影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
62 / 140
2章 ~過去 カールとエリザベート~

39

しおりを挟む
 カールの気持ちが揺らいだのを重臣たちは見逃さなかった。
 今の内に押し切るしかないと、側妃の話を進めようとする。だが依然として引き受けてくれる令嬢は見つからないままだ。
 そこで重臣たちは考えを改めることにした。

 次期国王の生母として相応しい令嬢でなくても、とにかく今は世継ぎを生んでくれればそれで良い。後ろ盾になる家は後からでも見つけられる。世継ぎを儲けることが何より優先だ。
 中央で力を持っていなくても、いや、むしろ中央の事情に精通していない、忘れられた貴族家の方が良いだろう。

 こうして重臣たちは没落寸前の貴族令嬢を探し始めた。
 条件は伯爵家以上の令嬢であること。10年以上宮廷に顔を出しておらず、カールとエリザベートの夫婦仲も、ルイの存在も知らないこと。
 本人たちは宮廷から離れていても、情報通で余計な話を耳に入れそうな縁戚がいる家は避けた。

 この頃ダシェンボード前公爵は宮廷での職を辞して表舞台から身を引いた。現公爵のリチャードは側妃の選定にも関わっているが、宮廷におけるダシェンボード公爵家の影響力は格段に弱くなる。

 何もわからず、生贄のように選ばれる令嬢が、それからの人生を「我が子が国王になり、国母になるまでの辛抱だ」と割り切れるような令嬢なら良い。だけどそうでなければ、エリザベートやダシェンボード公爵家は酷く憎まれることになるだろう。
 次期国王と王母に睨まれたダシェンボード公爵家に未来はない。
 後に残る子どもたちの為にも少しずつ権力の中枢から身を引く必要があった。
  


 この時中心に立って側妃候補の選定を行なったのがアンダーソン公爵(シェリルの祖父)だ。
 アンダーソン公爵家はダシェンボード公爵家と入れ替わるようにして力を持つようになっていった。






 アンダーソン公爵たちが血眼になって国内の貴族家を調べている頃、カールは密かにダシェンボード公爵家を訪れた。
 悪あがきだとわかっている。
 だけどどうしてもエリザベート以外の女を受け入れたくなかった。




「……兄上、今なんと仰いました?」

「……近い内に退位したいと考えている。王籍に復帰し、王位を継いで欲しい。勿論そなたが王として滞りなく公務を行えるよう数年は準備期間を儲けるつもりだ」

 何度考えてもカールに残された道はこれしかなかった。
 子息を養子に迎えるのではなく、マクロイド公爵を王籍に復帰させて王太子にする。カールとほとんど歳が変わらないが、数年以内の譲位が決まっていれば何か言う者もいないだろう。公爵には既に子息がいるのだから、世継ぎの心配もしなくて良い。
 辺境の伯爵が騒ぎ立てる恐れはあるが、既に中央から追放されて10年近く経つあの異母弟にもう事態を動かす力はない。

「頼む。もうこれしかないんだ」

「兄上!!」

 頭を下げたカールにマクロイド公爵が悲鳴のような声を上げる。
 だけどカールは頭を下げ続けた。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

処理中です...