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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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第二王子が伯爵位を賜り王都を出た2年後、第三王子が公爵位を賜りマクロイド公爵となった。
エリザベートとしては、子のいないカールの為に王籍のまま残って欲しかったけれど、卒業後は臣籍に下るという第三王子の決意は固かった。
彼らの確執を身近で見ていたエリザベートに強く止めることはできない。立場の強いカールと違って異母兄の標的にされていたのは彼なのだ。
「なんだか宮の中が静かになって、淋しくなってしまったわ」
「王子殿下が皆独立されましたものね」
エリザベートは王妃に招かれ、薔薇の宮に来ていた。
王妃は優雅に紅茶を口へ運ぶ。その表情は淋しそうで、だけど誇らし気でもあった。
この国で王子は生母の住む宮で育つ。それは王太子であっても例外ではなく、学園を卒業して独立する時に黎明の宮へ移るのだ。
カールが黎明の宮へ移り、今度は第三王子が独立して王都の公爵邸へ移った。同時に彼らに仕える侍女や侍従、護衛なども移ったので、出入りする人の数が減ってしまった薔薇の宮が静かに感じられるのも当然のことだった。
「そうなの。覚悟はしていたけれど、こんなに静かになってしまうとは思わなくて。だから今日は義娘に慰めてもらおうと思ったのだけど、急に呼び出したりしてごめんなさいね」
「まあ、とんでもございませんわ」
エリザベートも紅茶を口へ運ぶ。用意されていたのはエリザベートが好きなお茶だった。
王妃は本当にエリザベートを義娘として歓迎してくれているのだ。
国王と王妃としてカールとエリザベートの結婚を反対していた2人も、私人としてはエリザベートを可愛がってくれている。幼い頃から2人が想い合っていることも、カールの隣に並ぶ為にエリザベートが重ねた努力も認めてくれているのだ。
だからエリザベートの中に2人に対する恨みはない。反対に今も世継ぎのことで多大な心配を掛けてしまっていることを申し訳なく思っていた。
「それにしても、あれは駄目ね。側妃は己の立場を理解したようで随分大人しくなったけれど……。あれは早晩身を滅ぼすでしょうね」
王妃が言っているのは伯爵となった第二王子のことだ。
彼は第三王子が公爵位を賜ったことでまたも騒ぎ立てた。
「なぜ俺が伯爵だったのにあいつが公爵なんだ!」ということだが、王太子の右腕として既に功績を挙げている王子と、贅沢をするばかりで公務から逃げ回っていた王子が同じ扱いのわけがない。
マクロイド公爵はこれからもカールの補佐として働くことが決まっているので、王都に程近い領地を貰い、王妃の実家から王都の一等地にある邸を公爵邸として譲り受けた。彼はその邸と領地を行き来しながら今後生活することになるだろう。
いつまでも諦めの悪い元第二王子と違って側妃は現状を悟ったようだ。
国王に息子を呼び戻す意思はなく、寧ろ嫌悪を募らせていく。実質的に伯爵領の運営を行っているのは王家が派遣した代官だが、国王はその代官を呼び戻すことまで考え始めていた。
代官が呼び戻されてしまえば伯爵領はお終いだろう。
あの元第二王子にまともな領政ができるとは思えず、代わりを務められる優秀な代官を見つけることも難しい。
王子という地位に胡坐をかいていた彼は、優秀な人物と人脈を繋ぐことさえしていなかった。
「側妃殿下はいずれ伯爵領へ赴かれるのでしょうから……。不安でいらっしゃるのでしょう」
「そうでしょうね。あの方は見栄っ張りだから」
国王が退位すると、国王は1人の妃を選んで離宮へ移る。
選ばれなかった妃は息子が持つ邸へ移るか、実家が用意した邸へ移らなければならない。
息子がいるのに実家が用意した邸へ行かなければならないのは、酷く外聞の悪いことだった。
苦笑した王妃を見ながらエリザベートはぼんやりと考える。
今後カールも側妃を迎えるだろう。
退位したカールが最後に選ぶのは誰だろうか。
最後に選んで貰えるのなら、それまでの間に何があったとしてもきっと耐えらえるだろう。
エリザベートとしては、子のいないカールの為に王籍のまま残って欲しかったけれど、卒業後は臣籍に下るという第三王子の決意は固かった。
彼らの確執を身近で見ていたエリザベートに強く止めることはできない。立場の強いカールと違って異母兄の標的にされていたのは彼なのだ。
「なんだか宮の中が静かになって、淋しくなってしまったわ」
「王子殿下が皆独立されましたものね」
エリザベートは王妃に招かれ、薔薇の宮に来ていた。
王妃は優雅に紅茶を口へ運ぶ。その表情は淋しそうで、だけど誇らし気でもあった。
この国で王子は生母の住む宮で育つ。それは王太子であっても例外ではなく、学園を卒業して独立する時に黎明の宮へ移るのだ。
カールが黎明の宮へ移り、今度は第三王子が独立して王都の公爵邸へ移った。同時に彼らに仕える侍女や侍従、護衛なども移ったので、出入りする人の数が減ってしまった薔薇の宮が静かに感じられるのも当然のことだった。
「そうなの。覚悟はしていたけれど、こんなに静かになってしまうとは思わなくて。だから今日は義娘に慰めてもらおうと思ったのだけど、急に呼び出したりしてごめんなさいね」
「まあ、とんでもございませんわ」
エリザベートも紅茶を口へ運ぶ。用意されていたのはエリザベートが好きなお茶だった。
王妃は本当にエリザベートを義娘として歓迎してくれているのだ。
国王と王妃としてカールとエリザベートの結婚を反対していた2人も、私人としてはエリザベートを可愛がってくれている。幼い頃から2人が想い合っていることも、カールの隣に並ぶ為にエリザベートが重ねた努力も認めてくれているのだ。
だからエリザベートの中に2人に対する恨みはない。反対に今も世継ぎのことで多大な心配を掛けてしまっていることを申し訳なく思っていた。
「それにしても、あれは駄目ね。側妃は己の立場を理解したようで随分大人しくなったけれど……。あれは早晩身を滅ぼすでしょうね」
王妃が言っているのは伯爵となった第二王子のことだ。
彼は第三王子が公爵位を賜ったことでまたも騒ぎ立てた。
「なぜ俺が伯爵だったのにあいつが公爵なんだ!」ということだが、王太子の右腕として既に功績を挙げている王子と、贅沢をするばかりで公務から逃げ回っていた王子が同じ扱いのわけがない。
マクロイド公爵はこれからもカールの補佐として働くことが決まっているので、王都に程近い領地を貰い、王妃の実家から王都の一等地にある邸を公爵邸として譲り受けた。彼はその邸と領地を行き来しながら今後生活することになるだろう。
いつまでも諦めの悪い元第二王子と違って側妃は現状を悟ったようだ。
国王に息子を呼び戻す意思はなく、寧ろ嫌悪を募らせていく。実質的に伯爵領の運営を行っているのは王家が派遣した代官だが、国王はその代官を呼び戻すことまで考え始めていた。
代官が呼び戻されてしまえば伯爵領はお終いだろう。
あの元第二王子にまともな領政ができるとは思えず、代わりを務められる優秀な代官を見つけることも難しい。
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「側妃殿下はいずれ伯爵領へ赴かれるのでしょうから……。不安でいらっしゃるのでしょう」
「そうでしょうね。あの方は見栄っ張りだから」
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苦笑した王妃を見ながらエリザベートはぼんやりと考える。
今後カールも側妃を迎えるだろう。
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最後に選んで貰えるのなら、それまでの間に何があったとしてもきっと耐えらえるだろう。
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