影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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2章 ~過去 カールとエリザベート~

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 それからエリザベートはベッドで過ごすようになった。
 時々起き上がるのは、窓辺の椅子に座りルイの墓を眺める時だけだ。
 だけどそれも長い時間は続かず、侍女や侍医に促されてすぐにベッドへ戻る。
 墓を眺められなくても腹の中にルイがいると思うことで気持ちが慰められているようだった。

 明るさを取り戻し、楽しそうに日々を過ごすエリザベートにカールは時々不安を感じる。
 エリザベートがベッドの上で編んでいるのはルイに良く似合いそうな帽子やルイが好きだった色の靴下、ルイが大好きだったクマの模様を編み込んだセーターだ。腹に「ルイ」と話しかける様子を見ても、本当に腹の子がルイだと信じているように感じてしまう。

 だけど腹にいるのは女の子かもしれない。
 男の子かもしれないが、それでもルイとは違う、ルイの弟なのだ。

「……リーザ、その子にはその子の名前をつけてあげようね」

「? ええ。勿論ですわ」

 エリザベートはカールの不安がわからないようでにこりと笑う。
 カールもそれ以上言葉を重ねることができずに肩を抱き寄せた。



 だけどカールの不安は突然意味を失った。
 6ヶ月目のある日、子が流れてしまったのだ。





「いやぁーーーっ!!」

 エリザベートの悲鳴が響く。
 体に負担が掛かるからと侍医が安静にさせようと宥めても意味がなかった。高貴な身体に触れることはできないので侍医たちは落ち着くよう声を掛け続けるしかできないのだ。
 知らせを受けて駆けつけたカールが見たのは地獄のような光景だった。

「リーザ、リーザ!」

「嘘よ、嘘よ、嘘よ!!ルイちゃまーーーっ!!」

 正気を失ったように泣き喚くエリザベートをカールが抱き留める。
 侍医長が気を静める薬湯をなんとか飲ませるまでカールはエリザベートを抱き締め続けた。

 
 薬湯を飲んだエリザベートが気絶するように眠りにつくと、カールはホッとして涙に汚れた頬を撫でる。
 侍女が遠慮がちに差し出したタオルでエリザベートの顔を拭っていく。

 カールも子が生まれるのを楽しみに思っていた。
 幾ばくかの不安はあっても幸せな家族を取り戻せると思っていた。
 子を喪ったのは悲しい。だけどエリザベートが無事でいてくれるなら、いずれまた……、という気持ちもあった。

 そんなカールをどん底に突き落としたのは侍医長の言葉だ。
 侍医長はエリザベートの身体的負担が大きく、再度の懐妊は望めないと言った。
 もし懐妊したとしても、産み月まで育てることができずにまた流れてしまうだろうと。

 それはカールが世継ぎを儲けようと思えば側妃を娶るしかないという通告でもあった。





 
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