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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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式の翌日から1ヶ月はすべての公務を休むことになっていた。
王位を継ぐ者は正妃を迎えた後、正妃と共に国内をまわると決められている。普段は中々王都を離れることができないので、この機会に国内を見て、地方の貴族と交流するのだ。新婚旅行と視察が一緒になっているようなもので、これ自体が公務と言えなくはない。
ちなみにこの休暇が許されているのは正妃を迎えた時だけで、側妃を迎えても旅に出ることはできない。
式の翌朝、目を覚ましたらエリザベートは熱を出していた。
あの病があってから疲れが溜まりやすくなったらしく、忙しいことが続くと熱を出すようになったのだ。
昨日は結婚式、パレードと続いた後に結婚披露パーティーがあり、その後初夜を迎えた。
カールはエリザベートに無理をさせないようゆっくりと丁寧にコトを進めたが、こうなるだろうことは予想していた。
「申し訳ありません……」
ベッドの中からカールを見上げるエリザベートの瞳は潤んでいた。
決して熱のせいではないだろう。弱くなってしまった己の体が不甲斐なく、情けなく感じているのだ。
だけどカールは「気にしなくて良い」と優しく髪を撫でる。
「今日はゆっくりするつもりだったんだ。眠っていいよ」
エリザベートの熱は、体調を崩した時に安静にしていればいつも翌日に下がっていた。だけど隠して無理をすれば何日も高熱で寝込むことになる。
これまでの経験でそれがわかっているから、エリザベートは大人しく目を閉じた。
やがて静かな寝息が聞こえるようになると、カールはそっと頬に口づけて用意していた本を開いた。
休みになったひと月で各地をまわるといっても必ず式の翌日に出発しないといけないわけではない。歴代の王太子には三日三晩寝室に籠もった後にすっきりした表情で出発したという者もいる。
つき合わされた正妃には同情するが、そんな事例もあるので翌日すぐに出発すればかえって2人の仲が疑われ、仮面夫婦ではないかと言われたりする。だから1日くらいは寝室に籠もっている方が良いのだ。
エリザベートは眠ってしまったし、2人が睦み合っていると思わせる為に部屋を出ることもできないが、それが何だというのだろう。
すぐ近くでエリザベートの寝顔を見守ることができる。これ以上の幸せがあるだろうか。
カールは穏やかな気持ちでエリザベートを見守り、のんびりと本を読んでは少し眠ったりして1日を過ごした。
その翌日、すっかり回復したエリザベートはカールと共に旅に出た。
途中馬車での移動が続いて疲れたエリザベートが熱を出すことも度々あったが、いずれも1日で回復し、たくさんの景色と料理を味わい、多くの人々と触れ合える実り多き時間を過ごした。
王位を継ぐ者は正妃を迎えた後、正妃と共に国内をまわると決められている。普段は中々王都を離れることができないので、この機会に国内を見て、地方の貴族と交流するのだ。新婚旅行と視察が一緒になっているようなもので、これ自体が公務と言えなくはない。
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式の翌朝、目を覚ましたらエリザベートは熱を出していた。
あの病があってから疲れが溜まりやすくなったらしく、忙しいことが続くと熱を出すようになったのだ。
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「申し訳ありません……」
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決して熱のせいではないだろう。弱くなってしまった己の体が不甲斐なく、情けなく感じているのだ。
だけどカールは「気にしなくて良い」と優しく髪を撫でる。
「今日はゆっくりするつもりだったんだ。眠っていいよ」
エリザベートの熱は、体調を崩した時に安静にしていればいつも翌日に下がっていた。だけど隠して無理をすれば何日も高熱で寝込むことになる。
これまでの経験でそれがわかっているから、エリザベートは大人しく目を閉じた。
やがて静かな寝息が聞こえるようになると、カールはそっと頬に口づけて用意していた本を開いた。
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つき合わされた正妃には同情するが、そんな事例もあるので翌日すぐに出発すればかえって2人の仲が疑われ、仮面夫婦ではないかと言われたりする。だから1日くらいは寝室に籠もっている方が良いのだ。
エリザベートは眠ってしまったし、2人が睦み合っていると思わせる為に部屋を出ることもできないが、それが何だというのだろう。
すぐ近くでエリザベートの寝顔を見守ることができる。これ以上の幸せがあるだろうか。
カールは穏やかな気持ちでエリザベートを見守り、のんびりと本を読んでは少し眠ったりして1日を過ごした。
その翌日、すっかり回復したエリザベートはカールと共に旅に出た。
途中馬車での移動が続いて疲れたエリザベートが熱を出すことも度々あったが、いずれも1日で回復し、たくさんの景色と料理を味わい、多くの人々と触れ合える実り多き時間を過ごした。
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