の宮は静まり返っている。
 カールは昨日までと同じように寝室の扉を開けるのを躊躇った。ルイザを抱いてきた自分が、エリザベートの傍へ行ってはいけないような気がするからだ。だけどエリザベートが1人で泣いているのなら、早く抱き締めてやりたい。

 扉を開けたカールはすぐにいつもと違う様子に気がついた。
 エリザベートの泣き声が聞こえないのだ。
 疲れ切っていたエリザベートが眠れているのなら良いことじゃないか。

 ホッとしてベッドへ近づいたカールは、そこにエリザベートの姿がないことに驚いた。
 それどころかベッドはきれいに整えられたままでエリザベートが横になっていた跡もない。

「リーザ?!リーザ!どこにいる?!」

 慌てて声を上げてもエリザベートが応える声はない。
 薄暗い部屋の中、カールはめちゃくちゃにエリザベートを探しまわった。

「誰かっ!誰か明かりを持って来い!!」

 カールが大声で命じると、廊下をバタバタと走る音がする。
 エリザベートが眠っていると思っていた侍女たちは、明かりを落とした後、1度も様子を見に来なかったのだ。
 それは泣いているのを隠そうとするエリザベートへの気遣いでもあった。

 やがてドレッシングルームへ続く扉が薄く開いていることに気がついたカールはドレッシングルームへ飛び込んむ。そしてクローゼットの奥、ドレスに紛れて倒れているエリザベートを見つけると狂ったように声を上げた。

「リーザ!!リーザ、しっかりしてくれっ!!」

 カールがエリザベートを抱き起こすとだらんと垂れた手から薬のケースがこぼれ落ちる。
 知らずカールは絶叫していた。
 



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