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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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鳳凰の宮で着替えたカールは晩餐会が行われる食堂へ向かった。
気は重いが、決められた儀式なので仕方がない。
今日はルイザに優しくできるだろうか。
それもカールの気持ちを重くしていることのひとつだ。
彼女を愛せなくても優しく接するするべきだと思っているのに、実際にはまともな会話さえできていない。
だけどルイザを見るとエリザベートの顔が浮かんでくる。悲しいのに、それを認められずに笑っている顔。
そうするとエリザベートにそんな顔をさせる自分が嫌になって、ただ早く帰りたくて、ルイザに対する気遣いなど吹き飛んでしまう。
今日も百合の宮まで迎えに行かず、1人でここまで来させてしまった。
パートナーにエスコートされない女性が周りからどう見られるのか知っているのに……。
カールが食堂にたどり着くと、扉の前でルイザが待っていた。カールに気づいてホッとしたように表情を緩ませる。
きっと緊張しているのだろう。ルイザはこれまで貴族令嬢らしい生活をしていなかった。
唯一経験したのが地方で行われたデビュタントだと聞いている。それなのにいきなりこの国の重鎮が集まる晩餐会に出るのだから、緊張しない方がおかしいのだ。
「待たせて済まなかった」
カーテシーをしようとするルイザを手で止めたカールは優しく声を掛けた。
優しい声が出たことにホッとする。すると次の言葉も自然に出てきた。
「ああ、美しいな。ドレスがよく似合っている」
途端にルイザが目を見開いて頬を染める。
カールはそれに気づかない振りをして腕を差し出した。
口にしたのはただの社交辞令ではない。
白いドレスに映える赤の飾りを着けたルイザは、少女から大人へ向かう女性特有の美しさを醸し出している。この色味はもうエリザベートには着られないだろう。
ルイザは容姿も悪くない。これまで田舎の領地にいて、身繕いに気を使えるような状況ではなかったので野暮ったいところもあるが、ここで磨かれればそれは美しい女性に成長するだろう。
カールにもエリザベート以外の女性を美しいと思う心はある。ただそれが異性としての好意に繋がったり欲望を呼び起こすことがないだけだ。
扉が開かれると貴族たちの視線が一斉に注がれる。
その中をカールはルイザと並んで進んだ。
2人が席に着くと近くに座った者から順に名乗り、祝いの言葉を述べていく。
これは通常の晩餐会ではない流れだ。だがここにいるのはすべて側妃の選定に関わった者。
王都の社交界に出たことがないルイザへの配慮だった。
1人ずつ爵位と名前を告げて、祝いの言葉を述べる貴族たちにルイザは内心ホッとしていた。
領地にいる間に特別講師から晩餐会に招かれるだろう貴族の名前を教えられ、絵姿を見て覚えてきた。
だけど完璧に覚えられたのかと言われたら自信がない。
だからこうして自ら名乗ってくれるのは有難かった。
途切れることなく続く貴族たちの言葉を聞いていたルイザは、ふと1つの席が空いていることに気がついた。
他の席と同様にカトラリーはセッティングされている。元から空けている席ということはないだろう。それにあそこは主賓席ではないだろうか。
「あの、あちらは……?」
不思議に思ったルイザは国王に訊いてみた。
ルイザはただ国王が開く晩餐会に遅れてくる者がいるとは思わず、何故空いているのか不思議に思っただけだ。それが何か別の意味を持つなんて考えてもいなかった。
「………彼女は体調が優れないので休ませた」
「まあ、そうですか」
体調を崩してしまったのなら仕方がない。
事前に国王へ連絡があり、国王が欠席を許可したなら良いのだろう。
ルイザはそう思っただけで、すぐに挨拶をする別の貴族へ視線を向けた。
だからルイザは国王が顔を強張らせたことにも、ダシェンボード公爵夫妻が悲しげに顔を伏せたことにも気づかなかった。
ルイザは晩餐会に王妃が主賓として参席することをすっかり忘れていたのだ。
気は重いが、決められた儀式なので仕方がない。
今日はルイザに優しくできるだろうか。
それもカールの気持ちを重くしていることのひとつだ。
彼女を愛せなくても優しく接するするべきだと思っているのに、実際にはまともな会話さえできていない。
だけどルイザを見るとエリザベートの顔が浮かんでくる。悲しいのに、それを認められずに笑っている顔。
そうするとエリザベートにそんな顔をさせる自分が嫌になって、ただ早く帰りたくて、ルイザに対する気遣いなど吹き飛んでしまう。
今日も百合の宮まで迎えに行かず、1人でここまで来させてしまった。
パートナーにエスコートされない女性が周りからどう見られるのか知っているのに……。
カールが食堂にたどり着くと、扉の前でルイザが待っていた。カールに気づいてホッとしたように表情を緩ませる。
きっと緊張しているのだろう。ルイザはこれまで貴族令嬢らしい生活をしていなかった。
唯一経験したのが地方で行われたデビュタントだと聞いている。それなのにいきなりこの国の重鎮が集まる晩餐会に出るのだから、緊張しない方がおかしいのだ。
「待たせて済まなかった」
カーテシーをしようとするルイザを手で止めたカールは優しく声を掛けた。
優しい声が出たことにホッとする。すると次の言葉も自然に出てきた。
「ああ、美しいな。ドレスがよく似合っている」
途端にルイザが目を見開いて頬を染める。
カールはそれに気づかない振りをして腕を差し出した。
口にしたのはただの社交辞令ではない。
白いドレスに映える赤の飾りを着けたルイザは、少女から大人へ向かう女性特有の美しさを醸し出している。この色味はもうエリザベートには着られないだろう。
ルイザは容姿も悪くない。これまで田舎の領地にいて、身繕いに気を使えるような状況ではなかったので野暮ったいところもあるが、ここで磨かれればそれは美しい女性に成長するだろう。
カールにもエリザベート以外の女性を美しいと思う心はある。ただそれが異性としての好意に繋がったり欲望を呼び起こすことがないだけだ。
扉が開かれると貴族たちの視線が一斉に注がれる。
その中をカールはルイザと並んで進んだ。
2人が席に着くと近くに座った者から順に名乗り、祝いの言葉を述べていく。
これは通常の晩餐会ではない流れだ。だがここにいるのはすべて側妃の選定に関わった者。
王都の社交界に出たことがないルイザへの配慮だった。
1人ずつ爵位と名前を告げて、祝いの言葉を述べる貴族たちにルイザは内心ホッとしていた。
領地にいる間に特別講師から晩餐会に招かれるだろう貴族の名前を教えられ、絵姿を見て覚えてきた。
だけど完璧に覚えられたのかと言われたら自信がない。
だからこうして自ら名乗ってくれるのは有難かった。
途切れることなく続く貴族たちの言葉を聞いていたルイザは、ふと1つの席が空いていることに気がついた。
他の席と同様にカトラリーはセッティングされている。元から空けている席ということはないだろう。それにあそこは主賓席ではないだろうか。
「あの、あちらは……?」
不思議に思ったルイザは国王に訊いてみた。
ルイザはただ国王が開く晩餐会に遅れてくる者がいるとは思わず、何故空いているのか不思議に思っただけだ。それが何か別の意味を持つなんて考えてもいなかった。
「………彼女は体調が優れないので休ませた」
「まあ、そうですか」
体調を崩してしまったのなら仕方がない。
事前に国王へ連絡があり、国王が欠席を許可したなら良いのだろう。
ルイザはそう思っただけで、すぐに挨拶をする別の貴族へ視線を向けた。
だからルイザは国王が顔を強張らせたことにも、ダシェンボード公爵夫妻が悲しげに顔を伏せたことにも気づかなかった。
ルイザは晩餐会に王妃が主賓として参席することをすっかり忘れていたのだ。
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