影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
上 下
31 / 140
2章 ~過去 カールとエリザベート~

8

しおりを挟む
 第二王子が伯爵位を賜り王都を出た2年後、第三王子が公爵位を賜りマクロイド公爵となった。
 エリザベートとしては、子のいないカールの為に王籍のまま残って欲しかったけれど、卒業後は臣籍に下るという第三王子の決意は固かった。
 彼らの確執を身近で見ていたエリザベートに強く止めることはできない。立場の強いカールと違って異母兄あにの標的にされていたのは彼なのだ。



「なんだか宮の中が静かになって、淋しくなってしまったわ」

「王子殿下が皆独立されましたものね」

 エリザベートは王妃に招かれ、薔薇の宮に来ていた。
 王妃は優雅に紅茶を口へ運ぶ。その表情は淋しそうで、だけど誇らし気でもあった。

 この国で王子は生母の住む宮で育つ。それは王太子であっても例外ではなく、学園を卒業して独立する時に黎明の宮へ移るのだ。
 カールが黎明の宮へ移り、今度は第三王子が独立して王都の公爵邸へ移った。同時に彼らに仕える侍女や侍従、護衛なども移ったので、出入りする人の数が減ってしまった薔薇の宮が静かに感じられるのも当然のことだった。

「そうなの。覚悟はしていたけれど、こんなに静かになってしまうとは思わなくて。だから今日は義娘あなたに慰めてもらおうと思ったのだけど、急に呼び出したりしてごめんなさいね」

「まあ、とんでもございませんわ」

 エリザベートも紅茶を口へ運ぶ。用意されていたのはエリザベートが好きなお茶だった。
 王妃は本当にエリザベートを義娘として歓迎してくれているのだ。

 国王と王妃としてカールとエリザベートの結婚を反対していた2人も、私人としてはエリザベートを可愛がってくれている。幼い頃から2人が想い合っていることも、カールの隣に並ぶ為にエリザベートが重ねた努力も認めてくれているのだ。
 だからエリザベートの中に2人に対する恨みはない。反対に今も世継ぎのことで多大な心配を掛けてしまっていることを申し訳なく思っていた。

「それにしても、は駄目ね。側妃は己の立場を理解したようで随分大人しくなったけれど……。は早晩身を滅ぼすでしょうね」

 王妃が言っているのは伯爵となった第二王子のことだ。
 彼は第三王子が公爵位を賜ったことでまたも騒ぎ立てた。
「なぜ俺が伯爵だったのにあいつが公爵なんだ!」ということだが、王太子の右腕として既に功績を挙げている王子と、贅沢をするばかりで公務から逃げ回っていた王子が同じ扱いのわけがない。
 マクロイド公爵はこれからもカールの補佐として働くことが決まっているので、王都に程近い領地を貰い、王妃の実家から王都の一等地にある邸を公爵邸として譲り受けた。彼はその邸と領地を行き来しながら今後生活することになるだろう。

 いつまでも諦めの悪い元第二王子と違って側妃は現状を悟ったようだ。
 国王に息子を呼び戻す意思はなく、寧ろ嫌悪を募らせていく。実質的に伯爵領の運営を行っているのは王家が派遣した代官だが、国王はその代官を呼び戻すことまで考え始めていた。
 代官が呼び戻されてしまえば伯爵領はお終いだろう。
 あの元第二王子にまともな領政ができるとは思えず、代わりを務められる優秀な代官を見つけることも難しい。
 王子という地位に胡坐をかいていた彼は、優秀な人物と人脈を繋ぐことさえしていなかった。

「側妃殿下はいずれ伯爵領へ赴かれるのでしょうから……。不安でいらっしゃるのでしょう」

「そうでしょうね。あの方は見栄っ張りだから」

 国王が退位すると、国王は1人の妃を選んで離宮へ移る。
 選ばれなかった妃は息子が持つ邸へ移るか、実家が用意した邸へ移らなければならない。
 息子がいるのに実家が用意した邸へ行かなければならないのは、酷く外聞の悪いことだった。
 
 苦笑した王妃を見ながらエリザベートはぼんやりと考える。
 今後カールも側妃を迎えるだろう。
 退位したカールが最後に選ぶのは誰だろうか。
 最後に選んで貰えるのなら、それまでの間に何があったとしてもきっと耐えらえるだろう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

その日がくるまでは

キムラましゅろう
恋愛
好き……大好き。 私は彼の事が好き。 今だけでいい。 彼がこの町にいる間だけは力いっぱい好きでいたい。 この想いを余す事なく伝えたい。 いずれは赦されて王都へ帰る彼と別れるその日がくるまで。 わたしは、彼に想いを伝え続ける。 故あって王都を追われたルークスに、凍える雪の日に拾われたひつじ。 ひつじの事を“メェ”と呼ぶルークスと共に暮らすうちに彼の事が好きになったひつじは素直にその想いを伝え続ける。 確実に訪れる、別れのその日がくるまで。 完全ご都合、ノーリアリティです。 誤字脱字、お許しくださいませ。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

この恋は幻だから

豆狸
恋愛
婚約を解消された侯爵令嬢の元へ、魅了から解放された王太子が訪れる。

処理中です...