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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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呆然としたまま日々を過ごしていたエリザベートだが、いつまでもこのままではいけないとわかっていた。
エリザベートには王妃として行わなければならない仕事がある。それなのにもう何か月も放棄したままだ。
今は同情心から非難の声も抑えられているけれど、それも時間の問題だろう。
エリザベートは母親である前に王妃なのだ。
それを証するようにカールは少し休んだだけで政務に戻っている。
カールが薄情なわけでは決してなく、それが国王としてあるべき姿なのだ。
それにこのままではエリザベートを王妃に選んだカールにも非難が向かうだろう。エリザベートとの婚約は解消するよう言われていたのだ。
その反対を押し切って結婚したのに、跡継ぎを儲けられず、執務もできないのでは非難されて当然だった。
自分のせいでカールが悪く言われるのは耐えられない。
この日、帰宅したカールに、エリザベートは明日から公務に復帰すると伝えた。
その言葉を聞いた時、カールは驚いたように動きを止めた。
そして痛々しそうに目を細める。
「無理はしなくて良い、リーザ」
エリザベートはすっかり痩せてしまっていた。
侍女たちが日々甲斐甲斐しくお世話をしているのに、頬はこけて肌に色艶もない。
精神的なショックとその後に襲った高熱が生気を奪ってしまったようだ。
「無理はしておりません。むしろ休み過ぎてしまったでしょう。皆に迷惑を掛けております」
エリザベートが休んでいる間の執務は、これまでと同じように補佐官たちが中心となって行われていた。補佐官では判断できないものや、最終的な決済を行うのはカールだ。補佐官やカールに掛る負担は大きかった。
それに孤児院や病院への慰問もできていない。バザーに出す品も用意していたのはダシェンボード公爵家の者たちだ。
母や2人の義姉がレース作品を多く作り、エリザベートの名前で出してくれた。
カールと相談してエリザベートの使わなくなった小物やドレスを出してくれたのは侍女たちだ。
エリザベートの体面を守る為に多くの人が協力してくれていた。
「それにここで投げ出してしまっては、何の為にルイに淋しい思いをさせていたのか……っ!」
「リーザ!!」
エリザベートの頬を涙が流れた。
カールがすぐに抱き締めてくれる。
エリザベートは淋しがるルイを残して執務へ行っていたのを悔やんでいるのだ。
せめて具合が悪い時くらいは傍にいてやれば良かった。
だけどエリザベートは泣いて縋るルイを残して執務へ向かった。それは王妃としての務めを果たす為だ。
それなのに今こうしてぼんやり過ごしているのはルイに対する裏切りのように思えた。
「……わかった。リーザの気持ちが楽になるなら、そうすれば良い」
ルイのことを想いながら暮らしていても気持ちが晴れることはない。
それならば忙しくしている方が気が紛れるのではないか。
そう思ったカールはエリザベートの決断を受け入れた。
その決断通り、エリザベートは翌日から執務に復帰した。
だけどすぐに後悔することになる。
王宮へ向かおうとするエリザベートを引き留める者はいない。
それなのにエリザベートは部屋を出る前に何度も後ろを振り返った。
だけど何度振り返っても「やなのぉ」と目を潤ませるルイはいない。
ルイを抱き寄せ宥めていた乳母の姿もそこにはなかった。
2人はもう薔薇の宮にいないのだ。
エリザベートは毎朝それを思い知らされることになる――。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
更新の間が空いてしまい申し訳ありません!
シリアス好きですが、自分で書くのは中々苦しいですね(^-^;
今でもカール、エリザベート、ルイのラブラブ親子エピが思い浮かぶのですが、それはもう「思い出」にしかならないので…(´;ω;`)ウゥゥ
エリザベートには王妃として行わなければならない仕事がある。それなのにもう何か月も放棄したままだ。
今は同情心から非難の声も抑えられているけれど、それも時間の問題だろう。
エリザベートは母親である前に王妃なのだ。
それを証するようにカールは少し休んだだけで政務に戻っている。
カールが薄情なわけでは決してなく、それが国王としてあるべき姿なのだ。
それにこのままではエリザベートを王妃に選んだカールにも非難が向かうだろう。エリザベートとの婚約は解消するよう言われていたのだ。
その反対を押し切って結婚したのに、跡継ぎを儲けられず、執務もできないのでは非難されて当然だった。
自分のせいでカールが悪く言われるのは耐えられない。
この日、帰宅したカールに、エリザベートは明日から公務に復帰すると伝えた。
その言葉を聞いた時、カールは驚いたように動きを止めた。
そして痛々しそうに目を細める。
「無理はしなくて良い、リーザ」
エリザベートはすっかり痩せてしまっていた。
侍女たちが日々甲斐甲斐しくお世話をしているのに、頬はこけて肌に色艶もない。
精神的なショックとその後に襲った高熱が生気を奪ってしまったようだ。
「無理はしておりません。むしろ休み過ぎてしまったでしょう。皆に迷惑を掛けております」
エリザベートが休んでいる間の執務は、これまでと同じように補佐官たちが中心となって行われていた。補佐官では判断できないものや、最終的な決済を行うのはカールだ。補佐官やカールに掛る負担は大きかった。
それに孤児院や病院への慰問もできていない。バザーに出す品も用意していたのはダシェンボード公爵家の者たちだ。
母や2人の義姉がレース作品を多く作り、エリザベートの名前で出してくれた。
カールと相談してエリザベートの使わなくなった小物やドレスを出してくれたのは侍女たちだ。
エリザベートの体面を守る為に多くの人が協力してくれていた。
「それにここで投げ出してしまっては、何の為にルイに淋しい思いをさせていたのか……っ!」
「リーザ!!」
エリザベートの頬を涙が流れた。
カールがすぐに抱き締めてくれる。
エリザベートは淋しがるルイを残して執務へ行っていたのを悔やんでいるのだ。
せめて具合が悪い時くらいは傍にいてやれば良かった。
だけどエリザベートは泣いて縋るルイを残して執務へ向かった。それは王妃としての務めを果たす為だ。
それなのに今こうしてぼんやり過ごしているのはルイに対する裏切りのように思えた。
「……わかった。リーザの気持ちが楽になるなら、そうすれば良い」
ルイのことを想いながら暮らしていても気持ちが晴れることはない。
それならば忙しくしている方が気が紛れるのではないか。
そう思ったカールはエリザベートの決断を受け入れた。
その決断通り、エリザベートは翌日から執務に復帰した。
だけどすぐに後悔することになる。
王宮へ向かおうとするエリザベートを引き留める者はいない。
それなのにエリザベートは部屋を出る前に何度も後ろを振り返った。
だけど何度振り返っても「やなのぉ」と目を潤ませるルイはいない。
ルイを抱き寄せ宥めていた乳母の姿もそこにはなかった。
2人はもう薔薇の宮にいないのだ。
エリザベートは毎朝それを思い知らされることになる――。
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更新の間が空いてしまい申し訳ありません!
シリアス好きですが、自分で書くのは中々苦しいですね(^-^;
今でもカール、エリザベート、ルイのラブラブ親子エピが思い浮かぶのですが、それはもう「思い出」にしかならないので…(´;ω;`)ウゥゥ
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