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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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しばらくしてルイが眠りにつくと、カールは前国王と、エリザベートは前王妃と二組に別れて過ごすことになった。
カールは政務について相談したいことがあるらしく、2人で書斎へ消えていく。カールにとって父親は誰より信頼できる助言者だろう。前国王も息子に頼られるのが嬉しそうだ。
2人と別れたエリザベートは前王妃と一緒に応接間へ移った。
以前は義母に招かれた部屋で、今はエリザベートが主として義母を持て成す。義母が使っていたお気に入りの調度品は離宮へ移る時にすべて運び出されているので今置かれているのはエリザベートの好みのものだ。同じ部屋のはずなのに違う部屋のように見える。
部屋の中を見渡した前王妃は感慨深く頷いた。
「とても良いお部屋だわ。それにあの子は薔薇の宮で暮らしているのね」
薔薇の宮に夫婦の寝室はない。あるのは王妃の寝室だけだ。
国王が夜に訪れると王妃は寝室で国王を持て成す。それ以外の時は他の側妃の離宮へ行っているか鳳凰の宮で休むかだ。
だけどこの部屋を見渡してみると、カールの私物がいくつも置かれていた。本来なら薔薇の宮にないはずの書斎があることでも明らかだ。
カールは鳳凰の宮をほとんど使わず、薔薇の宮を生活の場にしているのだろう。
「……はい。カール様は毎日私のところへ帰ってきて下さいます」
これはエリザベートにとっても予想外のことだった。
カールの婚約者として国王夫妻の暮らしを見てきたエリザベートはそれが当然のことだと思っていたし、妃教育でもそういうものだと教えられた。だけどカールは「慣例から外れる」と周りに諫められても黎明の宮にいた頃と同じ生活を崩さなかった。
「私の部屋の並びにカール様の寝室もあるのです」
「あらまあ」
前王妃は目を見開いた。
驚いているというよりは呆れているようだ。
薔薇の宮は広いので空いている部屋をどんな風に使おうと勝手だが、別々に寝るのなら何の意味があるのだろうか。鳳凰の宮へ帰れば良いじゃないか――。
そんな気持ちが伝わってきてエリザベートは苦笑した。
薔薇の宮にカールの寝室が作られたのは、エリザベートの具合が悪い時に眠る場所が必要だったからだ。
多少熱が出ているだけなら一緒に寝ているが、高熱にうなされる時は別々の方が良い。
確かにその時は鳳凰の宮で休んでも良いと思う。
だけどカールはそんな時こそ傍にいたいと譲らなかった。別の宮でどうしているのか、変わりないかハラハラしているより傍で様子を見ていたいと言う。そしてエリザベートもカールが傍にいてくれると安心できるので結局甘えてしまうのだ。
「ですがカール様には本当に負担を掛けてしまいました。申し訳なく思います」
エリザベートが長く公務を休んでいるので、カールは2人分の仕事をしていることになる。
書斎があるのは執務時間中に終わらなかった仕事をここでする為だ。
いつも一緒に寝ていてもエリザベートが眠った後にベッドを抜け出し、執務の続きをしているのを知っていた。
「以前私との婚約を続ける条件として、私が公務につけない時はカール様がすべて補うように言われましたでしょう?カール様は今もそれを忠実に守っておられるのです」
それが我儘を通した自分のけじめだと思っているのかもしれない。
離宮の管理など本来なら執事に代行させられる仕事もカールがすべて担っていた。
「我が子ながら融通の利かない子ねえ」
義母はやはり呆れているようだった。
カールは政務について相談したいことがあるらしく、2人で書斎へ消えていく。カールにとって父親は誰より信頼できる助言者だろう。前国王も息子に頼られるのが嬉しそうだ。
2人と別れたエリザベートは前王妃と一緒に応接間へ移った。
以前は義母に招かれた部屋で、今はエリザベートが主として義母を持て成す。義母が使っていたお気に入りの調度品は離宮へ移る時にすべて運び出されているので今置かれているのはエリザベートの好みのものだ。同じ部屋のはずなのに違う部屋のように見える。
部屋の中を見渡した前王妃は感慨深く頷いた。
「とても良いお部屋だわ。それにあの子は薔薇の宮で暮らしているのね」
薔薇の宮に夫婦の寝室はない。あるのは王妃の寝室だけだ。
国王が夜に訪れると王妃は寝室で国王を持て成す。それ以外の時は他の側妃の離宮へ行っているか鳳凰の宮で休むかだ。
だけどこの部屋を見渡してみると、カールの私物がいくつも置かれていた。本来なら薔薇の宮にないはずの書斎があることでも明らかだ。
カールは鳳凰の宮をほとんど使わず、薔薇の宮を生活の場にしているのだろう。
「……はい。カール様は毎日私のところへ帰ってきて下さいます」
これはエリザベートにとっても予想外のことだった。
カールの婚約者として国王夫妻の暮らしを見てきたエリザベートはそれが当然のことだと思っていたし、妃教育でもそういうものだと教えられた。だけどカールは「慣例から外れる」と周りに諫められても黎明の宮にいた頃と同じ生活を崩さなかった。
「私の部屋の並びにカール様の寝室もあるのです」
「あらまあ」
前王妃は目を見開いた。
驚いているというよりは呆れているようだ。
薔薇の宮は広いので空いている部屋をどんな風に使おうと勝手だが、別々に寝るのなら何の意味があるのだろうか。鳳凰の宮へ帰れば良いじゃないか――。
そんな気持ちが伝わってきてエリザベートは苦笑した。
薔薇の宮にカールの寝室が作られたのは、エリザベートの具合が悪い時に眠る場所が必要だったからだ。
多少熱が出ているだけなら一緒に寝ているが、高熱にうなされる時は別々の方が良い。
確かにその時は鳳凰の宮で休んでも良いと思う。
だけどカールはそんな時こそ傍にいたいと譲らなかった。別の宮でどうしているのか、変わりないかハラハラしているより傍で様子を見ていたいと言う。そしてエリザベートもカールが傍にいてくれると安心できるので結局甘えてしまうのだ。
「ですがカール様には本当に負担を掛けてしまいました。申し訳なく思います」
エリザベートが長く公務を休んでいるので、カールは2人分の仕事をしていることになる。
書斎があるのは執務時間中に終わらなかった仕事をここでする為だ。
いつも一緒に寝ていてもエリザベートが眠った後にベッドを抜け出し、執務の続きをしているのを知っていた。
「以前私との婚約を続ける条件として、私が公務につけない時はカール様がすべて補うように言われましたでしょう?カール様は今もそれを忠実に守っておられるのです」
それが我儘を通した自分のけじめだと思っているのかもしれない。
離宮の管理など本来なら執事に代行させられる仕事もカールがすべて担っていた。
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義母はやはり呆れているようだった。
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