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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「あちらが妃殿下がお住まいになる宮殿、百合の宮でございます」
「まあ!凄い……っ!」
侍女の言葉にルイザは思わず身を乗り出した。
窓の外にはこれまで通り過ぎて来たのと同じような豪奢な宮殿と広大な庭園が見える。
いや、自分に与えられた宮殿と聞いたからだろうか。これまで目にしたどの宮殿よりも輝いて見えた。
実際に薔薇の宮は別格として、側妃に与えられる宮殿の規模はどれも同じなのだ。だけどやはり国王からの寵愛が深い程鳳凰の宮に近い宮殿を与えられる傾向にある。
出来る限り近くにいたいという気持ちの表れか、単純に足繁く通うのに遠ければ面倒なのかわからないが、側妃を多く抱えた国王の時代には、寵愛が薄れた側妃が新しく寵愛を得た側妃と宮殿を入れ替えられてひと騒動起こしたという記録も残っている。
だけど中央との繋がりが薄く、そこで巻き起こった数々の出来事を何も知らないルイザは、外観の美しさに惹かれてただただ喜んでいた。
だが百合の宮での暮らしは、百合の宮に一歩入ったところから思い描いていたものとは違う様相を見せる。
玄関から中に入ると主だった使用人が並んで出迎えていた。
その中で、執事、侍女長、メイド長から挨拶を受ける。
侍女長の後ろにヴィラント伯爵家から唯一連れて来た侍女のミザリーを見つけてルイザはホッと息をついた。
ミザリーはルイザより一足早く伯爵領を発ち、王宮でルイザを迎える支度をしていた。買い揃えた嫁入り調度品も先に王都へ送られ、到着したルイザがすぐに生活できるよう整えられている。
本当はもっと侍女を連れて来たかったのだが、伯爵領では最低限の人数しか使用人を雇えていない。もしルイザが複数の侍女を連れて来てしまったら、伯爵家の生活が立ち行かなくなっただろう。
伯爵領には両親だけでなく弟妹もいるのだ。
「それでは妃殿下、お部屋へご案内致します」
侍女頭のイーネに声を掛けられ、ルイザは頷いて歩き出した。
だけど何か違和感を感じる。
大抵当主の私室や主寝室は2階にある。
それはいい。イーネも2階へ向かって歩いている。
廊下に飾られている絵画や置き物は見覚えがあるものだ。嫁ぐ前に嫁入り調度品の一部として買ったものや、両親から譲られたものが並んでいる。
「っ!」
不安になったルイザがちらっと後ろを振り返えると、心配そうな表情でこちらを窺うミザリーと目が合った。
「こちらが妃殿下のお部屋でございます。私どもで精一杯整えましたが、ご希望があればすぐに模様替え致しますのでお申し付けください」
「いいえ、大丈夫よ。素敵だわ……」
案内された部屋は本当にルイザの理想通りだった。
拘って選んだ天蓋付きのベッドも小花柄のチェストも猫足のローテーブルやソファも伯爵家では決して手の出ないもので、王家からの支度金があったからこそ買えたものだ。
理想的なお姫様の部屋。
だけど不安を感じるのは、先程感じた違和感の答えがわかっていないからだろうか。
ルイザがソファに座るとすぐにお茶が用意される。
一口飲むのを見届けると、イーネが口を開いた。
「それではこれからの予定をご説明致します。お疲れでしょうが、一息ついたら王妃殿下へご挨拶に伺います。これから先触れを出しますので、ご支度をお願い致します」
「わかったわ」
王妃への挨拶は特別講師から教えられていた。
国王の正妃はあくまで王妃。妃を束ね、離宮を管理し取り仕切るのは王妃なのだ。入宮したら最初に王妃へ挨拶をして、離宮に住まわせてもらうことを感謝しなければならない。
「王妃殿下へのご挨拶が終われば夜まで予定はありません。ゆっくりお体を休めて頂き、夜の支度をして陛下をお待ちください」
「………っ!!」
それは初夜、ということだろう。
宰相はそこまで言わなかったけれど、この国では側妃を迎える仕来りとして3日続けて閨を行う。
この3日目が最も重要で、お披露目の晩餐会の後閨を行い、そこで婚姻が完全に成立すると考えられているのだ。
これはおかしな話で、婚姻届に署名をした以上、閨がなくても婚姻は成立している。
だから側妃に心を移した国王が、王妃に気兼ねなく側妃の元へ通う為だと考えられていた。
2人は結婚の披露をした後、朝までしっぽり過ごすのだ。
「~~~~~~っ!!」
ルイザは赤くなった頬を抑えて肩を震わせる。
妄想に浸るルイザは、イーネの冷めた視線に気づかなかった。
「まあ!凄い……っ!」
侍女の言葉にルイザは思わず身を乗り出した。
窓の外にはこれまで通り過ぎて来たのと同じような豪奢な宮殿と広大な庭園が見える。
いや、自分に与えられた宮殿と聞いたからだろうか。これまで目にしたどの宮殿よりも輝いて見えた。
実際に薔薇の宮は別格として、側妃に与えられる宮殿の規模はどれも同じなのだ。だけどやはり国王からの寵愛が深い程鳳凰の宮に近い宮殿を与えられる傾向にある。
出来る限り近くにいたいという気持ちの表れか、単純に足繁く通うのに遠ければ面倒なのかわからないが、側妃を多く抱えた国王の時代には、寵愛が薄れた側妃が新しく寵愛を得た側妃と宮殿を入れ替えられてひと騒動起こしたという記録も残っている。
だけど中央との繋がりが薄く、そこで巻き起こった数々の出来事を何も知らないルイザは、外観の美しさに惹かれてただただ喜んでいた。
だが百合の宮での暮らしは、百合の宮に一歩入ったところから思い描いていたものとは違う様相を見せる。
玄関から中に入ると主だった使用人が並んで出迎えていた。
その中で、執事、侍女長、メイド長から挨拶を受ける。
侍女長の後ろにヴィラント伯爵家から唯一連れて来た侍女のミザリーを見つけてルイザはホッと息をついた。
ミザリーはルイザより一足早く伯爵領を発ち、王宮でルイザを迎える支度をしていた。買い揃えた嫁入り調度品も先に王都へ送られ、到着したルイザがすぐに生活できるよう整えられている。
本当はもっと侍女を連れて来たかったのだが、伯爵領では最低限の人数しか使用人を雇えていない。もしルイザが複数の侍女を連れて来てしまったら、伯爵家の生活が立ち行かなくなっただろう。
伯爵領には両親だけでなく弟妹もいるのだ。
「それでは妃殿下、お部屋へご案内致します」
侍女頭のイーネに声を掛けられ、ルイザは頷いて歩き出した。
だけど何か違和感を感じる。
大抵当主の私室や主寝室は2階にある。
それはいい。イーネも2階へ向かって歩いている。
廊下に飾られている絵画や置き物は見覚えがあるものだ。嫁ぐ前に嫁入り調度品の一部として買ったものや、両親から譲られたものが並んでいる。
「っ!」
不安になったルイザがちらっと後ろを振り返えると、心配そうな表情でこちらを窺うミザリーと目が合った。
「こちらが妃殿下のお部屋でございます。私どもで精一杯整えましたが、ご希望があればすぐに模様替え致しますのでお申し付けください」
「いいえ、大丈夫よ。素敵だわ……」
案内された部屋は本当にルイザの理想通りだった。
拘って選んだ天蓋付きのベッドも小花柄のチェストも猫足のローテーブルやソファも伯爵家では決して手の出ないもので、王家からの支度金があったからこそ買えたものだ。
理想的なお姫様の部屋。
だけど不安を感じるのは、先程感じた違和感の答えがわかっていないからだろうか。
ルイザがソファに座るとすぐにお茶が用意される。
一口飲むのを見届けると、イーネが口を開いた。
「それではこれからの予定をご説明致します。お疲れでしょうが、一息ついたら王妃殿下へご挨拶に伺います。これから先触れを出しますので、ご支度をお願い致します」
「わかったわ」
王妃への挨拶は特別講師から教えられていた。
国王の正妃はあくまで王妃。妃を束ね、離宮を管理し取り仕切るのは王妃なのだ。入宮したら最初に王妃へ挨拶をして、離宮に住まわせてもらうことを感謝しなければならない。
「王妃殿下へのご挨拶が終われば夜まで予定はありません。ゆっくりお体を休めて頂き、夜の支度をして陛下をお待ちください」
「………っ!!」
それは初夜、ということだろう。
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2人は結婚の披露をした後、朝までしっぽり過ごすのだ。
「~~~~~~っ!!」
ルイザは赤くなった頬を抑えて肩を震わせる。
妄想に浸るルイザは、イーネの冷めた視線に気づかなかった。
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