影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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2章 ~過去 カールとエリザベート~

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「お父様が新しい奥様を迎えるのですって。きっとすぐに弟妹きょうだいが生まれるわよ。良かったわね、ルイちゃん。本当に良かったわ……」

 エリザベートは自室の窓辺に座り、ルイの墓へ語りかける。
 膝の上にはルイが大好きだったクマのぬいぐるみ。ひとしきり語りかけてはぬいぐるみの額に口づけを落とす。
 これが1人でいる時のいつもの過ごし方だ。

 カールがいる時は、すっかり立ち直ったようにしゃんとして見せる。
 あの流産以来カールは酷く過保護になっていて、エリザベートが沈んだ様子を見せると酷く心配そうな顔をして傍を離れないのだ。

 凄く有難いことだと思う。
 だけどカールは国王として側妃を迎えなければならないのだ。側妃を迎え――世継ぎを儲けなければ。

 それなのにエリザベートが暗い顔をしていれば、2人の足枷になるだろう。
 カールは側妃のところへ通うのに躊躇うだろうし、側妃は罪悪感を抱くかもしれない。
 2人の邪魔になることだけは避けなければ。



 だからエリザベートはカールの前で明るく振る舞う。
 側妃を迎えることなど少しも気にしていないと笑ってみせる。
 実際のところ、エリザベートはカールの愛を疑っていないし、側妃を迎えるのは嫁ぐ前から覚悟していたことなのだ。
 
「私は平気よ、ルイちゃん。だってお父様が新しい家族を迎えるの。喜ばしいことでしょう?」

 カールは相手がエリザベートでなければ子を儲けることができる。もう一度父親になることができるのだ。
 あの柔らかくて温かい存在を抱き締めることができる。

「お父様がルイを忘れるんじゃないかって心配しているの?大丈夫よ、お父様は優しい方だもの。あなたを忘れたりしないわ」

 側妃に子が生まれても、カールにとっては愛する者が増えるだけだ。
 愛情深いカールがルイを忘れたりするはずがない。エリザベートとは形が違っても、カールが今もルイを悼んでいるのを知っている。

「そうよ、大丈夫よ。大丈夫なのよ……」



 カールはエリザベートを愛してくれている。
 側妃を娶るのは世継ぎを儲ける為だ。側妃を迎えてもエリザベートに対する愛が消えることはないだろう。

 気の毒なのは、国の為に選ばれる側妃の方だ。
 できるだけ優しくして、居心地が悪い思いをしないように気遣ってあげなければ。

「カール様が愛しているのは私だもの。大丈夫なのよ……」
 


「大丈夫よ、大丈夫……」

 エリザベートは何度もそう繰り返す。
 大丈夫なのに、そう信じているのに、湧き上がる不安はなんだろう。
 ぬいぐるみを抱き締める腕に力が入るのは何故なのか。

 わからないままエリザベートは繰り返す。
 まるで自分に暗示を掛けているように。



 
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