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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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それから約1ヶ月後、エリザベートは無事に出産を果たした。
生まれたのはエリザベートが思っていた通り可愛い男の子だ。
男性は近づけない薔薇の宮の一角にある子を生むための部屋で、生まれたばかりの息子を抱いたエリザベートはその愛らしい姿に涙を止めることができなかった。
「ありがとう。生まれてきてくれてありがとう……」
何度もそう呟きながら柔らかい額に口づけを落とす。
まだ何もわかっていないだろう赤子は、それでも嬉しそうに見えた。
カールが子に会えたのは、子がエリザベートと共に寝室へ移ってから。
今か今かとそわそわしながら待っていたカールは、侍女に抱かれた子を見た途端に涙を溢した。
「ありがとう、リーザ。ありがとう……」
エリザベートがベッドで横になると、傍に座ったカールへ侍女が赤子を手渡す。
おっかなびっくり赤子を抱いたカールは、その軽いけれど確かな重みに一度止まっていたはずの涙をまた溢れさせた。
抱いているのは一度は諦めたこともある我が子だ。
「可愛い。可愛いよ……っ」
カールはふわふわの産毛に何度も頬擦りをする。
その姿を見ていると、幸せな気持ちと一緒に、子を抱かせてあげられて良かったという安堵が込み上げてきた。
赤子はルイと名付けられた。
まだ綿菓子みたいにふわふわの髪は金色で、青色の目をしている。
金色の髪も青色の目も王家に受け継がれる色で、カールは勿論、数代前の王弟の血を引くエリザベートも同じ色をしている。親子3人同じ色だ。
以前はお互いに相手の色を纏っていても自分の色を着ているようで残念に思うこともあったけれど、3人お揃いだと思うと凄く特別な色のように思えた。
「リーザ、具合はどうだ?辛くないか?」
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ。随分良くなりましたし……、幸せですもの」
無事に出産を終えたエリザベートだが、やはり体の負担は大きかったようでその日の夜から寝込んでいた。
だけど熱が高い時も、体がだるくて寝返りを打つのが辛い時でも、ルイの姿を見れば体の辛さは消えていき、幸せに満たされる。
貴族の家の子どもは生まれた時から子ども部屋で過ごすものだ。面倒を見るのは乳母で、両親は手の空いた時に少しだけ様子を見に行く。母親が病気で寝込んでいれば互いに顔を見ることもままならないだろう。
そうして大抵の子どもは母親より乳母に懐いていく。
だけどルイは違っていた。カールの発案で子ども部屋の他にエリザベートの寝室にもベビーベッドが置かれ、明るい間はそこで過ごしている。
これはエリザベートが人に感染る病ではないからできることだ。ベビーベッドはエリザベートの目線の高さに合されているので、体勢を変えなくても横を見ればルイを見ることができる。
時にはルイの泣き声で起こされることもあったが、少しも不快だとは感じなかった。
「こんなにルイとのんびり過ごせるのは今のうちだけですもの。楽しみますわ」
出産してしばらくは高熱が続いていたが、体調は順調に回復してきている。体を動かせるようになれば王妃としての職務に戻らなければならない。
只でさえ妊娠してから長く休んでしまっているのだ。カールに大きな負担を掛けているのもわかっている。
「カール様こそお疲れでしょう?少しお休みになってください」
エリザベートはカールにベッドへ入るよう促した。
少しでも仮眠を取ればと思ったのだ。
だけどカールは笑って首を振る。
「そんなことは気にしなくて良い。リーザとルイがいてくれれば幸せなんだ」
そう言ってカールはエリザベートの額に口づけると、ベビーベッドのルイを抱き上げた。
カールはこうして何度も様子を見に来てくれるが、すぐに執務へ戻らなくてはならないのでルイと長い時間を過ごせずにいるのだ。
今は眠るよりルイと触れ合っていたいのだろう。
そう思ったエリザベートは、それ以上何も言わずに微笑ましい父子の姿を眺めることにした。
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生まれたのはエリザベートが思っていた通り可愛い男の子だ。
男性は近づけない薔薇の宮の一角にある子を生むための部屋で、生まれたばかりの息子を抱いたエリザベートはその愛らしい姿に涙を止めることができなかった。
「ありがとう。生まれてきてくれてありがとう……」
何度もそう呟きながら柔らかい額に口づけを落とす。
まだ何もわかっていないだろう赤子は、それでも嬉しそうに見えた。
カールが子に会えたのは、子がエリザベートと共に寝室へ移ってから。
今か今かとそわそわしながら待っていたカールは、侍女に抱かれた子を見た途端に涙を溢した。
「ありがとう、リーザ。ありがとう……」
エリザベートがベッドで横になると、傍に座ったカールへ侍女が赤子を手渡す。
おっかなびっくり赤子を抱いたカールは、その軽いけれど確かな重みに一度止まっていたはずの涙をまた溢れさせた。
抱いているのは一度は諦めたこともある我が子だ。
「可愛い。可愛いよ……っ」
カールはふわふわの産毛に何度も頬擦りをする。
その姿を見ていると、幸せな気持ちと一緒に、子を抱かせてあげられて良かったという安堵が込み上げてきた。
赤子はルイと名付けられた。
まだ綿菓子みたいにふわふわの髪は金色で、青色の目をしている。
金色の髪も青色の目も王家に受け継がれる色で、カールは勿論、数代前の王弟の血を引くエリザベートも同じ色をしている。親子3人同じ色だ。
以前はお互いに相手の色を纏っていても自分の色を着ているようで残念に思うこともあったけれど、3人お揃いだと思うと凄く特別な色のように思えた。
「リーザ、具合はどうだ?辛くないか?」
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ。随分良くなりましたし……、幸せですもの」
無事に出産を終えたエリザベートだが、やはり体の負担は大きかったようでその日の夜から寝込んでいた。
だけど熱が高い時も、体がだるくて寝返りを打つのが辛い時でも、ルイの姿を見れば体の辛さは消えていき、幸せに満たされる。
貴族の家の子どもは生まれた時から子ども部屋で過ごすものだ。面倒を見るのは乳母で、両親は手の空いた時に少しだけ様子を見に行く。母親が病気で寝込んでいれば互いに顔を見ることもままならないだろう。
そうして大抵の子どもは母親より乳母に懐いていく。
だけどルイは違っていた。カールの発案で子ども部屋の他にエリザベートの寝室にもベビーベッドが置かれ、明るい間はそこで過ごしている。
これはエリザベートが人に感染る病ではないからできることだ。ベビーベッドはエリザベートの目線の高さに合されているので、体勢を変えなくても横を見ればルイを見ることができる。
時にはルイの泣き声で起こされることもあったが、少しも不快だとは感じなかった。
「こんなにルイとのんびり過ごせるのは今のうちだけですもの。楽しみますわ」
出産してしばらくは高熱が続いていたが、体調は順調に回復してきている。体を動かせるようになれば王妃としての職務に戻らなければならない。
只でさえ妊娠してから長く休んでしまっているのだ。カールに大きな負担を掛けているのもわかっている。
「カール様こそお疲れでしょう?少しお休みになってください」
エリザベートはカールにベッドへ入るよう促した。
少しでも仮眠を取ればと思ったのだ。
だけどカールは笑って首を振る。
「そんなことは気にしなくて良い。リーザとルイがいてくれれば幸せなんだ」
そう言ってカールはエリザベートの額に口づけると、ベビーベッドのルイを抱き上げた。
カールはこうして何度も様子を見に来てくれるが、すぐに執務へ戻らなくてはならないのでルイと長い時間を過ごせずにいるのだ。
今は眠るよりルイと触れ合っていたいのだろう。
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