27 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~
4
しおりを挟む
カールとエリザベートは学園を卒業後、本来なら結婚式の準備に1年掛けるところを半年で結婚した。
誰の気も変わらないように、カールが急いだのだ。
ダシェンボード公爵夫妻やリチャードたちは、式の直前まで「本当に大丈夫なのか?」とエリザベートを心配していた。
エリザベートはダシェンボード公爵家の長女だが、リチャードの他にも2人の兄がいる。
公爵夫妻は4人目で生まれた初めての娘を、リチャードたち3人の兄も最後に生まれた唯一の妹を、殊の外可愛がっているのだ。エリザベートが幼い頃は、誰に一番懐いているのか3人で競っていたくらいである。
もう後戻りできないところまで準備が進んでからも、「やはり止めた方が良いのでは」と言いたげな家族にエリザベートは微笑んで首肯する。
「もう覚悟を決めましたから」と応えるエリザベートが何の覚悟を決めていたのか、この時のカールにはわからなかった。
ただ病を得たエリザベートが王太子妃という重責を担うことが心配なのだろうと思ったカールは、彼らが安心して送り出せるように式の準備で多忙の間もできる限りエリザベートに寄り添った。
2人が互いに想い合っているのは公爵家の者もみんなわかっているので、幸せそうに微笑み合う2人を見て引き留めるのは諦めたようだ。
結婚式は青天の中行われた。
王太子妃になる者として伝統的な形でありながら最新の流行を取り入れたドレスに自作のレース飾りを施したロングベールをつけたエリザベートはこの世のものとは思えない程美しかった。
ドレスの製作や小物選びを一緒にしていても実際に身につけたところを見るのはこれが初めてだ。
ダシェンボード公爵に手を取られ、長いバージンロードをしずしずと歩くエリザベートにカールは見惚れていた。
視線を奪われていたのはカールだけではない。
大聖堂にびっちり並んだ参列者たちも、男性はその美しい姿に感嘆の息をつき、女性は羨望と憧憬の混ざった視線を向ける。
エリザベートがカールの元へたどり着くまで誰もが視線を外すことができなかった。
「王国法と神の御名において、2人を夫婦と認めます」
大司祭がそう告げた時、カールは思わず泣いていた。
こんな時、感動して涙を流すのは女性の方ではないのか。
そう思っても、自然と溢れ出る涙を止めることができない。
微笑んだエリザベートが手を伸ばして涙を拭いてくれた。涙でレースグローブが濡れるの気にならないようだ。
カールはその手を取って手のひらへ口づける。
「愛している、リーザ。君と生涯を共にできることを幸せに思う」
「私も愛しています。カール様と結婚できて幸せですわ」
参列者たちは、みんな2人が深く愛し合っていることを知っていた。
病でエリザベートを永遠に喪いかけたことも、病が癒えた後も政治的懸念から引き裂かれそうになっていたことも。
それらの試練を乗り越え結ばれた2人に、大聖堂は感動で包まれた。
込み上げてきた熱いものを拭う者たちがあちらこちらで目撃されたのだった。
誰の気も変わらないように、カールが急いだのだ。
ダシェンボード公爵夫妻やリチャードたちは、式の直前まで「本当に大丈夫なのか?」とエリザベートを心配していた。
エリザベートはダシェンボード公爵家の長女だが、リチャードの他にも2人の兄がいる。
公爵夫妻は4人目で生まれた初めての娘を、リチャードたち3人の兄も最後に生まれた唯一の妹を、殊の外可愛がっているのだ。エリザベートが幼い頃は、誰に一番懐いているのか3人で競っていたくらいである。
もう後戻りできないところまで準備が進んでからも、「やはり止めた方が良いのでは」と言いたげな家族にエリザベートは微笑んで首肯する。
「もう覚悟を決めましたから」と応えるエリザベートが何の覚悟を決めていたのか、この時のカールにはわからなかった。
ただ病を得たエリザベートが王太子妃という重責を担うことが心配なのだろうと思ったカールは、彼らが安心して送り出せるように式の準備で多忙の間もできる限りエリザベートに寄り添った。
2人が互いに想い合っているのは公爵家の者もみんなわかっているので、幸せそうに微笑み合う2人を見て引き留めるのは諦めたようだ。
結婚式は青天の中行われた。
王太子妃になる者として伝統的な形でありながら最新の流行を取り入れたドレスに自作のレース飾りを施したロングベールをつけたエリザベートはこの世のものとは思えない程美しかった。
ドレスの製作や小物選びを一緒にしていても実際に身につけたところを見るのはこれが初めてだ。
ダシェンボード公爵に手を取られ、長いバージンロードをしずしずと歩くエリザベートにカールは見惚れていた。
視線を奪われていたのはカールだけではない。
大聖堂にびっちり並んだ参列者たちも、男性はその美しい姿に感嘆の息をつき、女性は羨望と憧憬の混ざった視線を向ける。
エリザベートがカールの元へたどり着くまで誰もが視線を外すことができなかった。
「王国法と神の御名において、2人を夫婦と認めます」
大司祭がそう告げた時、カールは思わず泣いていた。
こんな時、感動して涙を流すのは女性の方ではないのか。
そう思っても、自然と溢れ出る涙を止めることができない。
微笑んだエリザベートが手を伸ばして涙を拭いてくれた。涙でレースグローブが濡れるの気にならないようだ。
カールはその手を取って手のひらへ口づける。
「愛している、リーザ。君と生涯を共にできることを幸せに思う」
「私も愛しています。カール様と結婚できて幸せですわ」
参列者たちは、みんな2人が深く愛し合っていることを知っていた。
病でエリザベートを永遠に喪いかけたことも、病が癒えた後も政治的懸念から引き裂かれそうになっていたことも。
それらの試練を乗り越え結ばれた2人に、大聖堂は感動で包まれた。
込み上げてきた熱いものを拭う者たちがあちらこちらで目撃されたのだった。
5
お気に入りに追加
526
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる