影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
42 / 140
2章 ~過去 カールとエリザベート~

19

しおりを挟む
 こんな穏やかな日々が続いていくのだと思っていたエリザベートだったが、そうでもなかった。
 ルイは体の弱い子どもで、すぐに熱を出す。
 季節の変わり目には必ず風邪をひいて、夏の暑い時も肌寒くなった時も風邪をひく。風をこじらせて肺炎を起こすことも度々あった。
 こんなに頻繁に風邪をひくなんてどこか悪いのではないかと侍医たちが熱心に調べてくれたが、特別な病名があるわけではなく虚弱体質であるようだ。

 ルイが高熱を出して寝込む度にエリザベートは胸が潰れるような思いをする。
 ルイの体が弱いのはエリザベートの体質を受け継いだからではないかと思うからだ。

「ごめんね、ルイ。ごめんね……」

 エリザベートはいつも泣きながらルイの看病にあたった。 
 何より辛いのは苦しんでいるルイの傍にずっと付いていられないことだ。毎日公務へ行かなくてはならない。

「やぁ……、やっ」

 母と離れたがらずに泣くルイをそっと抱き締める。

「ごめんね、ルイ……。執務が終わったらすぐに帰ってくるからね」

 頭を撫で、背中を撫でて額に口づける。
 母を求めて泣き叫ぶ声を振り切るようにして執務室へ向かった。





 病気ばかりをしているからだろうか。ルイは同じ歳の子に比べて発育が遅かった。
 1歳になっても自力で座ることができず、言葉も中々出てこない。1人で歩けるようになったのは2歳を過ぎてからだ。

 だけどそれがなんだというのだろうか。
 元気な時は良く動き、一生懸命おしゃべりをして良く笑う。
 庭園で昆虫を見つけてはエリザベートに見せようとして、エリザベートが悲鳴を上げそうになることもあった。
 そんな時はすぐにカールが間に入ってくれる。

「母様は虫が苦手なんだ。父様に見せてくれ」

「あいっ!」

 ルイが歩くようになると、薔薇の宮の庭園は本当に子を育てる為の場所だと感じた。
 子どもが触れて怪我をするような薔薇は遠い奥地にあり、子どもの姿を隠す生垣もない。離宮に沿った場所には花壇が作られているが、少し歩くと広い芝生になる。小さな子どもが駆けまわるには最高の場所だ。
 薔薇の宮は子どもが育つべき離宮なのだ。

「日が傾いてきた。そろそろ戻ろうか」

 カールに呼びかけられてエリザベートは頷いた。
 木の陰にシートを敷いて、3人で食事を摂った後は芝生を駆けて遊ぶルイとカールを眺めていた。
 ルイは時々エリザベートの元へ戻って来ては摘んだ花やどんぐりを渡してくれる。シートの上はルイが集めた花やどんぐりでいっぱいだ。
 エリザベートが立ち上がると、侍女たちが花を束ねて渡してくれた。ルイの乳母はどんぐりを袋に詰めている。

「やぁなの!」

 ルイの大きな声がしてそちらを見ると、抱き上げようとするカールに抵抗していた。
 いやいやと体をねじり、腕から逃れようとする。

「なんだ、歩きたいのか?」

「あいっ!」

 カールが呆れたように笑う。
 そのまま好きにさせると決めたようでエリザベートへ振り向いた。
 エリザベートが傍まで来ると腰を抱いて歩き出す。ルイは2人の前を先導するように歩いている。

 だけどそれは長く続かなかった。元々芝生で駆けていたので疲れているのだ。
 花壇の辺りまで来たところでぺたんと座り込む。

「だっこぉ」

 涙目でカールを見上げるルイのなんて可愛いことか。

 この子がこの世で一番可愛い。

 エリザベートはその思いを新たにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏
恋愛
※本文に盛り込んでいたAIイラストはギャラリーに全て移動しました。 私はアンジェリーナ・ウエクスラー。平民でデメクレティック学園を去年卒業したばかりの15歳だ。この国の平民は11歳から14歳までデメクレティック学園に通い、貴族は16歳までアリストクラシィ学園に通うことになっている。 そして、貴族も平民も15歳になると魔力測定を王城で受けなければならない。ここ70年ばかり、魔力を持った者は現れなかったけれど、魔力測定だけは毎年行われていた。私は母さんが縫ってくれたワンピースを着て王城に行った。今まで平民から魔力持ちが現れたことはなかったというから、私にそんな力があるとは思っていない。 王城では、初めて間近に見る貴族のご令嬢に目を付けられて意地悪なことを言われて、思わず涙が滲んだ。悔しいときにも涙が出てくる自分が嫌だし、泣きたくなんかないのに・・・・・・彼女達は私のワンピースや両親を蔑み笑った。平民でパン屋の娘が、そんなに悪い事なの? 私は自分の両親が大好きだし自慢にも思っているのに。 これ以上泣きたくなくて涙を堪えながら魔力測定の列に並び順番を待った。流れ作業のように簡単に終わるはずだった測定の結果は・・・・・・ これは平民でパン屋の娘である私が魔力持ちだったことがわかり、最初は辛い思いをするものの、幸せになっていく物語。 ※魔法ありの異世界で、ドラゴンもいます。ざまぁは軽め。現代的な表現や言葉遣いがありますし、時代的な背景や服装やら文明の程度は作者自身の設定ですので、地球上の実際の歴史には全く基づいておりません。ファンタジー要素の濃いラブストーリーとなっております。ゆるふわ設定、ご都合主義は多分いつもなかんじ😓よろしくお願いしまぁす🙇🏻‍♀️なお、他サイトにも投稿します。一話ごとの字数にはばらつきがあります。 ※表紙はAIで作者が作成した画像です。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...