影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
40 / 140
2章 ~過去 カールとエリザベート~

17

しおりを挟む
 ホームパーティーは微笑ましい光景から始まった。
 大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
 だけど子どもたちは違っていた。
 ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
 既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
 緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
 
 彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
 特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
 それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。

「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」

「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」

 エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
 リチャードが頷く。

「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」

 今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
 だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
 子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。





 最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
 私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
 兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。

「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」

「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」

 ダシェンボード公爵夫人が笑う。
 それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。

「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」

「まあ、それはリズも同じですわ」

 公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
 カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
 婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。

 それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
 国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
 それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。

「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」

 だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
 出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。

「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」

「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」

「母上!」

「お母様!もうお止めください!!」

 カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
 だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

処理中です...