40 / 120
2章 ~過去 カールとエリザベート~
17
しおりを挟む
ホームパーティーは微笑ましい光景から始まった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
大人たちは社交に慣れているので前国王夫妻がいても委縮することはない。いつもと同じように挨拶をして、勧められた席に座る。
だけど子どもたちは違っていた。
ここにいるのはリチャードの長男アレクス12歳、次男プレストン9歳、長女マリエンヌ6歳。アルバートの長男フランク9歳、長女アレキサンドラ7歳。
既に基礎的な教育は受けているので、出迎えた大人たちが皆祖父母よりも身分が高いと理解している。子どもたちだけのお茶会には参加している年齢のアレクスを先頭にしてしっかり挨拶をしてくれた。
緊張した面持ちが初々しくて可愛らしい。
彼らが最も戸惑ったのはエリザベートへの挨拶だった。
特にリチャードの子どもたちはエリザベートが嫁ぐまで同じ邸で暮らしていて、アレクスとプレストンはその頃のこともしっかり覚えている。
それなのに久しぶりに会った叔母は王妃で、この国で最高位の女性なのだ。
「そんなに畏まらなくても良いわ。今日は親族の集まりだもの。私のことは殿下でも叔母様でも、呼びやすい方で呼んでちょうだい」
「そうだな。俺のことも、陛下でも叔父様でもどちらでも良い」
エリザベートとカールにそう言われた子どもたちは、困ったように両親の顔を見た。
リチャードが頷く。
「お2人の許可を得たんだ。公的な場所で区別がつけられるならどちらでも良い」
今は私的な場所だから甥と姪として親しく接しても良い。
だけど公的な場所では臣下として立場を弁えなければならない。
「親族として思い上がったり、うっかり間違えたりしないと自信が持てるなら叔母様と呼んでも良い。その判断は自分でしなさい」という意味だ。
子どもたちは自分で考えて呼び方を選んだ。
最初は緊張していた子どもたちも、時間が経つにつれて馴染んできた。
私的な集まりとして自由な発言と行動が認められているので、自然とルイの周りに集まっていく。
兄妹が多いだけに赤子の扱いも心得ていて、触れようとする妹に兄たちが「そっとだよ」と声を掛けている。
「そうっと、そうっと」と言いながらルイを撫でるマリエンヌとアレキサンドラが可愛い。
「しばらく見ない内に皆すっかり大きくなって。きっとルイもあっという間に大きくなってしまうのでしょうね」
「ええ、そうね。あなたもあっという間に大きくなってしまったわ」
ダシェンボード公爵夫人が笑う。
それを聞いていた前王妃もうんうんと頷いた。
「子どもたちを見ているとあなたたちの幼い頃を思い出すわね……。カールったら一目であなたに恋をしてしまって」
「まあ、それはリズも同じですわ」
公爵夫人と前王妃は揃ってコロコロと笑う。
カールとエリザベートは前王妃が開いた子どもたちのお茶会で出会った。
婚約者や未来の側近候補を見つける為のお茶会だが、1回だけで決めるわけではない。何回も時間を置いて繰り返し、相性の良い子を選んでいけば良いと思っていた。
それなのにカールは初めてのお茶会でエリザベートを見初めてしまったのだ。
国王夫妻にとっては予想外の出来事で、困惑しながら公爵家に申し入れてみるとエリザベートもカールと婚約したいと言っているという。
それまでエリザベートの愛称は「リズ」だったのに、カールだけが呼べる「リーザ」という愛称を2人で考えていた。
「カールには弟しかいないから、女の子が珍しかったのよね。それもあんなに可愛い女の子。『リーザは僕が守るんだ』と言って、それまで嫌っていた剣の稽古を真面目にしだしたのよ」
だけど大抵の場合、男の子より女の子の方が先に大きくなる。
出会った頃はエリザベートの方が小さかったのに、気がつけばエリザベートの方が背が高くなってしまった。それに気がついた時のカールの衝撃は大きい。
「この子ったらすっかり落ち込んでしまって。これじゃあリーザを守れない。嫌われるって泣いていたわねぇ」
「あら、リズも泣いていましたのよ。『もうカール様に可愛いと思ってもらえないわ。嫌われたらどうしよう』って」
「母上!」
「お母様!もうお止めください!!」
カールとエリザベートが揃って抗議の声を上げる。
だけどアンヌとゾフィーの「まあまあ!お2人とも可愛らしいですわぁ」「微笑ましいですわねぇ」という声にかき消されて2人の母親には届かなかった。
3
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる