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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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午後になってゾフィーから届けられた報告書を見ると、やはりあの後ルイは泣き通しだったようだ。
ゾフィーはそれを家庭教師として根気よく宥め、「伯爵夫人」と一度呼ばせたところで授業を終えたらしい。
その後届いた乳母からの報告には、ルイが昼食をあまり食べずに眠ってしまったこと、初めての授業で疲れただろうからいつもより長くお昼寝させると書いてあった。
執務を終えたエリザベートは王宮内を歩きながら気持ちが焦る。
薔薇の宮へ入ってからは速足で子ども部屋へ向かった。
「おかしゃま!」
子ども部屋の扉を開けるとルイがパッとこちらを振り返る。
だけどいつもならすぐに駆け寄り抱き着いてくるのに、どうしたら良いのか困った様子でエリザベートの顔を窺っていた。
「どうしたの?いらっしゃい」
エリザベートは優しく呼びかけ腰を落とす。
するとルイは安心したように走ってきた。
「おかしゃまぁ!」
家庭教師へ引き渡した時は、ゾフィーだけでなくエリザベートも普段と態度を変えていた。
王妃としてのエリザベートを初めて見たのだ。いつもと違うエリザベートに、甘えて良いのか不安だったのだろう。
「おかしゃま、おかしゃまぁ」
声を上げて泣くルイをエリザベートは優しく抱き締める。
アンヌやゾフィーからは、どんな子でも初めての授業の後は緊張や不安からいつもより甘えたがると聞いていた。多くの子を育てているだけあって2人は何度も体験しているのだ。
2人からは存分に甘えさせるよう言われていた。
「今日は頑張ったわね、ルイ」
淋しかったり怖かったり色んな思いをしただろう。だけど最後まで頑張ったのだ。
震える背中を優しく撫でる。
「良い子ね、良い子」
耳元で囁きながら何度も背中を撫でる。
「あぁぁーっ」「あぁーーっ」と響く声が愛おしかった。
ルイはこの日泣き止んだ後もエリザベートの傍を離れなかった。
少しでも傍を離れようとすると、泣きそうな顔でしがみついてくる。
エリザベートはルイを抱いたまま部屋へ戻るとそのまま好きなように遊ばせることにした。
カールが急いで帰って来た時も、ルイはエリザベートの膝に座っていた。
「頑張ったな、ルイ。偉いぞ」
カールは部屋へ入ってくるとすぐにルイの傍へ来て頭を撫でる。
ゾフィーや乳母からの報告書は目を通した後カールへ届けているのだ。カールも今日の出来事を知っている。
「おとしゃまぁ」
目を潤ませて両手を延ばすルイをカールが抱き留める。
抱き締められるとルイはまた泣きだした。
一度涙が止まっても、優しくされるとまた涙が戻ってくるのだ。カールもわかっていたようでそのまま優しく抱いている。
夕食はそのまま一緒にエリザベートの部屋で摂ることにした。
ルイは昼食をあまり食べていないのでお腹が空いていたようだ。エリザベートやカールが口元へ運ぶとパクパクと食べる。
普段は子ども部屋で食べているので一緒に食事ができるのも嬉しいようだ。「おいちね、おいちね」と言ってはにこにこ笑っている。
だけど何度も泣いて疲れたのだろう。半分ほど食べたところでうとうとと眠り出した。食事を中断したカールがルイを抱き上げる。
ルイは眠ってしまうのが嫌なようで、「やなのぉ」と抵抗している。眠ってしまうと1人で子ども部屋に戻されるとわかっているのだ。それでも抵抗しきれなかったらしく、やがて可愛い寝息をたてだした。ぐっすり眠っているのできっと朝まで起きないだろう。
子ども部屋へルイを運んだカールは中々戻らなかった。きっとルイの寝顔を眺めているのだ。
エリザベートの仕事をカバーしているカールは常に忙しく、中々ルイと長い時間を過ごすことができない。
今日は譲ってあげましょうとエリザベートは微笑んで1人で食事を続けた。
ゾフィーはそれを家庭教師として根気よく宥め、「伯爵夫人」と一度呼ばせたところで授業を終えたらしい。
その後届いた乳母からの報告には、ルイが昼食をあまり食べずに眠ってしまったこと、初めての授業で疲れただろうからいつもより長くお昼寝させると書いてあった。
執務を終えたエリザベートは王宮内を歩きながら気持ちが焦る。
薔薇の宮へ入ってからは速足で子ども部屋へ向かった。
「おかしゃま!」
子ども部屋の扉を開けるとルイがパッとこちらを振り返る。
だけどいつもならすぐに駆け寄り抱き着いてくるのに、どうしたら良いのか困った様子でエリザベートの顔を窺っていた。
「どうしたの?いらっしゃい」
エリザベートは優しく呼びかけ腰を落とす。
するとルイは安心したように走ってきた。
「おかしゃまぁ!」
家庭教師へ引き渡した時は、ゾフィーだけでなくエリザベートも普段と態度を変えていた。
王妃としてのエリザベートを初めて見たのだ。いつもと違うエリザベートに、甘えて良いのか不安だったのだろう。
「おかしゃま、おかしゃまぁ」
声を上げて泣くルイをエリザベートは優しく抱き締める。
アンヌやゾフィーからは、どんな子でも初めての授業の後は緊張や不安からいつもより甘えたがると聞いていた。多くの子を育てているだけあって2人は何度も体験しているのだ。
2人からは存分に甘えさせるよう言われていた。
「今日は頑張ったわね、ルイ」
淋しかったり怖かったり色んな思いをしただろう。だけど最後まで頑張ったのだ。
震える背中を優しく撫でる。
「良い子ね、良い子」
耳元で囁きながら何度も背中を撫でる。
「あぁぁーっ」「あぁーーっ」と響く声が愛おしかった。
ルイはこの日泣き止んだ後もエリザベートの傍を離れなかった。
少しでも傍を離れようとすると、泣きそうな顔でしがみついてくる。
エリザベートはルイを抱いたまま部屋へ戻るとそのまま好きなように遊ばせることにした。
カールが急いで帰って来た時も、ルイはエリザベートの膝に座っていた。
「頑張ったな、ルイ。偉いぞ」
カールは部屋へ入ってくるとすぐにルイの傍へ来て頭を撫でる。
ゾフィーや乳母からの報告書は目を通した後カールへ届けているのだ。カールも今日の出来事を知っている。
「おとしゃまぁ」
目を潤ませて両手を延ばすルイをカールが抱き留める。
抱き締められるとルイはまた泣きだした。
一度涙が止まっても、優しくされるとまた涙が戻ってくるのだ。カールもわかっていたようでそのまま優しく抱いている。
夕食はそのまま一緒にエリザベートの部屋で摂ることにした。
ルイは昼食をあまり食べていないのでお腹が空いていたようだ。エリザベートやカールが口元へ運ぶとパクパクと食べる。
普段は子ども部屋で食べているので一緒に食事ができるのも嬉しいようだ。「おいちね、おいちね」と言ってはにこにこ笑っている。
だけど何度も泣いて疲れたのだろう。半分ほど食べたところでうとうとと眠り出した。食事を中断したカールがルイを抱き上げる。
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子ども部屋へルイを運んだカールは中々戻らなかった。きっとルイの寝顔を眺めているのだ。
エリザベートの仕事をカバーしているカールは常に忙しく、中々ルイと長い時間を過ごすことができない。
今日は譲ってあげましょうとエリザベートは微笑んで1人で食事を続けた。
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