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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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呆然としている間にも日々は過ぎていく。
エリザベートは葬儀の後本格的に体調を崩した。精神的なショックと体力的な疲れが限界を超えたのだ。
侍医たちは今も薔薇の宮に通い詰め、エリザベートを診ている。
王子に続いて王妃まで救えなければ何らかの罰がくだされるのでは――という恐怖も働いていたいたようだ。
実際のカールはそんなことを考える余裕もなく、一心にエリザベートの回復を祈っていた。
そんな中でダシェンボード公爵が家督を譲り、リチャードが新たな当主となった。
ただ公爵は王宮での役職まで引退するつもりはないようで、そのまま勤め続けている。
エリザベートが再度子を生むのは無理だろう。
今は静かでもやがて側妃を迎えるべきと言い出す者が出てくる。
そうなった時に、リチャードではまだエリザベートの後見として力不足だと感じているのだ。
ただリチャードが当主になれば公爵夫人としての役割を担うのはアンヌになる。
公爵夫人としての家政や社交から解放されたエリザベートの母は、弱った娘の傍についていられるのだ。
それから前公爵夫人は連日薔薇の宮を訪れ、寝付いてしまった娘の看病に勤しんだ。
カールも2週間だけ執務を休んだ。
国王として政務に穴を開けるわけにはいかない。
そうわかっていてもルイを亡くした喪失感とエリザベートまで喪ってしまいそうな恐怖に襲われ、どうしても執務へ向かう気持ちになれなかったのだ。
カールの不在を埋めるようにマクロイド公爵や新たに宰相位に就いたアンダーソン公爵(シェリルの祖父)が精力的に動いてくれた。
そんな時にカールの神経を逆なでするような事件が起こった。
辺境の伯爵―カールの異母弟―から手紙が届いたのだ。
どこからかルイの死を聞いたらしく、「王太子に相応しいのは第二王子である俺の息子だろう。息子を養子にするべきだ」と書かれていた。
伯爵領から手紙を持参した従者は、手紙に目を通した途端握り潰したカールに顔色を変えた。
従者は手紙の内容を知らなかったのだ。主人の手紙を覗き見る等するはずがないのでそれが当然である。
従者は子を亡くした異母兄へのお悔やみの手紙だと思って持参したのだ。
「奴に伝えろ!貴様の子を養子にするなど決して有り得ん!ふざけた夢を見るな、とな!!」
その言葉で従者は手紙の内容を理解した。
カールが怒るのも当然である。
従者は恐縮してカールの前から退出した。
その後この従者は主の人となりに絶望し、職を辞するのだが。
伯爵領を出た後マクロイド公爵に拾われ、公爵家の従者として能力を発揮するのはまた別の話である。
ともあれこの事件の後、マクロイド公爵はやはり王位を継ぐのは国王の子であるべきとの思いを強くし、カールもまたマクロイド公爵に子を養子に欲しいと言い出しづらくなった。
そして誰にも知られぬよう握り潰したはずのこの話は、寝室で寝込むエリザベートの耳に入り、カールには跡継ぎとなる子が必要なのだと改めて思い知らされた。
エリザベートは葬儀の後本格的に体調を崩した。精神的なショックと体力的な疲れが限界を超えたのだ。
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実際のカールはそんなことを考える余裕もなく、一心にエリザベートの回復を祈っていた。
そんな中でダシェンボード公爵が家督を譲り、リチャードが新たな当主となった。
ただ公爵は王宮での役職まで引退するつもりはないようで、そのまま勤め続けている。
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そうなった時に、リチャードではまだエリザベートの後見として力不足だと感じているのだ。
ただリチャードが当主になれば公爵夫人としての役割を担うのはアンヌになる。
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それから前公爵夫人は連日薔薇の宮を訪れ、寝付いてしまった娘の看病に勤しんだ。
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そして誰にも知られぬよう握り潰したはずのこの話は、寝室で寝込むエリザベートの耳に入り、カールには跡継ぎとなる子が必要なのだと改めて思い知らされた。
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