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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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カールの気持ちが揺らいだのを重臣たちは見逃さなかった。
今の内に押し切るしかないと、側妃の話を進めようとする。だが依然として引き受けてくれる令嬢は見つからないままだ。
そこで重臣たちは考えを改めることにした。
次期国王の生母として相応しい令嬢でなくても、とにかく今は世継ぎを生んでくれればそれで良い。後ろ盾になる家は後からでも見つけられる。世継ぎを儲けることが何より優先だ。
中央で力を持っていなくても、いや、むしろ中央の事情に精通していない、忘れられた貴族家の方が良いだろう。
こうして重臣たちは没落寸前の貴族令嬢を探し始めた。
条件は伯爵家以上の令嬢であること。10年以上宮廷に顔を出しておらず、カールとエリザベートの夫婦仲も、ルイの存在も知らないこと。
本人たちは宮廷から離れていても、情報通で余計な話を耳に入れそうな縁戚がいる家は避けた。
この頃ダシェンボード前公爵は宮廷での職を辞して表舞台から身を引いた。現公爵のリチャードは側妃の選定にも関わっているが、宮廷におけるダシェンボード公爵家の影響力は格段に弱くなる。
何もわからず、生贄のように選ばれる令嬢が、それからの人生を「我が子が国王になり、国母になるまでの辛抱だ」と割り切れるような令嬢なら良い。だけどそうでなければ、エリザベートやダシェンボード公爵家は酷く憎まれることになるだろう。
次期国王と王母に睨まれたダシェンボード公爵家に未来はない。
後に残る子どもたちの為にも少しずつ権力の中枢から身を引く必要があった。
この時中心に立って側妃候補の選定を行なったのがアンダーソン公爵(シェリルの祖父)だ。
アンダーソン公爵家はダシェンボード公爵家と入れ替わるようにして力を持つようになっていった。
アンダーソン公爵たちが血眼になって国内の貴族家を調べている頃、カールは密かにダシェンボード公爵家を訪れた。
悪あがきだとわかっている。
だけどどうしてもエリザベート以外の女を受け入れたくなかった。
「……兄上、今なんと仰いました?」
「……近い内に退位したいと考えている。王籍に復帰し、王位を継いで欲しい。勿論そなたが王として滞りなく公務を行えるよう数年は準備期間を儲けるつもりだ」
何度考えてもカールに残された道はこれしかなかった。
子息を養子に迎えるのではなく、マクロイド公爵を王籍に復帰させて王太子にする。カールとほとんど歳が変わらないが、数年以内の譲位が決まっていれば何か言う者もいないだろう。公爵には既に子息がいるのだから、世継ぎの心配もしなくて良い。
辺境の伯爵が騒ぎ立てる恐れはあるが、既に中央から追放されて10年近く経つあの異母弟にもう事態を動かす力はない。
「頼む。もうこれしかないんだ」
「兄上!!」
頭を下げたカールにマクロイド公爵が悲鳴のような声を上げる。
だけどカールは頭を下げ続けた。
今の内に押し切るしかないと、側妃の話を進めようとする。だが依然として引き受けてくれる令嬢は見つからないままだ。
そこで重臣たちは考えを改めることにした。
次期国王の生母として相応しい令嬢でなくても、とにかく今は世継ぎを生んでくれればそれで良い。後ろ盾になる家は後からでも見つけられる。世継ぎを儲けることが何より優先だ。
中央で力を持っていなくても、いや、むしろ中央の事情に精通していない、忘れられた貴族家の方が良いだろう。
こうして重臣たちは没落寸前の貴族令嬢を探し始めた。
条件は伯爵家以上の令嬢であること。10年以上宮廷に顔を出しておらず、カールとエリザベートの夫婦仲も、ルイの存在も知らないこと。
本人たちは宮廷から離れていても、情報通で余計な話を耳に入れそうな縁戚がいる家は避けた。
この頃ダシェンボード前公爵は宮廷での職を辞して表舞台から身を引いた。現公爵のリチャードは側妃の選定にも関わっているが、宮廷におけるダシェンボード公爵家の影響力は格段に弱くなる。
何もわからず、生贄のように選ばれる令嬢が、それからの人生を「我が子が国王になり、国母になるまでの辛抱だ」と割り切れるような令嬢なら良い。だけどそうでなければ、エリザベートやダシェンボード公爵家は酷く憎まれることになるだろう。
次期国王と王母に睨まれたダシェンボード公爵家に未来はない。
後に残る子どもたちの為にも少しずつ権力の中枢から身を引く必要があった。
この時中心に立って側妃候補の選定を行なったのがアンダーソン公爵(シェリルの祖父)だ。
アンダーソン公爵家はダシェンボード公爵家と入れ替わるようにして力を持つようになっていった。
アンダーソン公爵たちが血眼になって国内の貴族家を調べている頃、カールは密かにダシェンボード公爵家を訪れた。
悪あがきだとわかっている。
だけどどうしてもエリザベート以外の女を受け入れたくなかった。
「……兄上、今なんと仰いました?」
「……近い内に退位したいと考えている。王籍に復帰し、王位を継いで欲しい。勿論そなたが王として滞りなく公務を行えるよう数年は準備期間を儲けるつもりだ」
何度考えてもカールに残された道はこれしかなかった。
子息を養子に迎えるのではなく、マクロイド公爵を王籍に復帰させて王太子にする。カールとほとんど歳が変わらないが、数年以内の譲位が決まっていれば何か言う者もいないだろう。公爵には既に子息がいるのだから、世継ぎの心配もしなくて良い。
辺境の伯爵が騒ぎ立てる恐れはあるが、既に中央から追放されて10年近く経つあの異母弟にもう事態を動かす力はない。
「頼む。もうこれしかないんだ」
「兄上!!」
頭を下げたカールにマクロイド公爵が悲鳴のような声を上げる。
だけどカールは頭を下げ続けた。
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