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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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「ルイ!」
「ルイちゃん!ああ、なんてことなの!」
バタバタと足音を響かせ前国王夫妻が駆け込んでくる。
驚いて顔を上げたエリザベートはカールをキッと睨みつけた。
カールが2人に報せたのは間違いない。
だけど年に一度、ルイの誕生日にしか来ないはずの前国王夫妻が来るだなんて、これが最後と言っているようなものでなはいか。
だけどカールの気持ちもわかる。
もし、万が一、そんなことがあれば、前国王夫妻がルイに会うのは、半年程前にあった3歳の誕生日が最後になってしまう。
まだ息がある内に、一目会わせてあげたい。
ダシェンボード公爵家の両親と違って前国王夫妻はルイとの思い出が少ないのだ。
「………っ、うっ、くっ……」
俯いて嗚咽を漏らすエリザベートの肩をカールは強く抱き寄せた。
そのままよろよろとベッドサイドの傍を譲る。
2人は一番近くでルイの顔を見ることができた。
「大丈夫よ、ルイちゃん。すぐに良くなるわ」
「そうだ、おまえは強い子だ。絶対に良くなるからな」
言い聞かせるような、気丈で力強い声。
それは心からの願いだった。
だけど願いは届かなかった。
前国王夫妻が到着してから3日後、ルイは短い生涯を終えた。
「いやぁーーーーっ!あぁぁーーーっ!嫌よ、ルイちゃん!いやぁーーーーっ!」
エリザベートの慟哭が響く。
カールも苦しみから解放されたルイの寝顔を見つめながらただただ涙を流していた。
部屋に集められた前国王夫妻もダシェンボード公爵夫妻も、リチャードやアンヌたちも、皆涙を流していた。
プレストンだけは涙を流しながらも苛立ちが抑えられない様子で部屋を出て行く。兄のアレクスが後を追うと、テラスから出た庭の隅で拳を壁に叩きつけていた。
「守ると誓ったのに!俺が守ると誓ったのにっ!何もできなかった……っ!」
どれ程打ち付けていたのか、拳が切れて血が滲んでいる。だけど痛みは感じていないようだ。
拳よりも胸が痛い。
「俺が守ると言ったのに!俺が……っ!!」
「それくらいにしておけ。もう充分だ」
また拳を打ち付けようとするのをアレクスが止めた。
プレストンがハッとして振り返る。
「兄上……っ」
そのまま泣き崩れるプレストンをアレクスは抱き寄せる。
ルイは刺客に襲われたわけではない。事故でも毒を盛られたのでもない。
病だった。
医師でもないプレストンにできることなんて何もなかった。
そんなことは皆わかっている。
誰もプレストンを責めたりしない。
だけどプレストンは、何もできなかった自分を許せないのだ。
それは皆同じだった。
皆同じ痛みを抱えていた。
遺体は通常葬儀までの間、王宮の奥に立つ教会の安置所に移される。
だけどエリザベートはそれを許さなかった。
あんな寒い、人気のないところに移したら、ルイが淋しがると言うのだ。
ルイを抱き抱え、「絶対ここから移させない!!」と叫ぶエリザベートに司祭が折れた。
曰く、故人を悼む人が近くにいれば、幼い魂も癒されるだろうと。
同時に見送る人々の気持ちが救われるのなら。
その為、旅立つまでのもう少しの間、ルイは子ども部屋で過ごすことになった。
「ルイちゃん、もう辛くない?苦しくないの?良く眠れている?」
ルイの髪を撫でながらエリザベートが問い掛ける。
その顔はやつれているものの穏やかだ。
もう熱に浮かされることも、息苦しさを感じることもない。
「………っ!嫌よ、ルイちゃん。起きて、起きてちょうだい……っ!!」
繰り返される慟哭を聞きながら、カールは付き添うことしかできなかった。
「ルイちゃん!ああ、なんてことなの!」
バタバタと足音を響かせ前国王夫妻が駆け込んでくる。
驚いて顔を上げたエリザベートはカールをキッと睨みつけた。
カールが2人に報せたのは間違いない。
だけど年に一度、ルイの誕生日にしか来ないはずの前国王夫妻が来るだなんて、これが最後と言っているようなものでなはいか。
だけどカールの気持ちもわかる。
もし、万が一、そんなことがあれば、前国王夫妻がルイに会うのは、半年程前にあった3歳の誕生日が最後になってしまう。
まだ息がある内に、一目会わせてあげたい。
ダシェンボード公爵家の両親と違って前国王夫妻はルイとの思い出が少ないのだ。
「………っ、うっ、くっ……」
俯いて嗚咽を漏らすエリザベートの肩をカールは強く抱き寄せた。
そのままよろよろとベッドサイドの傍を譲る。
2人は一番近くでルイの顔を見ることができた。
「大丈夫よ、ルイちゃん。すぐに良くなるわ」
「そうだ、おまえは強い子だ。絶対に良くなるからな」
言い聞かせるような、気丈で力強い声。
それは心からの願いだった。
だけど願いは届かなかった。
前国王夫妻が到着してから3日後、ルイは短い生涯を終えた。
「いやぁーーーーっ!あぁぁーーーっ!嫌よ、ルイちゃん!いやぁーーーーっ!」
エリザベートの慟哭が響く。
カールも苦しみから解放されたルイの寝顔を見つめながらただただ涙を流していた。
部屋に集められた前国王夫妻もダシェンボード公爵夫妻も、リチャードやアンヌたちも、皆涙を流していた。
プレストンだけは涙を流しながらも苛立ちが抑えられない様子で部屋を出て行く。兄のアレクスが後を追うと、テラスから出た庭の隅で拳を壁に叩きつけていた。
「守ると誓ったのに!俺が守ると誓ったのにっ!何もできなかった……っ!」
どれ程打ち付けていたのか、拳が切れて血が滲んでいる。だけど痛みは感じていないようだ。
拳よりも胸が痛い。
「俺が守ると言ったのに!俺が……っ!!」
「それくらいにしておけ。もう充分だ」
また拳を打ち付けようとするのをアレクスが止めた。
プレストンがハッとして振り返る。
「兄上……っ」
そのまま泣き崩れるプレストンをアレクスは抱き寄せる。
ルイは刺客に襲われたわけではない。事故でも毒を盛られたのでもない。
病だった。
医師でもないプレストンにできることなんて何もなかった。
そんなことは皆わかっている。
誰もプレストンを責めたりしない。
だけどプレストンは、何もできなかった自分を許せないのだ。
それは皆同じだった。
皆同じ痛みを抱えていた。
遺体は通常葬儀までの間、王宮の奥に立つ教会の安置所に移される。
だけどエリザベートはそれを許さなかった。
あんな寒い、人気のないところに移したら、ルイが淋しがると言うのだ。
ルイを抱き抱え、「絶対ここから移させない!!」と叫ぶエリザベートに司祭が折れた。
曰く、故人を悼む人が近くにいれば、幼い魂も癒されるだろうと。
同時に見送る人々の気持ちが救われるのなら。
その為、旅立つまでのもう少しの間、ルイは子ども部屋で過ごすことになった。
「ルイちゃん、もう辛くない?苦しくないの?良く眠れている?」
ルイの髪を撫でながらエリザベートが問い掛ける。
その顔はやつれているものの穏やかだ。
もう熱に浮かされることも、息苦しさを感じることもない。
「………っ!嫌よ、ルイちゃん。起きて、起きてちょうだい……っ!!」
繰り返される慟哭を聞きながら、カールは付き添うことしかできなかった。
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